"石油"からのエネルギー転換をリードする石油関連銘柄
カーボンニュートラルという世界的な潮流の中、日本のエネルギー業界は大きな変革期を迎えています。
「エネルギーの安定供給」という社会的使命を果たしつつ、いかにして「脱炭素社会」を実現するか。この二つの難題を両立させることが、業界全体の共通課題となっています。
この課題に対し、全国のサービスステーション網を次世代拠点へ転換し新燃料開発を進める総合エネルギー企業、石油開発の地下技術をCO2貯留(CCS/CCUS)へ応用する企業、そして独自の精製技術で高機能素材を生み出す企業など、そのアプローチは多岐にわたります。
本記事では、こうしたエネルギー関連企業の変革に向けた取り組みを紹介します。各社が持つ事業基盤を活かし、どのような成長戦略を描いているのか。それぞれの戦略と技術を解説していきます。
ENEOSホールディングスは、国内最大の燃料油販売シェアを誇る総合エネルギー・素材企業です。
同社は今、「エネルギー・素材の安定供給」という社会的使命を果たしつつ、「カーボンニュートラル社会の実現」に貢献するという、二つの大きな目標の両立に挑戦しています。
その事業の根幹を支えるのが、全国約12,000カ所のサービスステーション網と、国内燃料油販売シェア50%超という圧倒的な事業基盤。
この基盤事業の効率化も進められており、製油所では世界初となるAIによる常圧蒸留装置の自動運転を開始するなど、DXへの積極的な取り組みも特徴です。
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一方で、同社は未来のエネルギー社会を見据えたポートフォリオ変革を加速。
次世代エネルギー分野では、SAF(持続可能な航空燃料)の国内初供給や、合成燃料の一貫製造プラントでの実証運転、水素サプライチェーンの構築など、具体的なプロジェクトが推進されています。
さらに、環境対応型事業として、CCS/CCUS(二酸化炭素の回収・有効利用・貯留)が事業のもう一つの軸に位置付けられています。
米国でのプロジェクトでは既に累計500万トンのCO₂を回収した実績があり、同社ではこの知見を国内外でのCCS社会実装に活かす方針です。
同社は、従来のエネルギー事業で培った事業基盤と技術力を活かし、次世代エネルギーと環境対応技術に関する取り組みを進めています。
出光興産は、原油の調達から精製、販売までを一貫して手掛ける、日本のエネルギー供給を支える企業のひとつです。
同社は今、従来の石油製品に留まらず、カーボンニュートラル社会の実現に向けた次世代エネルギーと、高機能マテリアルの開発・供給へと、大きく舵を切っています。
5つの多角的な事業ポートフォリオがこれを支えます。燃料油や基礎化学品といった基盤事業に加え、特に成長を牽引するのが「高機能材事業」。
ここでは、世界トップクラスのシェアを持つ潤滑油や、世界最高レベルの性能を誇る有機ELディスプレイ材料などが開発されています。さらに、EVシフトの鍵となる全固体電池用のリチウム固体電解質の開発にも注力し、トヨタ自動車との協業も推進。
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また、既存インフラの活用構想も進められています。
全国約6,000カ所のサービスステーションを多様なモビリティサービスを提供する「スマートよろずや」へと転換する取り組みや、製油所をSAF(持続可能な航空燃料)などの供給拠点とする「CNXセンター」構想がその代表例です。
足元では、石炭価格の下落など資源価格の変動が業績に影響を与える側面もあります。しかし、同社はこうしたリスクを認識した上で、ブルーアンモニアやSAF、リチウム固体電解質などを重点事業と定め、集中的な投資が行われています。
このように、同社は石油精製で培った技術力を活かし、次世代のエネルギーとマテリアル分野への事業ポートフォリオ変革を進めています。
>> 出光興産の企業情報
コスモエネルギーホールディングスは、石油の精製・販売を中核としながら、次世代を見据えた事業ポートフォリオの変革を加速させています。
「Oil & New」という中期経営計画のもと、基盤である石油事業(Oil)の収益力を最大化し、そこから得られるキャッシュを次世代エネルギーやサービス(New)へ戦略的に投資する、独自の成長サイクルを推進しています。
石油事業における同社の特徴が、「ショートポジション」戦略です。
国内需要の変化に対応し、自社の生産能力を販売量より少なく設定することで、高い水準の製油所稼働率を維持し、収益性の向上を目指しています。
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この安定した収益基盤を元に、次世代エネルギー分野への展開が本格化。特に、国内初となる国産SAF(持続可能な航空燃料)の本格生産・供給を開始し、廃食用油の収集からSAF製造、供給までの一貫したサプライチェーンを構築しています。
