発表から少し間が空いていますが、今回は中国で2番目に大きなEC企業「JD.com」についてまとめてみたいと思います。
JD.comの事業については、以前もまとめています(なかなか資金繰り厳しそうだけど、JD.comは「中国版Amazon」として成功できるのか?)。
ざっくり言うと、アリババが楽天のような(結構違うけど)ECプラットフォームであるのに対し、JD.comはAmazon.comのような直販型プラットフォームです。
つまり、アリババがスモールビジネスがオンラインで商売できる「場」を提供しているのに対し、JD.comは自身で商品の仕入れと販売を行っているのがメイン。
業績推移を見てみましょう。
2017年の売上高は3623億元(6.18兆円)と、前年から39%の増加率です。
相変わらず利益は出していませんが、高い成長率を続けています。
今回のエントリでは、JD.comの2017年決算の内容についてまとめていきたいと思います。
まずは、JD.comが事業を展開している中国Eコマースの市場環境について。
たった一枚のスライドですが、非常に情報量が豊富です。
①高成長の巨大マーケット
中国の小売マーケットは、2012年からの5年間で、年平均11.3%もの高成長が続いています。
そして、2017年には左上の図のように、アメリカの小売市場(38兆元:648兆円)と同じくらいのサイズ(37兆元:631兆円)にまで成長。
世界でも稀に見る「巨大で高成長」な市場となっています。
② 断片化され、圧倒的なプレイヤーが存在しない
しかし、中国の小売マーケットは非常に「断片化(Fragmented)」されているというのも現実。
アメリカでは、上位20の小売チェーンによる市場シェアが47%を占める一方、中国では14%だけに過ぎません。
つまり、巨大な市場があるにも関わらず、アメリカでいうウォルマートやコストコのような圧倒的な小売プレイヤーが存在しないということのようです。
③ 急速にオンライン化
また、小売マーケット全体に占めるオンラインの割合(EC化率)は、2012年にはわずか6.2%だったのが15.0%と、5年で2倍以上に増大しています。
④ Eコマース市場の急拡大
高成長の巨大小売市場で、急速にオンライン化が進んだ結果、中国のEコマース市場はさらに急な成長を迎えます。
2012年の中国のEコマース市場規模は1.2兆元(20兆円)だったのが、2017年には6.1兆元(104兆円)へと、5倍以上に成長したことになります。
そして、2020年には10.8兆元(184兆円)と、さらに現在の1.7倍以上に成長するとのこと。
次のスライド(上)では、これだけ高成長の市場環境であるにも関わらず、中国にはそれほど大きな競合が存在しない、と主張しています。
それはどうなんだろうな。。現実的には、アリババのような「小売プレイヤーではないけど、数多のスモールビジネスを束ねたプラットフォーム」が競合になるような気はしますが、アリババは小売プレイヤーじゃないということでランキングからは除外されています。
そんな中、冒頭でみたようにJD.comの売上は毎年40%前後という高い成長率を続けています。
規模の拡大とともに、粗利率(売上から原価を引いた利益率)は拡大しており、2017年には13.8%にまで達しています。これは大きな変化ですね。
GAAPによる営業損益はまだ赤字ですが、「Non-GAAP」という各企業が自ら作り出すオリジナルルールでは、すでに黒字だと主張しています。
JD.comのNon-GAAPルールは、基本的には株式報酬(Stock based compensation)を除いた利益とのこと。
実際に稼ぎ出す現金も増大しており、2017年のフリーキャッシュフロー は157億元(2678億円)に。
JD.comを利用するアカウント数は増加を続けています。
2017年末には2億9250万人に達し、2年間で72.9%増えたことになります。
年次のデータもありました。
アカウントあたりの購入品数は、25.7に。中国経済の伸びとともに、個人消費が増えてきているということでしょうか。
JD.comのプラットフォームを支える物流ネットワークの状況です。
物流センターは7都市、配送センターは27都市、倉庫は486拠点に配置。
地理的には中国のほぼ全ての地域をカバーしているとのこと。
続いて、プレスリリースに書いてあった2017年以降のホットトピックを列挙しておきます。
・2017年12月、JD.comとテンセントが中国第三のEC「Vipshop」に8億6300万ドルを出資。これにより、テンセントとJDはVipshopに対してそれぞれ7%、5.5%の保有率となった。
・2018年2月、中国南西部の小売チェーン「Better Life」にテンセントと共同で出資。テンセントの巨大なトラフィックに、JDのEコマースのノウハウと、物流ネットワークを活用。
・2018年1月、Meili Inc.とソーシャル・コマースの合弁会社を設立。
・アメリカのファッションブランド「Bebe」などと連携して、ファッション系の商品を拡充。高級品ECとして「TOPLIFE」も提供開始。
・2017年12月、ウォルマート、JD、IBM、清華大学らが「Blockchain Food Safety Alliance」を設立することを発表。中国の食料供給において、より追跡性・透明性を高め、安全性を保証できるような仕組みを目指す。
・2017年12月、中古品マーケット「Paipai」を開始。ブロックチェーンによるトレーサビリティ(追跡性)やAIによる与信管理などにより、中古品マーケットにおけるペイン・ポイントを解決できるとのこと。
・2018年2月、子会社のJD Logisticsにセコイア・チャイナやテンセント、ICBC Internationalなどが出資することに同意。総額で25億ドルを予定。出資後も、JD.comは81.4%を握る筆頭株主にであり続ける。
・2017年12月、最初のオフラインの生鮮食品スーパー「7FRESH」を展開。ケータリング・サービスや3キロ以内には無料で30分以内に宅配するサービスも。
・2018年1月、JD傘下の合弁会社「New Dada」が、163のウォルマート店舗と、388のYonghui店舗と連携。新鮮な食料雑貨品を、1時間以内に家庭まで配送するサービスを提供。「New Dada」は中国最大のクラウドソーシングによる物流提供会社であり、O2Oの食料雑貨プラットフォームである。
最後に、JD.comの財政状態について改めて整理しておきます。
資産の内訳
総資産は1840億元(3.1兆円)あり、そのうち300億元(5117億円)弱が現金同等物です。
有形固定資産は125億元(2132億円)にものぼり、買収によるのれん(Goodwill)も66億元(1126億円)にまで増えています。
負債の状況
利益を出していないJD.comは、どこから資産を調達したのでしょうか。
負債は合計で1317億元(2.2兆円)ほど。そのうち、ノンリコース債務(Nonrecourse securitization debt)が171億元(2916億円)。
その他、無担保社債(Unsecured senior notes)が64億元(1098億円)、短期借入が2億元(34億円)ほどあります。
総資産1840億元のうち、1317億元が負債による調達ですから、自己資本比率は28.4%と、インターネット企業としてはかなり低い水準です。
キャッシュフロー
一方、営業キャッシュフローは2017年には大きく増加し、248億元(4230億円)を稼いでいます。
投資キャッシュフローがとても大きくなっていますが、その内訳については速報資料ではまだ公開されていません。
仕方がないので、前年の年次報告書を見てみます。
投資キャッシュフローの中で特に大きいのは、「短期投資による購入」「その他の投資」「ローン組成のためのお金」の三つ。
JD.comは、フィンテック事業として「JD Finance」を展開。
その中で、自らローンの貸付を行っており、その組成額が451億元(7700億円)に達しているということのようです。
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