今回取り上げるのは、アメリカの小売チェーン「Bed Bath & Beyond」という会社で、家具やベッドシーツなどの家庭用品を販売しています。
設立は1971年のことで、それ以来安定して業績を伸ばしています。
1995年2月期の売上高は4億4026万ドルでしたが、2017年2月期には122億1575万ドルにまで増加。
成長率こそ鈍っているものの、安定して黒字の優良企業のように見えます。
ところが株価の推移を見ると、2015年以降暴落しています。
株価はピーク時の三分の一程度にまで下落し、時価総額はわずか32億ドルとなっています。
今日の午前中にチェックした「売上5億ドル、損失も5億ドル」のSea Limited(時価総額35億ドル)よりも、売上高120億ドルのBed Bath & Beyondの方が企業価値が低いことになります。
これは一体どういうことでしょうか?
今回のエントリでは、Bed Bath & Beyondがどんな会社なのかを整理した上で、そのことについて考察してみたいと思います。
冒頭で触れた通り、Bed Bath and Beyondは、家具製品を販売するアメリカの小売チェーンです。
(ホームページより)
1971年に2店舗を創業し、当初はベッドリネン(シーツや枕カバー)や浴室用品に特化していました。
1985年には家事用品や家具全般を取り揃えた新しい業態の店舗を「Bed Bath & Beyond」の名前とともに展開し、商品の取り扱い範囲を広げます。
1992年には34店舗を展開し、ナスダックに上場。1999年にはEコマースも展開し、オムニチャネル化を推し進めます。
M&Aにも積極的で、ヘルス&ビューティーショップ「Harmon Stores, Inc.(2002年)」やギフト商品を販売する「Christmas Tree Shops, Inc.(2003年)」、幼児向け用品「Buy Buy Baby, Inc.(2007年)」、繊維製品「Linen Holdings, LLC(2012年)」、家庭用品「Cost Plus, Inc」などを買収。
その他にも、ファッションEC「Of a Kind, Inc.,(2015年)」、家具EC「One Kings Lane, Inc.(2016年)」、パーソナライズEC「PersonalizationMall.com(2016年)」、インテリアデザインプラットフォーム「Decorist, Inc.」など、近年はインターネット企業の買収に積極的。
グループ店舗数の推移です。
2012年に買収した「Cost Plus, Inc」は258店舗を展開していたため、2013/2期にはガツンと店舗数が増えています。
2017/2期末の店舗数は1546店舗。
全体の売上高を店舗数で割ってみます。
安定して700万ドルから800万ドルの間で推移しています。
Eコマースもあるので、正確な数値は少し小さくなるはずですが、Bed Bath & BeyondがEC売上を公開していないので、オンライン売上はあまり大きくないのかもしれません。
売上高の内訳を商品ごとに見ると、およそ37%が家庭用品(Domestics merchandise)、残り63%ほどが家具(Home furnishings)となっています。
家庭用品にはベッドリネンや浴室用品などの小物が含まれており、ベッドリネンは売上全体の11%ほどを占めています。
Bed Bath & Beyondが扱う製品には、自社開発のブランドと他者からの仕入れが両方含まれています。
続いて、バランスシートから財政状態をチェックしてみます。
総資産は68億ドルあり、そのうち現金同等物は5億ドル程度。
最も大きいのは在庫で、29億ドル。有形固定資産も18億ドルあります。
その他、買収によるのれん(Goodwill)が7億ドルと、年々増えてきています。
資産の調達源泉を表す負債と自己資本の内訳も見てみます。
長期借入金は近年増加し、15億ドルに上っていますが、それほど大きいものとは言えません。
利益剰余金が110億ドル積み上がっており、そのうち100億ドルを自社株の取得に当てています。
Bed Bath & Beyondの時価総額は32.1億ドルで、有利子負債は15億ドル、現金同等物は5億ドルなので、企業価値(EV)は42億ドルくらいということになります。
キャッシュフローの状況も見てみましょう。
営業キャッシュフローは10億ドル以上を安定して稼ぎ出しています。
そのうちかなりの部分を設備投資や買収、自社株買いに充てる、という極めて優良としか言いようがないキャッシュフロー。
フリーキャッシュフローは直近で6.7億ドルほどなので、企業価値の42億ドルは7年もあれば十分に元が取れることになります。
過去の数値を見る限り、時価総額32億ドルはあまりにも悲観的な数字です。
しかし、実際に今期の数字を見ると、利益率が大きく低下しているのも事実です。
というか、絶対額としてどんどん減少していますね。
数年前と比べると半分以下にまで減少していますし、今後も減少することが予想される中で、そりゃあ市場が高い評価をするはずもありません。
コスト構造の変化を見ると、確実に費用が売上に対して増加しています。
売上原価率は62%前後だったのが64%以上に、販管費は29%くらいだったのが31%前後に増大。
それぞれが2ポイントずつ上昇することで、かつて8%前後はあった利益率が半分に下落してしまうことになります。
Bed Bath & Beyondは、自社の価格戦略について「高品質で差別化された製品やサービスを適切な価格で提供する。競合の価格水準を常にチェックしており、その中で適切な価格を選択する」としています。
Bed Bath & Beyondの利益率が低下してきているのは、同社が提供している小売マーケットにおける競争の激しさを反映していると言えるのではないでしょうか。
決算書を読む限り、Bed Bath & Beyondの競争優位性がどこにあるのか、よくわからなかったというのが正直なところ。
期待を集めることができなければ、投資家は過去の結果から判断するしかありません。
投資家に対して自社の明確な優位性を示せていないことが、同社の株価の下落に現れているのではないでしょうか。
しかし、現在の事業規模に対して割安であることもまた間違いないことだと思うので、そのうちAmazonに買収されたりすることもあるかもしれませんね。出店してるし。
創業から47年もの間、売上成長を続けてきたBed Bath and Beyondがこれからどうなっていくのか。今後も引き続きワッチしていきたいと思います。
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