【ディープテック・スタートアップ銘柄】日本の未来を担う注目企業とは

CYBERDYNE

日本の新たな成長戦略の核として、長期的な研究開発に基づく革新技術「ディープテック」への期待が高まっています。
かつて大学や大企業の研究室の領域であった先端技術は、今やスタートアップが社会実装の主役として躍り出ました。

この背景には、労働人口減少によるインフラ老朽化や物流問題、世界的な高齢化といった、既存の仕組みでは解決困難な社会課題の深刻化があります。
さらに、経済安全保障の観点から、国家の競争力を左右する先端技術の国内確保は喫緊の課題です。

本稿では、こうした大きな潮流の中で、人機一体のサイバニクス、インフラを支える国産ドローン、そして民間主導で加速する宇宙開発といった、特に注目すべき分野を取り上げます。
これらの分野で独自の技術を武器に巨大な市場を切り拓こうとする企業群について、その戦略とポテンシャルを分析します。

“サイバニクス”で人機一体の未来を創る「CYBERDYNE」

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2004年に設立された、大学発のテクノロジー企業です。
同社は人とサイバー・フィジカル空間を融合するサイバニクス技術を核に事業を展開しています。
主力製品である装着型サイボーグ「HAL」は、医療・福祉から生活・職場分野まで幅広く活用され、「サイバニクス産業」という新たな市場の創出を牽引しています。

同社の技術の中核は、人が体を動かそうとする際に脳から筋肉へ送られる微弱な「生体電位信号」を読み取り、装着者の意図通りに動作をアシストする点にあります。
そして、HALを用いた「サイバニクス治療」は、脳・神経・筋系の機能改善や再生を促す革新的なアプローチとして、日本、米国、欧州などで医療機器承認や認証を取得し、グローバルに展開されています。

世界的な高齢化の進展を背景に、リハビリテーションや自立支援、介護分野における同社技術の需要は今後も拡大が見込まれます。
日常のバイタルデータを収集・解析する「Cyvis」シリーズも展開しており、予防・早期発見領域を今後の事業の柱の一つとして位置づけていると考えられます。
しかし、各国の医療機器承認や保険適用の拡大には時間を要する可能性があり、その進捗が事業展開の速度を左右するリスク要因と言えるでしょう。

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月面輸送サービスのパイオニア「ispace」

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2010年に設立された、月面開発に取り組む宇宙スタートアップです。
月への輸送サービスを事業の柱とし、自社開発の月着陸船や月面探査車を用いて、顧客の荷物を月まで運んでいます。
また、NASAの商業月面輸送サービス(CLPS)の提供企業に選定されるなど、世界的な月探査の機運の中で民間企業として先駆的な存在感を示しています。

同社は、独自の月探査プログラム「HAKUTO-R」を通じて、ランダーの開発と運用ノウハウを蓄積してきました。
ミッションの進捗を複数のマイルストーンに分け、段階的に技術を実証していくアプローチが特徴です。
ペイロード輸送サービスに加え、月面で取得したデータの販売や、データに基づくコンサルテーションといった高付加価値サービスの提供も視野に入れています。

将来的には、月面の水資源を利用した水素バリューチェーンの構築など、月経済圏(Moon Valley)の創出を目指しており、壮大なビジョンを掲げています。
アルテミス計画を筆頭に官民一体となった月開発が進む中、同社が担う輸送インフラは、そのサプライチェーンにおいて重要な位置を占めると考えられます。
その一方で、一回のミッションの成否が事業全体に大きな影響を与えるという極めて高いリスクを伴う事業モデルであることも事実です。

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セキュアな国産ドローンで社会インフラを支える「ACSL」

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2013年に設立された、産業用ドローンの開発から販売までを一気通貫で行う企業です。
近年高まる経済安全保障の観点や「脱中国製品」の流れを背景に、セキュアな国産ドローンメーカーとしての地位を確立しています。
特に、インフラ点検や防災、政府調達といったセキュリティが重視される領域で強みを発揮しており、米国やインド市場への展開も進めています。

同社の競争優位性の源泉は、独自開発の自律制御技術にあります。
中でも、GPSが届かない屋内や橋梁下などでも安定した自律飛行を可能にするVisual SLAM技術は、同社の核心技術です。
この技術を搭載した小型空撮ドローン「SOTEN」などを提供し、顧客の課題に応じた実証実験(PoC)から機体のカスタマイズ、量産までを手掛けています。

