中国Eコマース大手、アリババグループの苦境が長引いている。
5月14日に発表された2024年1〜3月期決算で、売上高は前年比7%増の2,219億元(≒307億ドル)。営業利益は同じく3%減の148億元(≒20億ドル)となった。Eコマース事業への投資を拡大したほか、物流事業『Cainiao』の従業員向けのインセンティブが重石となった。
純利益は同じく96%減の32.7億元(1.3億ドル)。上場している投資先の株価が低調のため、損益に反映された。株式の含み損益や株式報酬、減価償却費などを除いた純利益(Non-GAAP)は244億ドル(≒同34億ドル)で11%減だった。
新たな決算を受けて、アリババグループの株価は約6%もの急落。依然として時価総額は2,000億ドルを割っており、ピーク時の三分の一にも満たない。今回の記事では、同社の近況について新たな決算をもとにお伝えする。
まず押さえたいのは、主軸の中国コマース事業の概況だ。
二つの巨大プラットフォームを有する『TTG』(Taobao and Tmall Group)セグメントでは、「ユーザー志向」「ブランド支援」「効率化」を成長戦略の三軸として掲げてきた。
「ユーザーのため」を大義名分として進めてきたのが、質の高い製品を競争力のある価格で販売する方策だ。カスタマーサービスや有料プログラムへの特典にも投資し、ユーザーの継続率や購入頻度は高まったという。
取り組みの結果、オンラインGMV(流通総額)は前年比で二桁%の成長。とりわけ購入者数と、購入頻度が高まった。有料プログラム『88VIP』の会員数も同じく二桁%の拡大。この四半期に3,500万人を超えた。
他のECプラットフォームとの競争が激化する中、消費者の囲い込みを狙うような戦略だ。TTGセグメントの売上高は前年比4%増の932億元(≒129億ドル)となり、中でも顧客支援(customer management)が5%増。検索やレコメンドによる課金が牽引した。
クラウド事業の売上高は、前年比3%増の256億元(≒35億ドル)だった。
ここでは収益性の低いプロジェクトベースの売上高を減らし、パブリッククラウドによる「質の高い」売上を伸ばす方針を掲げている。注力する「elastic compute」やデータベース、AI製品の売上高は、前年比で二桁成長となった。
今後もパブリッククラウドおよびAI製品が牽引し、クラウド事業全体の成長を加速することが望まれる。この四半期には100を超えるパブリッククラウド製品で値下げを行い、競争力を高めたとする。4月には海外向けにも値下げを敢行し、グローバル市場での需要も取り込む狙いだ。
とりわけAI製品は、売上高が前年比で100%以上の成長へ加速した。基礎モデルを開発する企業、インターネット企業、金融サービスや自動車産業などでの引き合いが増しているという。
4月には、1,100億パラメータを有する独自の基礎モデル『Tongyi』をリリース。世界的なオープンソースのモデルと肩を並べるものだとアピールした。今後は『Tongyi』を自社のAIインフラに組み込み、幅広くシナジーを追求する。
もっとも成長が著しいのは海外コマース事業(AIDC、Alibaba International Digital Commerce)だ。1〜3月の売上高は前年比45%増の274億元(≒38億ドル)。中でも越境コマースが牽引した。
越境ECサイト『AliExpress』では、「Choice」と呼ばれるサービスが伸長。同社によるとChoiceは、「円滑なサプライチェーンに支えられたプレミアムなEコマースサービス」であるという。
従来のマーケットプレイスでは、出品者が物流からカスタマーサービスまで全て面倒を見る。一方で直販型のECでは、事業者が商品を仕入れて販売する。売り手は、卸売業者としての役割を担うわけだ。
同社によれば、「AliExpress Choice」は二つのハイブリッドだ。AliExpressのインフラを活用しながら、商品を出品できる。商品の質に関してはプラットフォームが責任を持ち、品揃えやスケーラビリティに関しては、マーケットプレイス型の利点を活かす。
消費者から見た「Choice」の利点は、商品が早く届くこと。多くの地域では、対象商品を10ドルもしくは三つ以上購入すると、配送が無料になる。2023年末時点では、スペインやフランスを含む20カ国で無料の返品に対応。ドイツやスイスなど23か国では配送保証(delivery guarantee)もつく。
要するに、「Choice」を利用することでより安く、より早く商品を買うことができる。物流事業『Cainiao』のケイパビリティを活用することで、5日配送、10日配送の割合は前年比2倍以上に増えた。「Choice」が注文数に占める割合は、2024年4月に70%にのぼったという。
海外コマースの拡大は、物流事業『Cainiao』の成長にもつながっている。売上高は前年比30%増の246億元(≒34億ドル)。牽引したのは、AliExpress向けの越境配送だ。
3月にCainiaoは、香港市場への新規上場に向けた計画を取りやめた。理由は、Eコマース事業とのシナジーをより良く実現するためだ。AliExpressとの連携をさらに強めることの方が得策と見たわけである。Cainiaoは現在、14カ国での「高質配送」(例えば5日、または10日での配送)に対応する。
デリバリーサービス『Ele.me』などを有するローカルサービスセグメントは、前年比19%増の売上高146億元(≒20億ドル)。Ele.meに加えて、現地でのナビゲーションやリアルタイム情報を得られる『Amap』(高徳地図)も牽引したという。
2024年3月までの三か月間で、アリババグループは48億ドルの自社株買いを行った。一年間での総額は125億ドルにのぼる。株式報酬なども加味すると、発行済株式数は一年間で5.1%減少した。
それに加えて取締役会は、配当金の支払いを承認。年間の配当額はADS(米国預託株式)の場合、1ドルに設定された。これに加えて、投資資産の現金化に伴う特別配当を0.66ドル出すことに決定。会社全体では、総額40億ドルを払い出すことになる。現在の株価に対する利回りは2.1%ほどだ。
2023年3月期にアリババグループは1,826億元(≒253億ドル、前年比9%減)のフリーキャッシュフローを稼いだ。減少した最大の要因は、アントグループからの145億元にのぼる特別配当からの反動である。期末の金融資産は6,172億元(≒855億ドル)に増えた。
香港取引所に申請中の「プライマリ上場」は、8月末までに完了する見通し(現在はセカンダリ上場)。プライマリ上場になると、中国圏にいる投資家からの資金流入を期待できるとされる。同社への評価を底上げする要因になるか、改めて注目したいところ。
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