昨日、サイバーエージェントの通期決算が出たのでまとめていきます。
決算説明資料には81枚のスライドが出されています。それを一枚一枚見ていきながら、過去のデータなども適宜参照しながら中身を掘り下げていきたいと思います。
かなり長くなりましたが、サイバーエージェントの事業構造や今後の戦略などがうまくまとめられたと思います。
まずは全体の業績です。
売上高は3713億円(YoY+19.5%)、営業利益は307億円(YoY-16.6%)。AbemaTVなどで209億円の営業損失を計上しています。
広告事業とゲーム事業がそれぞれ2081億円、1403億円の売上高をあげています。
売上高の推移です。
売上高はこれまで通り、順調に、というか加速度的に伸びています。4年前と比べて2倍以上に成長しています。
営業利益も、AbemaTVを除いた限りでは2017年9月期に516億円と、成長を続けています。
AbemaTVは今期209億円の営業赤字となっているため、全体としては307億円の営業利益にとどまっています。
サイバーエージェントは先行投資と収穫期を繰り返しながら大きくなってきた会社なので、今から数年後にAbemaTVを収益性の高い事業に育てられるが最大の焦点と言えます。
続いて、損益計算書を見てみます。
表で見てもいまいちピンと来ないので、費用をグラフにしてみます。
売上原価が2483億円、販売管理費が1229億円と、費用としては最も大きくなっています。
そのほか、特別損失が47億円、法人税などが123億円にのぼっています。
対売上比率でも見てみます。
売上原価率は64%から67%へと、若干上昇しています。販売管理費は25%前後で同じくらいです。
続いて、バランスシート(貸借対照表)の状況をみていきます。
まずはバランスシートの左側、資産の内訳です。
総資産1640億円のうち、現預金が466億円、売掛金などが474億円、流動資産が合計で1170億円と、かなりの部分を占めています。
買収によるのれんは16億円ほど、ソフトウェア(+仮勘定)は225億円ほど、投資有価証券は55億円ほどあります。
比率でもみてみます。
現預金は総資産の28.4%を占めています。前年は33%あったので比率としては減少しており、その代わりにソフトウェア仮勘定が5.97%から8.22%へと増大しています。
続いて、バランスシートの右側(負債と純資産)の内訳をまとめてみてみます。
利益剰余金が633億円と圧倒的に大きくなっています。資本金と資本剰余金、長期借入金は合計しても122億円程度であることから、サイバーエージェントの資産の源泉はほとんどが利益剰余金に由来していると言えます。
続いて、サイバーエージェントの収益の内訳をセグメントごとに見てみます。
一貫してインターネット広告事業が収益の柱となっているほか、ゲーム事業も1403億円もの売上をあげています。
こうして見ると、サイバーエージェントのメディア事業は直近でも外部売上高が190億円と、全体に占める比率で言うと決して大きくないことがわかります。
インターネット広告事業とゲーム事業の成長を維持したまま、メディア事業を数1000億円規模の売上まで育てることができるかが今後のポイントと言えそうです。
ここからは、各セグメントの業績を具体的にみていきます。まずはサイバーエージェントの収益の柱であるインターネット広告事業です。
この5年間の成長は、主にスマートフォン広告によって牽引されていることがわかります。
比率でもみてみます。
今期はスマートフォン広告が78%と、かなりの部分を占めています。来年以降はどうなっていくのか気になるところですが、それだけスマホシフトは進んでいるようです。
インターネット広告事業による営業利益は順調に増加し、直近では187億円と、4年前の2倍以上に成長しています。
四半期ベースの売上推移もありました。
スマートフォン広告の中でもSNSなどのフィードに含まれる「インフィード広告」の四半期収益が126億円にまで成長しています。動画広告も四半期で86億円と、売上が大きく成長しています。
比率でもみてみます。
四半期ベースだとスマートフォン広告の割合が80%を超えており、インフィード広告は22%、動画広告も15%を占めるまで成長しています。
今後は、さらなる成長が期待される動画広告の強化に取り組むとしています。
続いて、サイバーエージェントの第二の柱に育ったゲーム事業です。
具体的な数値の記載はないですが、公開年度ごとの収益がグラフにされています。
2013年以前のタイトルはさすがに減少していますが、2014年に公開されたタイトルが今でも大きな収益を生み出していることがわかります。
そこに2016年、2017年公開タイトルの収益が徐々に積み上がっている形になっています。
スマートフォンゲーム事業では「数年単位で収益を生み続けるロングヒットをいかにコンスタントに積み上げていけるか?」が成功の鍵になっていると言えそうです。
