高炉か電炉か?カーボンニュートラル時代に対応する鉄鋼関連銘柄の紹介
自動車からインフラまで、現代社会に不可欠な基幹素材、鉄。
しかし、その製造プロセスは地球環境への影響が大きく、鉄鋼業界は今、カーボンニュートラルという極めて困難な課題と、グローバルな競争激化という二つの大きな岐路に立っています。
この大きな変革の波に対応するため、日本の主要鉄鋼メーカーは、各社が培った技術力を基に、事業構造の転換を進めています。従来の生産量中心の考え方に加え、高機能な製品開発やソリューション提供といった付加価値の追求に注力する動きが見られます。
本記事では、そうした日本の鉄鋼業界をリードする企業たちの、事業戦略や具体的な取り組みを紹介していきます。
日本製鉄は、粗鋼生産量で国内トップ、世界でも有数の規模を誇る鉄鋼メーカーです。
売上高の約9割を占める製鉄事業では、自動車、インフラ、エネルギーといった基幹産業向けに、多種多様な鉄鋼製品を供給。
高耐食めっき鋼板「ZEXEED®」や高圧水素用ステンレス鋼「HRX19®」など、顧客の高度な要求に応える高機能・高付加価値製品を数多く有している点が特徴です。
finboard
また、CO2排出量を削減した鉄鋼製品「NSCarbolex®」ブランドを立ち上げるなど、カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みも推進。
近年では、単に素材を供給するだけでなく、顧客の製造工程にまで踏み込み、最適な利用技術までをパッケージで提案する「ソリューションプロバイダー」としての役割も強化しています。
同社は製鉄事業を中核としながら、製鉄事業に加えて、エンジニアリング、ケミカル&マテリアル、システムソリューションの各事業も展開。これらを通じて「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」を目指しています。
>> USスチール買収をめぐって議論呼ぶ「日本製鉄」米国市場を欲しがる背景とは?
日本の鉄鋼業を支える高炉メーカーであるJFEホールディングス。
同社は今、中国の廉価生産など厳しい事業環境に直面する中で、「量から質へ」という明確な旗印のもと、単なる鉄鋼メーカーから高付加価値なテクノロジー企業への転換を加速させています。
その戦略の軸は、EV(電気自動車)、再生可能エネルギー、そしてカーボンニュートラルなど、時代のトレンドに対応した高付加価値製品への注力にあります。
EVの性能を大きく左右するモーターコア材には、トップグレードの「高性能電磁鋼板」を供給。また、巨大化する洋上風力発電設備には、高品質な「大単重厚鋼板」が不可欠です。
finboard
同社はこれらの次世代産業のキーマテリアルを開発・提供することで、社会の進化への貢献を目指しています。
他にも「グリーン鋼材『JGreeX™』」を開発し、鉄鋼製造プロセスにおけるCO2排出量の削減という新たな価値を提供。これは、脱炭素社会の実現への貢献を目指すとともに、環境性能を重視した製品開発の一環です。
素材を売るだけでなく、顧客の課題を解決するソリューション提案や、インドなど海外成長市場での事業拡大も推進しています。
>> 約2,100億円を調達するJFEホールディングス「GX」で何を目指すのか?
神戸製鋼所は、鉄鋼、アルミ、機械、電力という複数の事業を併せ持つ複合経営企業。特徴的なのは、鉄とアルミの両方を手掛ける世界的にも数少ない企業グループである点です。
同社は、自動車用の高性能な特殊鋼線材で「線材の神戸」と評価を得ているなど、ニッチな領域で高い技術を誇ります。
finboard
近年では、CO2排出量の大幅な削減を特徴とする低CO2高炉鋼材「Kobenable® Steel」を開発。鉄鋼業界の重要課題であるカーボンニュートラルに対し、具体的な製品としてすでに自動車メーカーへの供給を開始し、環境性能という新たな価値を提供しています。
足元の鉄鋼事業はコスト増など厳しい環境にある一方、アルミ事業では損益が改善する動きも見られます。同社は、高品質な素材供給に加え、環境性能を重視した製品開発に取り組んでいます。
>> 神戸製鋼所の企業情報
大同特殊鋼は、高い技術力が求められるニッチな市場に特化することで、独自のポジションを築いています。
同社の注力分野の一つが、自動車以外の成長領域です。半導体製造装置に不可欠な超高清浄ステンレス鋼「クリーンスター®」や、データセンター向けHDDに用いられる高機能材料など、デジタル社会の進展を支える素材を供給。
また、特殊鋼鋼材から機能材料、自動車・産業機械部品、エンジニアリングまで、多様な事業ポートフォリオを構築している点も特徴です。
finboard
また、自動車部品セグメントにおいても、その事業領域は自動車に留まりません。
航空機のエンジン部品やエネルギー掘削関連など、航空機のエンジン部品やエネルギー掘削関連など、高い信頼性が求められる分野向けの鍛造品も手掛けています。
素材開発から部品製造までを一貫して手掛けることで、顧客ニーズを深く捉え、最適なソリューションを提案する。素材開発から部品製造までを一貫して手掛ける体制と、多角的な事業展開が同社の特徴です。
>> 大同特殊鋼の企業情報
鉄鋼業が脱炭素という課題に直面する中、東京製鐵株式会社は、鉄スクラップを原料とする「電炉法」による鉄鋼生産に取り組んでいます。
同社は「資源循環」と「脱炭素」を経営の根幹に据え、独自のポジションを築いています。
finboard
同社の特徴は、鉄鉱石を原料とする高炉法に比べ、製造時のCO2排出量が少ないとされる「電炉法」を採用している点です。この方法は、気候変動への対応が求められる中で注目される特性の一つです。
また、高品質な原料に頼らず、市中から回収される一般的な「老廃鉄スクラップ」から多様な鋼材を生み出す技術開発も進めています。これにより、国内の資源を有効活用した製品づくりを行っています。
近年では、この環境優位性をさらに進化させた低CO₂鋼材ブランド「ほぼゼロ」の提供を開始しました。再生可能エネルギー電力などを活用することで、製品の環境価値をさらに高め、顧客企業の脱炭素化への貢献も目指しています。
>> 東京製鐵の企業情報