医療DX関連銘柄が生み出す社会的価値とは?データとAIで創る持続可能なヘルスケア

エムスリー

超高齢社会の進展と、それに伴う医療人材の不足。

日本のヘルスケアシステムが大きな岐路に立つ中、データとテクノロジーを活用して医療の質の向上と効率化を図る「医療DX」が、国策としても推進される喫緊の課題となっています。

この変革期を捉え、企業のアプローチは多様化しています。医療従事者を繋ぐプラットフォームを築く企業、医療ビッグデータの解析で価値を創出する企業、特定の業務システムで高いシェアを握る企業、異分野の技術を応用する企業など、各社が独自の強みを発揮しています。

本記事では、こうした医療DXを牽引する主要プレイヤーに焦点を当て、各社の戦略とビジネスモデルを紹介していきます。

写真フィルムの技術を医療DXへ「富士フイルム」

富士フイルムホールディングスは、写真フィルム事業で培った技術資産をヘルスケア分野に応用し、事業構造の転換を図ってきました。

現在、ヘルスケア事業は同社の主要事業の一つとなっており、特に「予防」「診断」「治療」の各領域で医療DXを推進しています。

その戦略の核となるのが、医療AI技術ブランド「REiLI(レイリ)」です。

これは、CTや内視鏡、超音波など、多岐にわたる同社の医療機器にAI技術を組み込み、診断を支援するソリューションの総称。肺結節候補の自動検出や医師の所見文作成支援など、具体的な機能を通じて、医療現場のワークフロー効率化と診断の質の向上に貢献しています。

finboard

同社の特徴は、AIのようなデジタル技術と、独自の材料化学技術との融合に見られます。例えば、写真フィルムの銀塩増幅技術を応用した診断薬は、ウイルスの検出感度向上に貢献した実績があります。

近年では、希少な液体ヘリウムを全く使用しないMRI装置を開発するなど、環境問題といった社会課題の解決にも貢献しています。

写真から医療へと事業領域を広げた同社は、その技術力を医療DXという新たな領域で活用しています。

>> フィルム事業を縮小し多角化! 研究開発に生きる「富士フイルム」の現在

33万人の医師会員が登録する医療従事者専門サイト「エムスリー」

エムスリー株式会社は、インターネットを活用して医療業界が抱える課題の解決に貢献し、医療DXをグローバルに推進する企業です。

同社は独自のプラットフォームを基盤に、M&Aも積極的に活用しながら、医療のあらゆる場面に関わるエコシステムを構築しています。

事業の根幹にあるのが、日本の医師33万人以上が登録する医療従事者専門サイト「m3.com」。この圧倒的な医師会員基盤を武器に、製薬企業のマーケティング活動をDX化する支援事業や、医師・薬剤師の人材紹介事業などを展開しています。

近年では、クラウド電子カルテ「M3デジカル」で国内No.1のシェアを獲得。さらに、予約から決済までをスマートフォンで完結させる「デジスマ診療」を提供し、クリニックの業務効率化と患者の利便性向上を両面から支援する点が特徴です。

他にもエムスリーは、積極的なM&Aによる事業ドメインの拡張も行っています。直近では、入院患者向けサポート事業や福利厚生プラットフォーム事業を手掛ける企業をグループに加えました。

同社はこれらを通じて「ペイシェントソリューション」や「予防医療」といった新たな領域を開拓し、既存事業との連携を図っています。

>> エムスリー子会社「シーユーシー」が上場へ:在宅ホスピスなどで売上352億円

日本最大級の医療ビッグデータで医療DXを推進「JMDC」

JMDCは、「データとICTの力で、持続可能なヘルスケアシステムを実現する」ことを目指し、医療DX分野で事業を展開する企業です。

同社は、健康保険組合や医療機関などから多様なヘルスケアデータを集結させ、その分析・活用を通じて幅広いステークホルダーに価値を提供しています。

JMDCの事業基盤は、保有する日本最大規模の医療ビッグデータ。さらに近年はM&Aにより、高齢者データを豊富に持つ自治体領域のデータも追加しました。

これにより、全年齢層をカバーするデータベースを構築し、事業の独自性を追求しています。

finboard

このデータ基盤を活用し、製薬企業向けにはデータに基づいたマーケティングや医薬品開発を支援しており、同領域は事業の柱の一つとなっています。

また、保険者・生活者向けには、個人の健康状態に合わせたアドバイスを行うPHRサービス「Pep Up」を提供しています。

さらに、放射線診断専門医不足という社会課題に応えるべく、国内最大規模の遠隔読影プラットフォーム(シェア約30%)を展開。WEB問診サービス「メルプ」もクリニック導入数でNo.1の実績を持つなど、具体的な医療サービスの現場でもサービスを提供しています。

独自のデータエコシステムを基盤に、JMDCは医療DXの各領域で事業を展開しています。

>> オムロンとも提携したヘルスビッグデータ企業「JMDC」とはどんな会社か?

