デジタルツイン社会の基盤「地理空間情報」未来を創る関連銘柄の事業とは

ドーン

地理空間情報、いわゆるG空間情報は、単なる地図データを超え、現代社会が直面する様々な課題を解決するためのデジタルインフラとして、その重要性を急速に増しています。

その背景には、建設業界におけるBIM/CIMの原則適用化や、行政サービスのDXを推進するGov-techといった大きな潮流があります。
加えて、激甚化する自然災害への対策、インフラの老朽化、そして労働人口の減少といった社会課題も、G空間情報の活用を後押ししています。

本稿では、こうした大きな変革期において、独自の技術と戦略で未来の社会基盤を構築する、地理空間情報関連企業を紹介します。

ICT自動化施工で建設DXをリード「トプコン」

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1932年設立のトプコンは、眼科医療機器と、建設・農業分野向けの精密測量機器を両輪とする光学機器メーカーです。
現在は『「医・食・住」に関する社会的課題を解決し、豊かな社会づくりに貢献します。』という経営理念のもと、各分野のDXソリューションを提供するグローバル企業として事業を展開しています。

同社の主要な技術の一つに、測量技術と機械制御技術を融合させたICT自動化施工システムがあります。
ブルドーザーなどの建設機械にGNSS受信機やセンサーを取り付け、3次元設計データに基づいて自動で動かすこの技術は、建設現場の生産性を飛躍的に向上させました。
この革新的なシステムは世界各国の建設現場で高く評価されており、同社の高い海外売上高比率を支える原動力となっています。
米国、欧州、アジアなどでグローバルな販売網を活かしつつ、新製品の迅速な投入や継続的な技術開発を通じて、この分野での競争優位性をさらに高めることを目指しています。

世界的なインフラ投資の拡大や、食料問題・高齢化といった社会課題を背景に、建設・農業分野の自動化・省人化ニーズは中長期的に高まることが予想されます。
この潮流は、同社のDXソリューションへの需要を押し上げると考えられます。一方で、グローバルに事業を展開しているため、海外の金利政策や貿易摩擦、地政学リスクといったマクロ経済環境の変動を受けやすいという側面もあります。

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地図情報の絶対王者からモビリティ社会の基盤創造へ「ゼンリン」

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ゼンリンは、全国を網羅する詳細な住宅地図データベースを基盤に、多様な地図情報サービスを展開する業界の最大手です。
同社の地図データベースは、詳細かつ高頻度な更新により品質が維持されており、この独自資産を活用して国内カーナビゲーション用データ市場ではトップシェアを確立しています。
しかし、近年では大手IT企業の参入もあり、業界内の競争環境は変化しています。

従来の地図データ提供に留まらず、近年は未来のモビリティ社会を見据えた事業展開を加速させています。
特に、自動運転や先進運転支援システムに不可欠な高精度地図データの開発に注力している点は重要です。
同時に、物流業界の「2024年問題」に代表される人手不足といった社会課題に対し、配送ルート最適化などの業務効率化を支援するソリューションの拡大にも取り組んでいます。

今後、自動運転やMaaS社会の進展は、同社にとって大きな事業機会となることが期待されます。
一方で、オートモーティブ関連事業は自動車の生産動向や市況の影響を受けるリスクがあります。
そのため、高精度地図のような先進分野における継続的な研究開発投資と、新たな収益モデルの構築が将来の成長を左右する鍵となります。

>>ゼンリンについてもっと詳しく別府温泉マップが原点!自動運転とドローン社会のインフラを構築する「ゼンリン」

航空測量のパイオニアから空間情報コンサルタントへ進化「アジア航測」

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1954年創業のアジア航測は、「空からの測量」を基盤技術とし、社会インフラの整備・管理や防災、環境保全分野でコンサルティングサービスを提供する、空間情報コンサルタントのリーディングカンパニーです。
自社で航空機を運航し、最新のセンサー技術を駆使して国土の情報を収集・解析できる一貫体制は、同社の大きな強みとなっています。
同社は、長年にわたり中央官庁、地方公共団体、電力会社等の公益事業体を主要顧客として国内外で事業を展開し、確かな実績を築いています。
一方で、公共事業予算の変動による受注減少リスクも認識しており、民間市場での受注確保にも努めています。

同社の核となる航空レーザ測量などの技術は、地形や構造物を高精度な3次元データとして捉えることを可能にします。
この技術は、道路や電力設備といった社会インフラの老朽化診断や維持管理計画の策定、さらには災害シミュレーションなどに活用され、安全な社会基盤の維持に不可欠な役割を担っています。
また近年では、再生可能エネルギー分野にも進出し、2025年3月には系統用蓄電所の商業運転を開始するなど、エネルギーインフラの安定化にも貢献しています。

公共投資への依存度が高いという側面はあるものの、インフラDXや脱炭素化といった社会の大きな潮流は、同社の「空からの測量」技術とコンサルティング能力がさらに活かされる機会を創出していくと考えられます。
気候変動による災害の激甚化は事業機会であると同時に、自社の事業継続計画の重要性も増しており、この点への対応も企業価値を左右するでしょう。

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BIM/CIM時代の建設DXを支えるソリューションプロバイダー「応用技術」

