中国のEC競争はいま、「どれだけ速く届けるか」を競う即時配送(クイックコマース)の局面に入ったと言われます。ところが、越境EC「Temu」を運営するPDD Holdingsは、この主戦場に背を向けました。即時配送には参入しないと明言し、配送網を伸ばす先に選んだのは、都市ではなく農村です。
背景にあるのは、勝敗を決める場所が変わりつつあるという認識です。販促や配送スピードといった消費者の目に見える「表」の競争ではなく、商品をつくり、磨き、届ける供給網という「裏」の競争へ。同社は競争の土俵ごと、稼ぎ方の土台を組み替えようとしています。
2026年4〜6月期の売上高は1,124億元(前年比8%増)と一桁成長にとどまり、純利益は12%減少しました。それでも経営陣に守りの色はありません。資金は自社ブランド事業、農村への物流網、プラットフォーム統治の強化へと、あらかじめ描いた設計図どおりに流れ込んでいます。
同業と同じ土俵をあえて降りた同社は、何で勝とうとしているのか。減益はどこまで「計画のうち」なのか。決算説明会での経営陣とアナリストの応酬から、その賭けの中身をひもときます。
決算説明会で、あるアナリストが正面から切り込みました。世界の同業各社が即時配送に大規模な投資を進め、当日配送の体制強化を競う中、消費者行動の変化は業界の競争環境と中核事業にどう影響するのか。ユーザーの心をつかみ、シェアを守るためにどんな戦略を取るのか——という問いです。
趙佳臻・共同CEOの答えは、参入見送りの明言でした。即時配送はコアのECや食品事業とは求められる供給網も運営モデルも異なり、「シナジーは限定的だ」と説明。だからこそ、すでに強みを確立し、差別化された価値を生み出せる領域に資源と努力を集中すると言い切りました。
興味深いのは、この判断を支える競争観です。ECは伝統小売に比べて乗り換えコストが低く、業態の進化も競争も速い。それでも消費者が求める核心は、豊富な品揃え、競争力のある価格、より良いサービスから変わらない——前回の決算説明会でも、趙CEOは同じ認識を語っていました。
この線引きは、資源配分の宣言でもあります。即時配送に参入すれば、専用の倉庫網や配送体制への巨額の先行投資が避けられません。同社はその資金を自社ブランドと農村物流に振り向けました。競争が最も過熱している場所から距離を置くことも、一つの戦略判断です。
その帰結として示されたのが、2本柱への集中です。1つは「新質供給」などを通じた良質な商品供給の確保、もう1つはそれを効率的に届けるインフラの構築。配送の速さを競うのではなく、届ける中身と仕組みの厚みで差をつける。即配ブームの外側に、同社は自らの戦場を引き直しました。
グローバル事業には制度の逆風が吹き始めました。EUは今年7月、低価格帯の越境小口貨物に暫定的な関税を導入。あるアナリストは、全体の注文量への影響と、政策逆風下での成長戦略を尋ねました。「安いものを国境越しに直送する」というTemu型モデルの根幹に触れる変化だからです。