ドローン活用の裾野が広がる中、同社はセキュリティ分野での市場シェア拡大を目指しています。また、日本郵便との協業による物流分野への本格進出は、同社の新たな事業領域として注目されます。

一方で、DJI社のような海外メーカーとの競争環境にあり、世界的な半導体高騰や円安進行、インフレによる事業環境の厳しさの中で、コスト構造の転換と、継続的な技術革新が求められます。
さらに、各国でのドローンに関する法規制の変更が事業に影響を及ぼすリスクも存在します。

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宇宙の持続可能性を拓く「アストロスケールホールディングス」

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2013年に設立され、宇宙空間の軌道上サービス事業を展開する企業です。
運用を終えた人工衛星やロケットの残骸といったスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去を主力事業としており、宇宙環境問題の解決を目指す市場の先駆者として独自のポジションを築いています。
日本、英国、米国など世界7カ所に拠点を持ち、グローバルに事業開発や法規制に関する議論を推進している点も特徴です。

同社の核となるのは、RPO(ランデブー・近傍接近運用技術)と呼ばれる、宇宙空間で特定の物体に安全かつ正確に接近するための技術です。
このRPO技術を基盤に、デブリ化防止や除去、衛星の寿命延長サービスなどを提供しています。
さらに、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」は、観測対象のデブリへの接近に成功するなど、世界に先駆けた実績も有しています。

近年、衛星コンステレーション構築の進展により、軌道上の物体は急増しており、デブリ除去サービスの需要は一層高まると考えられます。
現在は政府機関との契約が事業の中心ですが、将来的には民間企業へのサービス拡大も期待されます。
一方で、事業は各国の宇宙政策や予算に影響されるリスクを内包しており、また、市場自体が黎明期であるため、事業環境の変化には注意が必要かもしれません。

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準リアルタイム観測で世界を変える小型SAR衛星の雄「QPS研究所」

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2005年に設立された、九州大学発の宇宙スタートアップです。
天候や昼夜に左右されずに地表を観測できる小型SAR(合成開口レーダー)衛星の開発・製造を行い、取得した画像データを販売する事業を展開しています。
高精細な観測を低コストの小型衛星で実現する独自の技術力を持ち、日本における宇宙ベンチャーとして先駆的な役割を担っています。

同社の最大の特徴は、重量100kg級の小型衛星でありながら、大型衛星に匹敵する高精細な画像を取得できる点にあります。
収納式の大型アンテナなど、独自の技術開発により小型化と高性能化を両立させました。
最終的には36機の衛星を連携させて運用する「衛星コンステレーション」を構築し、世界のほぼどこでも平均10分で観測できる「準リアルタイム観測」の実現を目指しています。

36機コンステレーションが完成した場合、防災・減災や安全保障といった分野で新たな市場創出につながる可能性があります。
そうなれば、データ販売だけでなく、特定の課題解決に向けたソリューション提供といった事業展開も考えられます。
しかし、事業の根幹である衛星の打ち上げには常に失敗のリスクが伴い、また、コンステレーション構築の進捗が事業計画に大きく影響する点はリスク要因と言えます。

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独自プラットフォームでドローン・ロボット社会を実装する「ブルーイノベーション」

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1999年設立の、ドローン・ロボットの遠隔制御・統合管理を実現する独自プラットフォームを開発・提供する企業です。
同社は、複数のドローンやロボットを協調・連携させて複雑な業務を自動化する「Blue Earth Platform(BEP)」を基盤に、点検、物流、教育などの分野でソリューションを展開しています。
ハードウェア製造ではなく、ソフトウェアプラットフォームの提供に特化している点が特徴です。

同社の競争優位性の源泉は、BEPによるデバイス統合・遠隔制御技術にあります。
このプラットフォームにより、メーカーや機種の異なる複数のドローン・ロボットを、一つの画面で同時に管理・自動運用することが可能となります。
加えて、BEPを軸に、顧客の課題に合わせて「ドローン・ロボット機体」と「業務別アプリケーション」を最適に組み合わせたソリューションを提供している点も同社の特徴です。

今後、労働人口減少を背景とした社会インフラの老朽化対策や物流の効率化といった社会課題の解決に向けて、ドローンやロボットの活用市場はさらに拡大することが予想されます。
デバイスに依存しないプラットフォーム事業者として、多様な産業へのソリューション展開による市場シェア拡大が期待されます。
ただし、技術革新のスピードが速い業界であり、継続的な研究開発投資が不可欠な点は考慮すべきでしょう。

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