ゲーム事業の営業利益はばらつきはあるものの、50億円から90億円の間でここ2年くらいは推移しています。
広告宣伝費の増大によって利益率は少し低下しているようです。
セールスランキングを見ると、2016年上期には比較的安定していたランキングが、今年は若干伸び悩んでいるように見えます(好調って書いてあるけど)。
今年はヒットタイトルが多く、競争が激化していたのかもしれません。
2018年9月期には10本の新規タイトルを提供予定とのことです。
ゲーム事業の注力ポイントは次の3つ。
これまで通り、ヒットを飛ばし続けることを目指すという形のようです。
続いて、サイバーエージェントが第3の柱に育てようとしているメディア事業です。
この事業ではAbemaTVばかりが目立ちますが、マッチングサービスも好調のようです。
しかし、目玉はやはり何と言ってもAbemaTVで、開局から1年半が経って2200万ダウンロードを突破しています。
単純計算すると、日本人の6人に1人はダウンロードしていることになります。実際は重複とかもありそうですが。
MAUは948万人と、もう少しで1000万人に達するところまで来ています。ただ、それ以上の伸びをなかなか見せられていないようにも見えます。
安倍総理に生放送で出演してもらったりと、注目コンテンツによってヤマを作りながらMAUを拡大していく方針のようです。
利用者層の変化です。
若い世代を中心に視聴者が増加しています。AbemaTVは女性視聴者が少ないことが悩みだったようですが、今年の9月には39%にまで増加しています。
国内の動画サービスのMAUではAbemaTVが圧倒的です。
それ以外だとAmazonプライム・ビデオもかなり伸びているみたいですね。ただ、AbemaTV以外はほぼ有料のコンテンツなので単純な比較は難しい気もします。
YouTubeはもっとデカそうだし。
今後は「コンテンツ強化」「広告商品の拡大」などによってユーザー数と収益拡大を共に目指していく予定のようです。
コンテンツ強化では、元スマップのメンバーを起用したり、テレビ朝日の主力番組を取り込んだりしています。
その他、オリジナルドラマの制作も開始。この辺の流れはNetflixやAmazon Prime Videoなどと同じですね。
また、AbemaTVを中心に、M&AやIPの拡充など、多様な収益構造を構築していく狙いのようです。
そして、最終的な目標は「マスメディアを目指す」ことと明確です。
サイバーエージェントは、新規事業として「マッチングサービス」「esports」「仮想通貨取引事業」の3つに注力するとしています。
マッチングサービスでは「タップル誕生」の会員数が250万人を超えたほか、「CROSS ME」「mimi」など、色々な切り口からサービスを展開しています。
App Storeのセールスランキングでは「Pairs」「Omiai」などを抜き、国内最大級に成長しています。
また、「esports」と呼ばれる領域にも力を入れています。
esportsは「エレクトロニック・スポーツ」の略で、コンピューターゲームなどの対戦を競技として行うものの総称です。特に海外ではプロのeスポーツ選手が多くいると聞きます。
具体的には、ゲーム動画配信プラットフォームとして「OPENREC.tv」を運営しているようです。
MAU160万人と大きく伸びています。
また、最近注目を浴びている仮想通貨領域にも進出するつもりのようです。
2018年春の開始とのことなので、半年後くらいですね。その頃にはこの領域がどうなっているか、という部分はありますが。
最後に、サイバーエージェントの中長期的な戦略を改めて押さえておきましょう。
サイバーエージェントの事業の柱は「広告」「ゲーム」の2つです。今後はこれに「AbemaTV(=メディア事業)」を加えて、3つの柱を作ろうとしています。
現在はそのための投資フェーズという位置付けで、数年後にAbemaTVがそれだけの事業になるかどうか、というのがサイバーエージェントという会社の大きな分かれ目になると言えそうです。
国内テレビ局の売上は1000億円から6000億円という規模です。
この中にサイバーエージェントの「AbemaTV」が入っていけるのでしょうか。とても楽しみです。
サイバーエージェントの配当方針については「DOE5%」という面白い基準を打ち出しています。DOEは「Divdend on equity」、すなわち自己資本あたりの配当額を示す値です。
2017年9月期の純利益が40億円だったことを考えると、残った利益のほとんど全てを配当として当てていることになります。
成長企業として長期的な事業成長を目指しながら、積極的に配当もするというのはかなり珍しい気がします。
今後もどうなっていくか楽しみですね。
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