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1984年に設立された応用技術は、GISとBIM/CIMを核としたソフトウェア開発・コンサルティングを手掛ける企業です。
同社は、製造業・建設業向けの「ソリューションサービス事業」と、環境・防災分野のコンサルティングを行う「エンジニアリングサービス事業」を両輪で展開しています。
特に、建設業界のDX化や、製造業の製品ライフサイクル管理といった専門領域において、トータルサービスを通じて顧客の生産性向上を支援しています。

ソリューションサービス事業では、Google社との販売代理店契約および開発パートナー契約の実績を活かし、クラウドベースの多様なサービスを提供しています。
建設業界向けにはBIM導入支援パッケージ「BooT.one」、製造業向けにはPLM関連サービスなどを展開し、各業界のDXを支援しています。
一方、エンジニアリングサービス事業では、上下水道の耐震・維持管理支援や、人流データを活用したまちづくり計画支援など、社会課題解決型のコンサルティングに注力しています。

政府が推進するBIM/CIMの原則適用化は、同社のCIM活用コンサルティング業務の売上増加につながっており、事業にとって強力な追い風となっています。GISを核としたデータ利活用や、国土交通省が推進するPLATEAUを活用したデジタルツインプラットフォーム「ΣSpace.E」の提供など、関連技術の社会実装が進む中で、同社の専門性が発揮される場面は増えていくと考えられます。
ただし、事業の性質上、大型プロジェクトの動向に業績が左右される可能性があり、安定した人材の確保と育成が継続的な成長の鍵となるでしょう。

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独自の3次元データ技術で自動運転社会の実現を牽引「アイサンテクノロジー」

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1970年に設立されたアイサンテクノロジーは、測量・土木分野のCADソフトウェア開発で長年の実績を誇る老舗企業です。
同社はこの分野で培った空間認識技術を核に、近年は自動運転社会の実現に向けた「モビリティ・DXセグメント」へ積極的に事業を展開しています。
高精度な位置情報が求められるこの市場において、同社の技術と経験は大きな参入障壁として機能しています。

同社の競争優位性を支えているのが、MMSを用いた高精度3次元地図データの作成技術です。
これは自動運転車の「目」となる重要な基盤情報であり、同社はこの分野で国内トップクラスの実績を有します。
さらに、単にデータを提供するだけでなく、全国各地の自治体と連携し、自動運転の実証実験や社会実装プロジェクトにも深く関与することで 、実践的なノウハウを蓄積しています。

将来的に、これらの実績はインフラDXやスマートシティ関連の大型案件獲得において、大きなアドバンテージになると考えられます。
一方で、自動運転分野はまだ投資フェーズの案件が多く、本格的な収益化には時間を要する可能性があります。
そのため、国内外の経済情勢や、協業する自動車メーカー、IT企業の投資動向が事業に影響を及ぼすリスクも考慮すべき点です。

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小型SAR衛星で世界市場に挑む宇宙スタートアップ「QPS研究所」

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QPS研究所は、2005年に九州大学の研究者らによって設立された宇宙開発ベンチャーです。
同社は、天候や昼夜の影響を受けずに地表を観測できるSARを搭載した、世界トップクラスの性能を持つ小型衛星の開発・製造を手掛けています。
軽量ながら大型の展開式アンテナなどの独自技術により、従来は巨大で高価だったSAR衛星の大幅な小型化・低コスト化を実現し、この分野におけるゲームチェンジャーとして注目されています。

同社の最終目標は、36機の小型SAR衛星によるコンステレーションを構築し、世界のほぼどこでも平均10分以内に観測できる「準リアルタイム地球観測」を実現することです。
この計画は、災害発生時の迅速な状況把握を可能にするなど、防災・減災分野に革命をもたらすポテンシャルを秘めており、インフラ監視や安全保障といった領域での活用も期待されています。

拡大するSARデータ市場と政府の宇宙戦略基金による支援は、同社の成長にとって追い風となることが期待されます。
しかしながら、衛星の開発・打上げには巨額の先行投資と、失敗や軌道上での故障といった事業リスクが常に伴います。
また、国内外で競合となるSAR衛星ベンチャーが複数存在し、今後の競争は激化していくと予想されます。

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防災・防犯分野のDXを推進するGov-techの雄「ドーン」

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株式会社ドーンは、地理情報システムの開発キットである「GeoBase」及び「GeoBase.NET」を自社開発し、これを基盤とした各種ソリューションを提供するソフトウェア企業です。
特に、警察・消防といった安全保障分野における情報通信システムの開発に強みを持ち、Gov-tech3市場の深耕を最重要施策として掲げ、この領域でのニッチトップとしての地位を確立しています。

同社の多様なクラウドサービスは、この強力なGISエンジンを核としています。
例えば、主力サービスである映像通報システム「Live119」は、音声だけでは伝わりにくい現場の状況をリアルタイムで共有し、迅速な初動対応を可能にするソリューションとして導入が拡大しています。
加えて、同社は「GeoBase」をシステムインテグレーター向けにも提供しており 、パートナー企業が独自のGISアプリケーションを構築する際の基盤としても活用されています。

このように、SaaSによる直接的なサービス提供、ミドルウェアのライセンス販売、そして受託開発が同社の主要なビジネスモデルとして事業を支えています。
クラウドサービスによる安定したストック収入は大きな強みですが 、官公庁の予算執行サイクルに売上が左右される季節的変動リスクも存在します。
とはいえ、社会全体のDX化の流れは、同社の事業領域における需要を後押しする要因と考えられます。

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