事業者向け、患者向け両方の効率化を支援する「メドレー」

メドレーは、医療従事者と事業者をつなぐ「人材プラットフォーム」と、医療機関と患者をつなぐ「医療プラットフォーム」を両輪に、独自のビジネスエコシステムを構築しています。

事業の大きな柱である「人材プラットフォーム」では、成果報酬型の人材採用システム「ジョブメドレー」を展開。テクノロジー活用による効率化で、従来の人材紹介に比べて大幅に低いコストを実現し、多くの医療ヘルスケア事業者の支持を得ています。

現在、日本の医療ヘルスケア事業所の約4割が同社グループの何らかのサービスを利用しており、この顧客基盤を活かして事業を展開しています。

finboard

もう一方の「医療プラットフォーム」では、クラウド診療支援システム「CLINICS」を中核に、医療現場のDXを支援。電子カルテといった基幹システムから、予約・問診、オンライン診療まで統合的な提供が可能です。

特に、患者向けアプリはキャッシュレス決済や処方薬の当日配達までを可能にし、患者目線でのシームレスな医療体験を創出している点が特徴です。

これらのプラットフォームの基盤技術となっているのが、特許も取得した「患者統合基盤」です。

多様な医療システム間のデータ連携を可能にし、政府が推進する医療DXの標準化にも対応しています。さらに、この顧客基盤を活用したファクタリングサービスなど、FinTech領域への事業拡大も進めています。

>> 人材サービスは全国27%の医療事業所が利用!「メドレー」が東証マザーズに上場

調剤システムでトップシェア「イーエムシステムズ」

イーエムシステムズ(EMシステムズ)は、薬局やクリニック、介護施設向けの業務システム開発・販売を手掛けるITサービス企業です。特に薬局向けの調剤システムで、約36%という国内トップシェアを確立しています。

同社の大きな特徴は、業界内で先駆けて、初期費用を抑えた従量課金制(ストック型ビジネス)を導入した点にあります。

これにより、顧客の導入負担を軽減しつつ、同社は安定した収益を得るビジネスモデルとなっています。

finboard

近年では、クラウド技術を全面的に採用した次世代システム「MAPsシリーズ」の展開を加速。薬局向けには、業界初となる全国で利用可能なクラウド型レセコン・電子薬歴一体型システムを提供し、スタッフの働き方改革にも貢献します。

さらに、AIエージェントを活用した「省力店舗運営ソリューション」の開発など、未来の薬局像を見据えた技術革新への取り組みも特徴です。

また、「調剤」「医科」「介護/福祉」という3領域のシステムを連携させることで、地域包括ケアにおける情報連携を円滑にすることを目指せる点が特徴です。

国策としてオンライン資格確認や電子処方箋の普及が進む中、同社はその顧客基盤とシステム連携を活かし、日本の医療DXにおける社会インフラの一つとして事業を展開しています。

>> イーエムシステムズの企業情報

医療ビッグデータのエコサイクルを構築「メディカル・データ・ビジョン」

メディカル・データ・ビジョン(MDV)は、日本最大規模となる実患者数5,200万人超の診療データベースを核に、医療の質の向上と効率化に貢献しています。

MDVのビジネスモデルは、特徴的なエコシステムによって成り立ちます。

まず「データネットワークサービス」として病院に経営支援システムを提供し、業務効率化を支援すると同時に、許諾を得て質の高い医療情報が大規模に蓄積。

そして、この蓄積したデータを匿名加工し、「データ利活用サービス」として製薬会社や研究機関、保険会社などへ提供し、収益を得ています。データ利活用サービスは、EBM(科学的根拠に基づく医療)の推進にも貢献しています。

finboard

また、MDVは個人向けのPHR(パーソナルヘルスレコード)システム「カルテコ」の開発にも注力しています。利用者は自身の医療・健康情報を管理できるだけでなく、AIが3年以内の疾患発症リスクを予測する新機能が搭載されました。

MDVは病院経営支援システムで得た顧客基盤と、そこから得られる医療ビッグデータを事業の基盤とし、データとテクノロジーの力で、生活者、医療機関、そして業界全体の課題解決に向けた取り組みを続けています

>> 医療データ活用で伸びるメディカル・データ・ビジョンの事業モデルが面白い

国策と連携し医療・介護のDXを推進する「カナミックネットワーク」

カナミックネットワークは、医療・介護から健康寿命の延伸まで、ライフステージ全体を支えるヘルスケアプラットフォームを構築する企業です。

超高齢社会という日本の大きな課題に対し、同社は自社のクラウドサービスとリアルサービスを融合させ、ソリューションを提供します。

事業の中核は、多職種間連携を可能にする「カナミッククラウドサービス」にあります。単なる介護事業所向けの業務支援ツールに留まらず、地方自治体や医療機関、介護事業者が情報を共有し連携するためのプラットフォームとしての側面も持ちます。

finboard

特徴として、国の政策と連携している点が挙げられ、厚生労働省の特定の算定要件に対応する民間システムの一つとして採択された実績があります。

また、厚生労働省認定の「指定運動療法施設」である24時間フィットネスジムの運営もその一つ。ITサービスで得られる知見と、リアルな事業で得られるヘルスケアデータを融合させることで、予防から介護までをシームレスに繋ぐ、独自のヘルスケア・エコシステムの構築を目指しています。

さらに、日本の超高齢社会で培ったノウハウを活かし、M&Aを通じてASEAN諸国への海外展開も進めています。

日本の総地域数の約3分の1に導入されている顧客基盤や、制度に対応したサービスを基盤に、カナミックネットワークは「地域包括ケア」の実現に向けた仕組みをテクノロジーで提供しています。

>> 介護・医療分野で高収益「カナミックネットワーク」フィットネスジム買収で売上急拡大