今回は「大ボラ三兄弟」の長男こと永守重信氏が会長兼社長を務める「日本電産」についてまとめます。
始まりは1973年で、会長の永守重信氏らにより、京都市の小さなプレハブ小屋で4人の社員とともに創業。
精密小型から超大型まで、あらゆる種類のモーターを手がける、総合モーターメーカーとなっています。
業績推移を見ると、売上高1兆1993億円、営業利益1403億円と大きく成長しています。
日本電産といえばやはり創業者であり、名経営者として知られる永守氏のキャラクターが強烈です。
同社の「三大精神」の一つである「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」などの言葉が有名ではありますが、実際に日本電産の事業について理解している人は少ないのではないでしょうか。
今回は、日本電産の事業について整理した上で、同社の決算数値や今後の方向性についてまとめてみたいと思います。
日本電産の事業内容は、冒頭で述べたとおり「総合モーターメーカー」です。
モーターには、大きくAC(交流)モータとDC(直流)モータの二種類があるのですが、DCモータは消費電力がおよそ半分で済むなど、環境面において多くのメリットがあります。
世界の電力需要のうちおよそ50%をモーターが占めると言われる中、DCモータの需要は拡大しており、今後も高い成長が期待されます。
そして、日本電産は「ブラシレスDCモータ」と言われるジャンルで圧倒的な世界シェアを握っています。
(公式サイトより)
それ以外でもHDD用、ゲーム機用ファン、プロジェクター用、光ディスクドライブ用、アイスメーカー、スマートフォン用振動モータなど、数多くの領域で世界シェアNo.1を握っています。
このように、コンピューターや電気自動車、エアコン、掃除機など、テクノロジー社会であらゆる所に存在し、密かに大活躍しているのがモーターです。
カテゴリ別のモーター売上高を見てみましょう。
近年の売上成長は、そのほとんどが「車載及び家電・商業・産業用」に牽引されていることがわかります。
日本電産は「より軽く、薄く、小さいモーターの製造を目指して技術を磨くことで、この領域で世界で圧倒的な存在になることを目指す」と言っているのでこれは少し意外ですね。
実際には中型のモーターが成長を牽引していることがわかります。
続いて、地域ごとの売上高もみてみましょう。
日本の売上は3000億円弱でほぼ横ばいです。
成長を生んでいるのは米国と中国で、2017/3期にはそれぞれ2089億円、2930億円を売り上げています。
タイの売上が1000億円以上あるのは興味深いですね。
続いて、日本電産の財政状態を確認してみます。まずは資産の変遷です。
総資産は1.67兆円。そのうち3215億円が現金同等物となっています。
有形固定資産が3940億円と最も大きく、買収によるのれん(営業権)は2601億円となっています。
かなり積極的なM&Aを展開してきた割には、のれんの割合が小さいように思います。日本電産の永守氏は、過去の買収で一度も減損を計上していません。
買収戦略では「高値づかみしないこと」を重視しており、そのためにのれん代(簿価に対する買収額の超過分)が比較的小さく収まっているのではないかと考えます。
続いて、日本電産の資産の源泉として、負債と純資産の内訳をみてみましょう。
最も大きいのは利益剰余金で、7166億円に上っています。続いて借入金や長期債務の合計が4124億円。
資本金と資本剰余金の合計は2061億円となっています。
日本電産が、自社事業の利益を再投資することで大きくなってきたことがわかります。
ここで、日本電産のEV(企業価値)を計算してみましょう。
すごい株価の上昇角度です。株式時価総額は5.42兆円。
借入金などの合計が4124億円、現金同等物が3215億円ですから、ネット有利子負債は909億円となります。
以上から、日本電産のEV(企業価値)は5.51兆円。
次に、日本電産が事業で生み出すキャッシュフローとEVを比較してみましょう。
毎年1000億円前後の営業キャッシュフローを生み出し、ふんだんに投資に回していることがわかります。
営業キャッシュフローから設備投資額を引くことで、フリーキャッシュフローを計算してみます。
フリーキャッシュフローは毎年安定して100億円から600億円ほどを稼いでいます。
綺麗な右肩上がりではありませんが、全体として見ると増加傾向で、直近6年間の平均フリーキャッシュフローは453億円となっています。
先ほど計算した日本電産のEV(企業価値)は5.51兆円ですから、フリーキャッシュフローに対して121倍もの企業価値が付いていることになります。
これは単純に考えると、日本電産を今の企業価値で買収した場合に、元を取るまでに121年かかるということですから、市場からかなり高く評価され、大きな成長を期待されていると言えます。
日本電産は、市場からかなり高い評価を得ていることがわかりました。
そんな同社の今後の展望とはどのようなものでしょうか?直近の投資家資料を見てみます。
まず大枠にあるのは、「モータ」こそが今後の産業において最も重要な部品となるという強い信念です。
近年、売上を大幅に増やしている車載モーターにおいては、やはり「EV(電気自動車)」へのシフトが本格化していることが背景にあります。
一口に車載モータと言ってもブレーキ用やエンジン冷却用など用途は幅広く、今後の受注高は2020/3期までに倍増することを見込んでいます。
自動車だけではありません。ファクトリーオートメーションやロボットなどの分野でもモーターは重要な部品です。
今後、ロボット用の減速機のニーズが指数関数的に拡大するとして、生産能力を現在の30倍以上に増やすとしています。
スマート家電やコードレス化の流れでも、モータは重要な役割を果たします。スライドが全体的に気持ちいくらいドヤり調ですね。
日本電産は、中期戦略目標として「Vision 2020」を掲げています。
売上目標は現在の2倍近い2兆円。そのうち、車載モータでの売上を最大1兆円まで増やすとしています。
その上で、営業利益率15%、ROE18%と高い収益性も両立。
今後は「車載」と「家電・商業・産業用」の2種類が重点分野となる見込みです。
2020年に向けて、世界では多くの有望とされる領域がありますが、モーターはその多くに関係する部品です。
その中でどれだけ多くのシェアを握れるか、というのが日本電産の勝負所であり、なるほど魅力的な市場に優位なポジションを築いているなあという印象です。
日本電産は2030年度に売上高10兆円を目指す、という大ボラを吹いています。
日本電産がモーターという魅力的な市場において世界的にみても優位な地位を築いていることと、社長であり会長の永守氏のカリスマ性を考えれば、決して不可能な数字ではないと思えてきます。
だからこそ、市場からも5.4兆円という高い時価総額がついているのでしょう。今後も引き続き応援したい会社の一つです。
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