また、石油化学事業においても選択と集中を推進。
市況変動の激しい汎用品から撤退する一方、半導体レジスト用樹脂のような、高い技術力と参入障壁を持つ高付加価値製品の分野で世界トップクラスのシェアを誇ります。
基盤事業で得られた収益を成長領域へ投資する。 この「Oil & New」戦略は、エネルギー業界の変革期に対応する同社独自の取り組みです。
株式会社INPEXは、日本のエネルギー消費量の約1割を供給する、国内最大規模のエネルギー開発企業です。
同社は、エネルギーの安定供給という使命を果たしつつ、カーボンニュートラル社会の実現に向けた「責任あるエネルギー・トランジション」を推進。従来の石油・天然ガス開発事業を基盤に、低炭素分野への戦略的なシフトを進めています。
その事業の大きな特徴は、プロジェクトを自ら主導する「オペレーター」としての事業展開にあります。象徴的なのが、イクシスLNGプロジェクト。これは、日本企業がオペレーターとして一貫して手掛ける大型プロジェクトの一例です。
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エネルギー転換期において、同社はよりクリーンなエネルギー源として天然ガス/LNGを重視。
同時に、次世代の環境対応型事業として、CCSを新たな事業の核に据えています。インドネシアで進行中のプロジェクトでは、開発計画にCCSを組み込むなど、具体的な取り組みが始まっています。
この戦略を支えるのが、長年の石油・天然ガス開発で培われた「地下技術」です。同社では、この独自のノウハウをCCSだけでなく、地熱発電やレアメタルといった新たな地下資源開発にも応用する方針です。
原油価格や為替といった外部環境の影響を受けやすい事業構造であるものの、INPEXは既存プロジェクトで事業基盤を構築。そこから得られる知見とキャッシュを、CCSやクリーン電力といった分野へ再投資することで、持続的な成長を目指しています。
>> INPEXの企業情報
石油資源開発(JAPEX)は、石油・天然ガスの探鉱・開発・生産(E&P)を中核として、日本のエネルギー安定供給に貢献してきた企業です。
同社は今、長年培ってきたE&Pの知見を活かし、カーボンニュートラル社会の実現に向けた事業ポートフォリオの変革に挑んでいます。
その戦略の柱となるのが、CCS/CCUS事業。同社は、CCS/CCUSの早期実用化と事業化において「国内トップランナー」となることを目指し、これをエネルギー転換期における重要な取り組みと位置付けています。
インドネシアでは、天然ガス田開発と連携したCCS/CCUSプロジェクトの検討が始まるなど、具体的な取り組みが進められています。
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この戦略の背景にあるのが、国内外で培ってきたE&P事業の経験です。イラクや米国などで展開する石油・天然ガス開発事業は、同社の収益基盤であると同時に、CCS/CCUSに必要とされる知見や事業運営ノウハウに繋がっています。
また、国内においては、新潟や秋田でのガス田・油田運営に加え、総延長800kmを超える天然ガスパイプライン網やLNG基地といった強固なインフラを保有しています。脱炭素社会への移行期において重要となる、天然ガスの安定供給においても重要な役割を担います。
JAPEXは、原油価格や為替など外部環境の影響を考慮しつつ、E&P事業を基盤としてCCS/CCUS事業の展開を進めています。
>> 石油資源開発の企業情報
富士石油は、石油元売り会社や石油化学会社などを主要顧客とし、石油製品の精製・供給に特化した事業を展開する企業です。
同社の最大の特徴は、世界で唯一同社だけが保有する「減圧残油熱分解装置(ユリカ装置)」です。
このユリカ装置は、原油の精製過程で通常は残渣となるアスファルトをさらに分解し、ガソリンや軽油といった需要の高い「白油」の生産を可能にします。
これにより、原油一樽から得られる製品価値を最大化し、同時に廃棄物を削減することが可能とされています。経済性と環境負荷低減の両立を目指す、高効率な精製プロセスが特徴です。
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また、事業基盤の面では、東京湾に面した袖ケ浦製油所という立地も特徴の一つ。
巨大消費地である首都圏への供給と、海外への輸出拠点という二つの役割を担います。これによって国内エネルギー大手や大手化学メーカーを主要顧客とし、安定的な事業運営に繋がっています。
原油価格や為替の変動といった外部環境の影響を受けやすい事業ではあるものの、富士石油は世界唯一の独自技術と強固な顧客基盤を活かし、高効率な石油精製事業を展開しています。
>> 富士石油の企業情報