洋上風力発電銘柄:「開発」「建設」「製造」で注目すべきはどの企業か

五洋建設

カーボンニュートラルの実現に向け、日本のエネルギー政策の「切り札」として大きな期待が寄せられている洋上風力発電。

国策として強力に推進されるこの分野は、単なる次世代の電源としてだけでなく、新たな産業と雇用を生み出す巨大な成長市場として、今、本格的な離陸の時を迎えようとしています。

この巨大市場の形成には、多様な専門性を持つプレイヤーの連携が不可欠です。自ら発電所を開発・運営する「デベロッパー」、海洋土木技術で建設を担う「コントラクター」、そして風車を支える基礎構造物を製造する「メーカー」など、各社がそれぞれの領域で重要な役割を担っています。

本記事では、こうした異なる立場で洋上風力発電に挑む主要企業の戦略と強みを紹介していきます。

グリーン電力サプライチェーンの構築を目指す「コスモエネルギーホールディングス」

コスモエネルギーホールディングスは、石油元売り事業を中核としながら、次世代のエネルギー社会を見据え、再生可能エネルギー事業への転換を進めています。

特に洋上風力発電に注力し、発電から電力供給までを一貫して手掛ける「グリーン電力サプライチェーン」の構築を目指しています。

同社の強みは、グループ会社が日本初の風力発電専業事業者として20年以上にわたり培ってきた豊富な実績とノウハウがその源泉。

グループ会社のコスモエコパワーは、国内の陸上風力発電で第3位のシェアを誇り、サイト開発から建設、自社メンテナンスによる高い稼働率の維持まで、一貫した事業運営体制が確立されています。

この陸上での確固たる基盤が、大規模な投資と高度な技術が求められる洋上風力発電事業に活かされています。

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同社は、国内初の大規模商業洋上風力発電所である「秋田港・能代港」プロジェクトへも参画し、既に商業運転を開始しています。

さらに、スペインのイベルドローラ社と提携し、海外の先進的な知見を取り入れるなど、競争力の強化も図られています。

他にも、企業に直接グリーン電力を供給する「コーポレートPPA」や、中小の発電事業者を束ねる「アグリゲーションサービス」も展開。法人・自治体の脱炭素化をワンストップで支援するソリューションも提供し、エネルギーの効率的な利用に貢献します。

現在は、2030年に向けた大規模な戦略投資の実行フェーズにあり、先行投資によるコストが増加していますが、これらは将来の事業拡大に向けた取り組みの一環です。

国が推進する洋上風力発電分野において、同社グループは日本のエネルギー転換における役割を担うことを目指しています。

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100万kWを超える大規模プロジェクトを進める「東北電力」

東北電力は、電力会社としての基盤を強化しつつ、脱炭素社会の実現に向けた「グリーンビジネス」を成長戦略の柱に据えています。

特に、自社の事業エリアである東北・新潟地域が持つ豊富な再エネのポテンシャルに着目し、洋上風力発電事業の積極的な推進が特徴です。

同社の洋上風力戦略の大きな特徴は、その規模と先進性にあります。

青森県や秋田県沖で、合計100万kWを超える複数の大規模プロジェクトを、国内外の有力企業とコンソーシアムを組んで開発を進めており、リスクを分散しつつ、効率的な事業拡大が図られています。

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さらに、将来の主流となり得る「浮体式洋上風力発電」の技術開発にも注力。四方を深い海に囲まれた日本の地理的特性に適したこの技術の実証事業に、国のプロジェクトの一環として参画しています。

他にも、コーポレートPPAやアグリゲーションサービスなど、再生可能エネルギーのバリューチェーン全体にわたる事業も展開しています。

原子力発電所に関する取り組みなどで経営基盤を固めつつ、そこから得られるキャッシュ・フローを、将来の事業の柱の一つと位置付ける洋上風力発電分野へ戦略的に投資を進めています。

