「モンスト」のヒット前後でミクシィはどう変わったか?コスト構造や資産の変化を財務諸表から読み解く

ミクシィの創業は1997年1月にさかのぼります。

当時、ミクシィ創業者の笠原健治氏は東京大学の文系学生で、元々は官僚になりたかったそうですが、当時の「官僚汚職問題」などに失望。そこで出会ったのがテクノロジー・ベンチャーの世界でした。

その笠原氏がプログラミングを独習して立ち上げたのが「Find Job!」という求人サイト。

1999年6月には有限会社イー・マーキュリーを設立。2001年にはニュースリリース配信代行事業として「@Press」の運営も開始しています。


そんな中、2004年2月にソーシャル・ネットワーキング サービス「mixi」の運営を開始。

これが大ヒットし、2005年8月にはユーザー数100万人を突破。2006年2月に社名を「ミクシィ」に変え、9月に東証マザーズに上場しています。

「mixi」は2007年5月にはユーザー数1000万人を突破し、国民的サービスとも言える規模に拡大しますが、その後TwitterやFacebookなど海外SNSの普及により人気は下火となります。

「これで終わったか?」という声もささやかれたミクシィ社でしたが、2013年10月にスマホゲーム「モンスターストライク」の提供を開始すると、これがさらに桁違いの大ヒットを生みます。

日経データサイトによれば、2017年7月とつい最近までApple App Storeの国内ストア売上1位を獲得していました。

「モンスト」のヒットで売上規模は17倍に

それでは、ミクシィの事業数値を追ってみましょう。ガンホー以上に笑ってしまうようなチャートになっています。

2014年3月期の売上高も121億円と、マザーズ上場のインターネット企業としてそれほど小さい規模ではありません。それが2015年3月期には1129億円、2016年3月期には2087億円という売上規模に爆増しています。

それに伴い、営業利益率も一気に40%以上にまで改善しています。

売上の内訳は次のようになっています。

「モンスト」は「エンターテイメント」セグメントとして計上されていますが、まさに爆発的というのがしっくりくる成長です。突如現れた売上が、それまでの売上にそっくりそのまま上乗せされていることがわかります。

コスト構造の変化〜売上原価率が10%前後に減少〜

次に、ミクシィのコスト構造の変化をみてみます。

2014年3月期まででも売上原価率は30%前後と低い水準にありましたが、「モンスト」がヒットした2015年3月期以降は10%前後と、劇的に改善していることがわかります。

一方、販管費の対売上比率は40%から50%の間で概ね推移しており、一見大きな変化はありません。

しかし、詳しく見ていくとどちらもかなり大きく変わっていることがわかりました。

「モンスト」のヒット前後で、ミクシィのコスト構造は具体的にどう変わったのでしょうか?それをここから掘り下げていきたいと思います。


まずは、売上原価率の内訳です。

社内の開発者などの人件費からなる労務費や、賃借料などが多くを占めていたのが、2015年3月期以降は外注費がほとんどになっています。

サービスの拡大によって人手が追いつかなくなってしまった状況が想像できますね。

実際、2015年3月期の決算説明会資料でもそのように説明されています。

売上原価の他の内訳も決して減ったわけではありませんが、売上の増加と比べると微々たる上昇率に収まっているため、上のようなグラフになっています。

絶対額でも見ておきましょう。

外注費が爆発的に膨れ上がっています。

続いて、販管費率の内訳です。全体を見ていると同じように見えましたが、内訳は大きく変わっていることがわかります。

2014年3月期までは給与手当が販管費のある程度の割合を占めていたのが、翌年以降は「その他」の中に入れられ、有価証券報告書に記載すらされていません。

一方で増加したのは「決済手数料」「広告宣伝費」の二つで、10倍以上に増加した売上高に対してこの割合ですから、莫大な額が投下されていることがわかります。

「決済手数料」はApple App StoreやGoogle Playにおける取引手数料30%ですね。でかい。

この決済手数料、コロプラやgumiでは売上原価に入れられていたのが、ミクシィの場合は販管費に入れられてるんですね。

販管費の内訳も絶対額で見ておきましょう。

決済手数料だけで600億円前後と、莫大な金額に達しています。広告宣伝費も200億円以上とデカイですね。

財政状況の変遷

スマホゲームが大きくヒットすると営業費用はどう変化するのか、というのはわかった気がします。次は、バランスシートがどのように変化するのかをチェックしてみましょう。

現預金は1342億円と莫大な金額が積み上がっています。資産の合計は1769億円なので、資産の75%以上がキャッシュとして保有されていることになります。

また、注目したいのは2015年3月期から「のれん」が141億円計上されていることです。

これは、ミクシィが「フンザ」や「ミューズコー」などを買収したことによるものです。

負債の内訳もちらっと見ておきましょう。

ほとんどが買掛金など、1年以内にすぐ返済される流動負債となっています。

純資産の内訳です。

利益剰余金は1399億円と莫大です。また、自己株式を105億円ほど取得しています。

キャッシュフローの変化とFCF倍率

最後に、事業キャッシュフローがどのように変化したかを見てみます。

2014年3月期までは年間27億円のFCF(フリーキャッシュフロー)がせいぜいだったのに、ここ3年の平均は529億円ととんでもない規模に大きくなっています。

2017年3月期のFCF(406億円)をもとにFCF倍率を計算してみましょう。ミクシィの現在の時価総額は4177.53億円なので、単純計算すると10.2倍ほどとなります。

しかし、ミクシィには負債が264億円に対して1342億円もの現預金があることを忘れてはいけません。

二つの差額である1078億円は自由に使えるお金なので、その分を時価総額から割り引くと、FCF倍率は7.63倍となります。つまり、ミクシィが現在のFCF規模をキープできると仮定したら、8年で元を取れることになります。

ただ、実際には現在の規模を安定してキープすることは難しいでしょう。そのためにはモンストがこれから10年近く今の規模でヒットし続けなくてはなりません。あるいは、モンスト並みのヒットをもう2回か3回生み出す必要があります。

ミクシィの経営スタイルを見ていると、スマホゲームに限らず、あらゆる分野で「良いサービス」を作っていこう、という構えのように見えます。

経営資源は膨大なのですから、無理な成長を目指さず、資本を賢く投資しながら質の高いサービスを幅広く作っていく、というのは自然な選択のように思います。

そういう意味では、潤沢なキャッシュはゲーム事業よりも幅広く社内外に投資していくほうが、長期的な成長にはつながるのではないかと思います。

今後も引き続き注目したいと思います。