AI・IoTで「見える化」する海の中。スマート水産業・漁業関連銘柄と技術トレンド
気候変動や資源問題の高まりを受け、世界の水産業は大きな転換期を迎えています。
天然資源に依存した従来のモデルから、持続可能な生産・供給体制への変革が急務となる中、その実現の鍵として、AIやIoTを活用した「スマート水産業」に大きな期待が寄せられています。
本記事では、こうした個性豊かなプレイヤーたちの戦略と独自技術を分析。各社がどのようにして水産業の持続可能性と生産性の両立を目指しているのか。その多角的な取り組みをご紹介します。
古野電気は、1948年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功した、舶用電子機器の総合メーカーです。
同社は今、創業以来の強みである「みえないものをみる」技術と最新のデジタル技術を融合させ、水産業や海運業が抱える課題を解決する「海のDX」を強力に推進。
その取り組みは、漁業のバリューチェーン全体に及びます。次世代の統合漁労システム「スマートブリッジ」は、漁船に搭載された多数の電子機器をネットワークで統合し、操業の効率化と資源管理の両立を支援。
陸上から定置網の中をリアルタイムでモニタリングする「漁視™ネット」は、漁業者の働き方改革への貢献を目指しています。さらに養殖業向けには、魚の成長をデータで管理するアプリ「Aqua Scope」を提供し、生産効率の向上を支援します。
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また、未来の海洋モビリティを見据え、無人運航船の実現を目指す国家プロジェクト「MEGURI2040」にも参画。陸上から複数の船を遠隔で支援するセンターを自社内に開設するなど、自律航行支援システムの社会実装を加速させています。
これらの多様なソリューションから得られるデータを集約し、他社とも連携して新たな価値を共創することで、業界全体のDXを推進するオープンな取り組みも進めています。
舶用事業を国内外で展開する中、古野電気は単なる機器メーカーに留まらず、海洋データを活用して「安全安心で環境に優しい社会・航海」の実現に貢献するソリューションプロバイダーへの転換を図っています。
>> 古野電気の企業情報
シーエーシー(CAC)は、金融向けシステム開発などで長年の実績を持つ独立系ITサービス企業です。
同社は今、その得意とするIT技術とAIの知見を、日本の重要な地域産業である水産業、特に養殖業が抱える課題の解決に応用し、スマート水産業という新たな領域への挑戦を開始しました。
CACが着目したのは、養殖業の「生産性」と「資金調達」という二つの課題。これらの課題に対して、同社は画像認識AIを活用した独自の「魚体鑑定システム」を開発しています。
これは水中カメラで撮影した動画から養殖魚の体重を非接触で推定し、生簀全体の資産価値(時価)をデータとして「見える化」するものです。
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この技術は、養殖業者の資金調達を円滑にすることを目指したものです。
これまで評価が難しかった生簀の魚を、客観的なデータに基づいて動産として評価することで、それを担保とした新たな金融サービス(ABL:動産担保融資)の道を開くことを目指しています。これは、金融に強みを持つCACならではのユニークなアプローチと言えるでしょう。
さらに同社は、このビジネスモデルの有効性を自ら証明すべく、100%子会社として養殖事業を営む「株式会社ながさきマリンファーム」を設立。開発したシステムを実際に導入し、「スマート養殖」を実践することで、現場の知見をフィードバックし、サービスの完成度を高める計画です。
ITサービスで培った技術力と、自ら事業を営むという強いコミットメント。CACは、テクノロジーと金融の融合で、水産業の持続可能な未来を創造しようとしています。
富士通は、社会課題解決を目指す「サービスソリューション事業」へ注力する中、同社の技術力を水産業が抱える課題解決への応用を進めています。
「Fishtech」というコンセプトを掲げ、水産資源の持続可能性や、業界の生産性向上に貢献する、独自のスマート水産ソリューションを展開。
水産業のバリューチェーン全体の発展を目指しながら、現在は陸上養殖の分野に注力しています。
陸上養殖の分野では、IoTセンサーなどで養殖環境を「見える化」する養殖管理システム「Fishtech®」を提供。北海道の漁村では、このシステムを活用して新ブランド「冬うに」を創出し、地域活性化への貢献実績があります。
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水産加工の現場では、さらにユニークなAIソリューションが生まれています。
独自の超音波解析AI技術を搭載した「ソノファイT-01」は、冷凍マグロの脂のりを非破壊で高速判定する製品です。熟練の目利きに頼っていた作業のデジタル化により、品質の安定化と業務の効率化に貢献します。
さらに未来を見据え、自律型無人潜水機(AUV)とAIを組み合わせた「海洋デジタルツイン」の実現にも挑戦しています。海中の生物や構造物を高精細な3Dデータとして取得し、ブルーカーボン吸収量の把握など、海洋生態系の保全への貢献を目指します。
総務省や内閣府から数々の賞を受賞するなど、その先進的な取り組みは外部からも高く評価されています。富士通は、自社のコアAI技術基盤「Fujitsu Kozuchi」をベースに、持続可能な水産業の未来をテクノロジーで支えることを目指しています。
>> 富士通の企業情報
マルハニチロは、世界有数の水産会社から、海洋を起点とした「食」の社会課題を解決する「ソリューションカンパニー」への変革を推進。
気候変動や資源問題といった大きな課題に対し、同社はテクノロジーを駆使したスマート水産業を、事業の重要な柱の一つと位置付けています。
その戦略の核心は、天然資源への依存を減らし、持続可能なタンパク質供給を実現する「養殖事業の高度化」にあります。
同社は、民間企業として初めてクロマグロの完全養殖に成功。さらに、三菱商事との合弁でアトランティックサーモンの大規模な陸上養殖にも挑戦しており、これは将来の安定供給を目指す取り組みです。
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これらの養殖現場では、AIやIoT技術の導入も加速。AIによる画像解析で魚の数を自動でカウントするシステム「かうんとと」や、養殖魚向けのワクチン自動接種機など、生産性向上と省力化に貢献するソリューションが実用化されています。
さらにマルハニチロは、その先の未来を見据え、新たなタンパク質・栄養源の開発にも着手。
国内スタートアップ企業の「インテグリカルチャー」と提携し、細胞培養による「細胞性水産物」の開発を進める一方、微細藻類からDHAを生産し、それを活用した機能性表示食品を市場に投入するなど、健康価値の創造にも取り組んでいます。
従来の漁業などが課題に直面する中、マルハニチロは「養殖のスマート化」と「新たな食料源の創出」という両輪で、食の未来を切り拓く挑戦を続けています。
>> マルハニチロの企業情報