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洋上風力発電の”建設”を担う「五洋建設」

五洋建設は、海洋土木分野における長年の実績と、海外での豊富な経験を強みとするグローバル・ゼネラルコントラクターです。

同社は今、日本のエネルギー政策の柱となる洋上風力発電市場において、発電事業者ではなく、その建設を担う「コントラクター」として独自のポジションを築こうとしています。

その戦略の核心は、次世代の洋上風力建設に不可欠となる大型作業船への戦略的な投資にあります。

今後、風力発電所の建設はより水深の深い一般海域へと移行し、風車そのものも15MWを超える大型化が見込まれます。これに対応するため、同社は5,000トン級の吊り上げ能力を持つ大型基礎施工船(HLV)や、ケーブル敷設船(CLV)といった特殊な大型船の建造を推進。

これらの大型作業船は、巨額の投資が必要となるため参入障壁が高く、将来の洋上風力建設市場における供給のボトルネックともなり得ます。

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五洋建設は、リース会社との共同保有や政府の財投融資を活用して投資負担を軽減しつつ、この重要なアセットを確保。市場が本格化する2028年度頃からの稼働が計画されています。

また、同社は建設事業で発生する副産物を活用した低炭素型人工石材で藻場を造成するなど、ブルーカーボンに貢献する環境技術(GX)も実用化し、サステナビビリティ経営を事業の根幹に据えています。

同社は、海外事業における収益性の改善を課題とする一方、「真のグローバル・ゼネラルコントラクター」を目指す姿として掲げています。

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“浮体式洋上風力”の基礎を造る「カナデビア」

2024年10月に日立造船から社名を変更したカナデビアは、祖業である造船事業で培った技術を核に、「脱炭素化」事業を強力に推進しています。

洋上風力発電分野においては、同社は祖業で培った技術を活かした事業展開を進めています。

多くの企業が発電事業や建設工事を手掛ける中、カナデビアの強みは、風車を支える「基礎構造物」の設計・製造にあります。

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橋梁や海洋構造物などで培ってきた大型鉄構構造物の製造技術を活かし、着床式だけでなく、日本周辺海域のポテンシャルが高いとされる「浮体式」の基礎構造物にも対応できる点が大きな特徴です。

その技術力は、国の次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究において、浮体式システム「ひびき」を納入した実績がこれを証明します。

さらに同社は、浮体式の本格的な商用化を見据え、大成建設や商船三井といった他業種のリーディングカンパニーと連携。それぞれの知見を共有し、浮体式普及の鍵となるコスト削減に向けた取り組みが共同で進められています。

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革新的工法で浮体式洋上風力の未来を拓く「鹿島建設」

スーパーゼネコンの一角である鹿島建設は、長年培ってきた海洋土木工事の豊富な技術と経験を武器に、洋上風力発電の建設事業を積極的に推進しています。

同社は、発電事業者ではなく、その建設を担う「コントラクター」として、日本のエネルギー転換を支える重要な役割を担います。

その先進性を象徴するのが、将来の洋上風力の主流と目される「浮体式」基礎の低コスト化技術にあります。

巨大な浮体基礎を複数のブロックに分けて製造し、それらを水上で接合する革新的な「水上接合工法」を開発。大型ドックへの依存を最小限に抑え、量産化とコスト削減を可能にするこの技術は、国のグリーンイノベーション基金事業にも採択され、実寸大での実証試験にも成功しています。

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同社は、日本初の商用洋上風力発電事業である「秋田港・能代港」プロジェクトでは、基礎や海底ケーブルの施工を担当。他にも日本初の沖合着床式施設の建設も手掛けるなど、国内における黎明期の主要プロジェクトに数多く関与しています。

さらに、今後の大規模な建設に不可欠となる大型の自昇式作業船(SEP船)を他社と共同で保有するなど、戦略的な設備投資も実行。

複数の洋上風力プロジェクトで施工の優先交渉権者に選定されており、これは発電事業者から同社の技術力や実績が評価されていることを示しています。

同社は、これまでの豊富な実績と、将来を見据えた革新的な工法開発を両輪とし、国が推進する洋上風力発電市場において、建設分野の主要な担い手となることを目指しています。

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