地域交通DX関連銘柄:MaaS・自動運転支援の取り組みと展望

日本電気

人口減少と運転手不足が深刻化し、日本の多くの地域で公共交通網の維持が大きな社会課題となっています。

従来のビジネスモデルが限界を迎える中、デジタル技術で移動のあり方を再設計し、持続可能な交通を実現する「地域交通DX」への期待が急速に高まっています。

本記事では、地域交通DXに取り組む多様なプレイヤーたちの戦略と強みを紹介していきます。

地域交通の内製化支援を行う「富士通」

富士通は、ハードウェア中心のビジネスから、DX社会課題を解決する「サービスソリューション」企業へと、大きな事業変革を推進。その注力分野の一つが、持続可能な「スマートシティ」の基盤となる地域交通DXです。

多くの地域公共交通事業者が深刻な課題を抱える中、富士通は独自の視点でソリューションを提供。単にシステムを納入するだけでなく、自治体などが自らの手で交通設計を行えるようにする「内製化」の支援を行っています。

具体的には、専門家でなくても地域の移動ニーズやコストを精緻に分析できる総合シミュレーションツールなどを提供し、地域主導の交通計画の策定を後押しします。

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他にもスマートフォンなどを活用し、道路の維持管理を効率化する「道路パトロール支援サービス」や、個々の利用者の需要に応じて乗り合い車両を最適に配車する「オンデマンド交通サービス」など、国のプロジェクトとも連携しながら社会実装が進められています。

こうした取り組みは、社会課題解決を目指す同社の「Fujitsu Uvance」の中核に位置づけられています。

テクノロジーの力で、地域が自ら交通の未来を描けるように支援する。富士通の地域交通DXは、従来のシステムインテグレーターの役割に留まらず、地域に伴走するパートナーとしての側面も持ち合わせています。

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AIと生体認証でさまざまなDXを進める「NEC」

日本電気(NEC)は、従来のシステムインテグレーターの枠を超え、自らが実践してきたDXの経験と技術を社会に還元する「Value Driver」への進化を加速させています。

その注力分野の一つが、人手不足やスキル継承といった深刻な課題を抱える、鉄道をはじめとした地域交通のDXです。

同社の戦略は、AIや生体認証といった独自のコア技術を、交通インフラの様々な場面に応用する点にあります。

例えば、鉄道の安全運行を支える「スマートメンテナンス」では、設備の正常状態をAIに学習させ、故障の予兆を捉える先進的なソリューションが提供され、効率的な保全(CBM)への移行が支援されます。

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また、駅の利便性向上を目指す「スマートステーション」の領域では、独自の生体認証技術である顔認証を活用。改札の通過や店舗での決済を“顔パス”で行えるようにするなど、シームレスでストレスフリーな乗客体験の創出が進められています。

さらに、地方や観光地での高齢者や観光客を支援するための自動運転の安全性向上にも貢献。車載センサーだけでは見えない死角の歩行者情報などを、路側のカメラやセンサーで補い、自動運転車に伝える「路車協調システム」の実証を全国で推進しています。

「DX銘柄」にも選定された実績のあるNECは、半世紀以上にわたり交通インフラを支えてきた経験と、AIや生体認証といった技術を活かし、安全で心豊かなモビリティ社会の実現を目指しています。

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Suicaのデジタル基盤を活かす「東日本旅客鉄道(JR東日本)」

東日本旅客鉄道(JR東日本)は、従来の「鉄道インフラ起点」のビジネスから、「ヒトの生活における豊かさ」を起点とした新たな価値提供へと、経営の軸足を大きく転換。その変革を推進する鍵が、デジタル技術を駆使した地域交通DXです。

同社の戦略の核心は、交通系ICカード「Suica」を単なる移動と決済の手段から、地域の暮らしを支える「生活のデバイス」への進化にあります。

Suicaの膨大な利用データを統計化しまちづくりに活かす「駅カルテ」はその一例。さらに、地域の交通事業者がSuicaの仕組みを利用できる共通基盤を提供することで、地域全体の交通ネットワークの利便性向上が図られています。

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また、JR東日本は自社の持つ広範なアセットを活用し、多様なDXソリューションを展開。

地方ではAIによる配車システムを用いた「オンデマンド交通」が導入され、新幹線網の速達性を活かした荷物輸送サービス「はこビュン」は、物流の2024年問題という社会課題にも応える取り組みです。

さらに、全国500カ所以上に展開するサテライトオフィス「STATION WORK」や、新たに開始したネットバンク「JRE BANK」など、駅や鉄道サービスをハブとして、人々の働き方や金融といった暮らしの領域へとサービスが広げられています。

