月間アクティブユーザー4.2億人!「中国版Netflix」こと動画ストリーミング会社「iQiyi」が新規上場

iQiyi, Inc.

今回は、中国版Netflixとも言われる動画ストリーミング企業の「iQiyi」についてまとめます。


iQiyiは、中国版Googleとして知られるBaiduの子会社として知られていましたが、この度NASDAQに株式を上場することになりました。


まずは全体の業績推移を見てみます。

売上高は174億元(2900億円)、営業損失は39.5億元(658億円)ほどとなっています。

売上成長率は2年連続で50%を超えており、ものすごい勢いで成長していることが伺えます。


今回のエントリでは、iQiyiがどのように成長してきたのか、どうやって売上を立てているのか、その他各種事業数値などについてまとめてみたいと思います。


iQiyiの歴史

まずは、iQiyiの歴史について軽く確認しておきます。


2010年4月に動画ストリーミングサービス「QIYI(qiyi.com)」としてサービス開始します。

2011年11月にはブランド名を「iQIYI」に変更。


同時期に、「Beijing Xinlian Xinde Advertisement Media Co., Ltd.」を買収し、「Beijing iQIYI」に社名を変更、動画ストリーミングサービスの運営を任せています。

2013年5月には「Shanghai iQIYI」を独占広告代理事業者として設立し、同時期にPPSのオンライン動画事業「Shanghai Zhong Yuan」を買収。こちらはライブ動画サービスとのこと。


2017年5月には、「IQIYI Film Group Limited」、6月には「IQIYI Film Group HK Limited」を設立しなどの子会社を設立し、オリジナルコンテンツの製作を本格化。


また、Baiduが資本参加したのは2010年3月とかなり早い段階であり、同社が中心となって2014年ごろまで継続的に投資を続けていたようです。


ここ3年間のユーザー数の成長を見てみましょう。

DAU(1日あたりのアクティブユーザー数)はこの3年間で8830万人から1億2600万人、MAU(月間アクティブユーザー数)は3億6550万人から4億2130万人へと増加しています。

全体のユーザー数自体は(規模はデカ過ぎますが)、それほど大きな成長率ということはありませんが、有料課金者数は1070万人から5080万人へとこの2年で5倍に増えています。


MAUあたりの有料会員数を見てみます。

2年前はMAUに対して3%弱の有料会員しかいなかったのが、2017年には12%とかなり多くなっています。

ネットフリックスなどが「基本有料」のコンテンツプラットフォームとして成長してきたのに対してiQiyiは「基本無料」のサービスを有料に転換してきていると言えます。


iQiyiの収益構造:広告を中心としたビジネスモデル

iQiyiの歴史をさかのぼると、広告に関する子会社を買収したり、広告代理店を子会社として設立したりと、広告が事業の中で大きな存在感を占めていたことが推測されます。

実際、iQiyiの売上高174億元の内訳は次のようになっています。


売上高のうちで最も大きいのは「広告」で、2017年には81.6億元(1360億円)もの売上をあげています。

有料会員サービス(Membership services)による売上は65.3億元(1087億円)。

ネットフリックスの売上の多くは会員収入で、2017年には117億ドル(1.2兆円)ですから、売上規模にはかなり大きな差があります。


iQiyiの会員売上を有料会員数で割ってみます。

有料会員あたりの年間売上は2017年時点で128元(2132円)。Netflixのアメリカ国内のARPUである110.5ドルと比べると5分の1以下の水準となっています。


ただ、前述したようにiQiyiはこの2年で有料会員数を5倍に増やしており、会員売上の比率は増加しています。

広告収入の割合はこの2年で64%から50%未満に下がり、会員収入の比率が18.8%から37.6%に増大しています。


iQiyiの広告売上の多くはブランド広告からきているそうですが、2016年4Qに開始したインフィード広告の比率も増え始めているとのこと。

全体の7%ほどを占めている「Content distribution」売上は、iQiyiが獲得したコンテンツのサブ・ライセンスによる収益で、中国国外の動画サービスや国内のテレビ局などにコンテンツをライセンス提供しています。


収益機会について、iQiyiは報告書で「中国におけるオンライン動画プラットフォームの売上は、広告モデルに大きく依存してきたが、今後は有料課金やコンテンツのライセンス提供など、よりバランスの取れた構造になるだろう」と述べています。


また、iResearch Reportによれば、中国のオンライン動画サービスは次のように大きく成長することが予測されています。

オンライン・エンタメ市場全体は、2012年の508億元(8500億円)から2016年には1569億元(2.6兆円)に成長し、2022年には6884億元(11.5兆円)に達する見込み。

その中で、オンライン動画広告市場は1258億元(2兆円)、コンテンツ課金市場は730億元(1.2兆円)に成長することが予想されています。


また、2017年時点だと、オンライン動画広告市場の17.6%、動画課金サービス市場の27.7%、オンライン・エンタメ市場全体の7.8%のシェアを握っていることになります。

iQiyiが現在のシェアを維持することができれば、2020年時点で6329億円、2022年時点で8900億円規模まで売上が拡大することになります。

実際には、上のようにマーケット全体に占めるシェアは拡大傾向であり、インターネット事業の性質(トップ企業に売上が集中する)から言っても将来はさらに大きくなるかもしれません。


財政状態とキャッシュフロー

続いて、iQiyiの財政状態を見てみます。

総資産は202億元(3364億円)あり、そのうち現金同等物が7.3億元(121億円)と短期投資が7.8億元(130億円)あります。

最も大きいのはライセンスの版権(Licensed copyrights)で、2017年末には45.6億元(760億円)もの版権を有しています。


資産がどこからやってきたかを表す負債と自己資本の項目を見てみます。

最も大きいのは投資家に割り当てた転換優先株などからなる「Total mezzanine equity」で、2017年末時点で226億元(3764億円)を報告しています。

事業によって溶かした金額(Accumulated deficit)は150億元(2500億円)にのぼり、Baiduをはじめとした株主の巨大な資金を先行投資してきたことがわかります。


キャッシュフローの状況も見てみます。

営業キャッシュフロー(赤い項目)は増えており、2017年には40億元(666億円)にのぼっています。

一方で、投資キャッシュフローは2017年には100億元(1666億円)を超えており、足りないお金は財務活動で補うという形になっています。

投資キャッシュフローの主な内訳です。

2017年には版権のライセンス(黄色い項目)に91億元(1515億円)近い金額を投資しており、コンテンツに莫大な投資を行ってきたことがわかります。


損益計算書に戻って、売上とコストを比較してみると、売上とほとんど同額を売上原価として計上しています。


まさに札束の殴り合いというか、明らかに伸びる市場で強力な親会社がついているからこその戦い方と言えます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

「中国版Netflix」と言われるiQiyiですが、売上の半分が広告売上だったり、ユーザーあたりの単価はかなり安かったりと、Netflixとは大きく異なる点がいくつもあります。

中国にはアメリカの3倍以上の人口がいる一方、所得水準はアメリカよりも低いため、ユーザー数を大きくして広告を配信する、というモデルが合理的だったのではないかと推測できます。

その一方で、今後も続く経済成長と、それに伴う中国エンタメ市場の成長により、iQiyiの収益構造も大きく変化していくことが予想されます。


中国インターネット企業では、中国版ニコ動とも言われる「ビリビリ」が上場したとのことなので、後ほどそちらもチェックしてみたいと思います。