地方交通線の維持という課題に直面する一方、JR東日本はSuicaのデジタル基盤と広大なリアルネットワークを融合させ、3万人のデジタル人材育成という目標を掲げ、地域と共に持続可能な未来を創造する「伴走型地域づくり」に取り組んでいます。

>> 国内最強の決済サービス「Suica」普及の歴史①

東海道新幹線を軸にデータ活用を進める「東海旅客鉄道(JR東海)」

東海旅客鉄道(JR東海)は、日本の経済・文化の大動脈である東海道新幹線を運営し、社会インフラとして重要な役割を担う企業です。

同社は今、その事業基盤を活かしつつ、DXを通じて、単なる輸送サービスにとどまらない新たな価値創造に挑戦しています。

その戦略の核心は、ネット予約「EXサービス」と共通ポイント「TOKAI STATION POINT」を連携させた、顧客との関係強化(CRM)にあります。これにより、個々の顧客の利用データを分析し、ニーズに合わせたサービス提案を行うことで、新たな移動や消費の喚起を促します。

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「移動」そのものの価値を再定義する取り組みも加速しています。

新幹線だけでなく、目的地でのホテルや観光プランまでをシームレスに予約・決済できるMaaSプラットフォームを構築。さらに、「こだま」の業務用室を物流に応用した「東海道マッハ便」も、新たなサービスとして提供されています。

近年では、アニメなどコンテンツと連携した「推し旅」キャンペーンで新たな観光需要を創出したり、駅の空きスペースを地域の活動拠点として活用したりするなど、駅を「通過点」から「交流拠点」へと転換させる試みも始まっています。

東海道新幹線を事業基盤とし、データ活用とサービス創造を両輪とするJR東海は、超電導リニアの開発も進めるなど、日本の大動脈から新たなサービスの創出を目指しています。

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グローバルで交通DXを展開する「TIS」

TISは、国内外で事業を展開する総合IT企業として、その技術力と知見を社会課題の解決に活かすDXを推進。

特に、人口減少や高齢化に直面する日本の「都市集中・地方衰退」という課題に対し、同社は地域交通のDXを重要な解決策と位置づけて事業を展開しています。

同社はインドネシアの交通決済基盤に採用された交通決済パッケージ「Acasia」を開発。

複数の交通機関を横断したルート検索から予約、多様な決済手段までをワンストップで提供するこのプラットフォームは、現在インドネシアでは28都市・15交通事業者と多くの都市へ展開が進められています。

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TISは、この海外での大規模な実績と、決済分野での知見を活かし、沖縄に加え、北関東や東北など国内の他地域においても、MaaS実現を支援するプラットフォームを提供しています。

さらに、未来のモビリティを見据えた取り組みも特徴の一つ。自動運転車を活用した無人移動販売サービス「Robo-Shop」の実証実験を開始するなど、単なる移動の効率化に留まらない、新たなサービスの創出に挑戦しています。

決済システムを基盤とした交通DXプラットフォームをグローバルに展開するTISは、これらの取り組みを通じて、地域交通が抱える課題解決を目指しています。

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自動改札機や信号保安システムのDXを推進「日本信号」

日本信号株式会社は、1928年の設立以来、鉄道信号システムを核として、日本の交通インフラの「安全と信頼」を支えてきたパイオニア企業です。

同社は今、長年培ってきたコア技術にAIやクラウドといったデジタル技術を融合させ、従来の「ものづくり」から、社会課題を解決する「コトづくり」へと、大きな事業変革を遂げようとしています。

その変革を象徴するのが、自動改札機(AFC)事業の進化です。

従来の交通系ICカードを主軸としつつも、クレジットカードのタッチ決済やQRコード、将来的には顔認証といった多様な認証方式にも対応するオープンなプラットフォームへと進化。これにより、利用者の利便性向上と鉄道事業者のキャッシュレス化が支援されています。

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また、鉄道運行の根幹である信号保安システムにおいても、DXが加速。

無線技術を活用した次世代の列車制御システム(CBTC)は、地上設備を大幅に削減できるため、特に地方路線の保守省力化に貢献します。また、駅ホームではカメラ映像をAIが解析し、危険行動を自動で検知するシステムの実証が進められるなど、安全性向上と省人化の両立が目指されています。

さらに、同社はロボティクス&センシング(R&S)事業を新たな成長の柱と位置付け、高所作業を担う鉄道重機や、次世代3D LiDARといったインフラ保守を革新する技術開発にも注力しています。

100年近い歴史で培った「安全と信頼」に関わる知見とデジタル技術を融合させ、日本信号は次世代の交通インフラに向けたソリューションの提供を目指しています。

>> 作っているのは信号機だけじゃない?国内トップシェア「日本信号」