プリント基板開発のシェアリングエコノミー!IoT時代の需要拡大を狙う「ピーバンドットコム」
ピーバンドットコム

今回は、「ピーバンドットコム」について調べてみたいと思います。

何をやっている会社かというと、「プリント基板のネット通販」を行なっている会社です。

ピーバンドットコム

パッとみた感じで「マニアックな会社だな」という印象をいだきます。

しかし、ピーバンドットコムの顧客にはソニーやトヨタ、京セラなどの大手メーカー系企業から東大、京大、早稲田、慶応などの大学機関までが名を連ねています。

これら以外にも数多くの顧客企業がおり、累計の取引実績は20,938社に達しています。

業績推移をみても、着実に事業規模を拡大していることが分かります。

通期の売上高は19億9,522万円、経常利益は2億9,070万円に達しています。

ところがどっこい、上場してからというもの株価は下がり続けています。

経常利益が3億円近くあるにも関わらず、時価総額は40億円のみ。

こういう会社についてはしっかり調べておく必要があります。


プリント基板にまつわるあらゆるサービスをカバー

ピーバンドットコムの主力事業は、通販サイト「P板.com」における「プリント基板のネット通販」です。



プリント基板とは、スマホやパソコンから自動車、航空機や人工衛星にいたるまであらゆる電子機器に使われる重要な電子コンポーネントの一つ。

電気を通さない絶縁体である基盤の上に電子部品がハンダ付けされ、電子回路として動作するようになっています。

電子部品同士の電気的な接続を行うことで、電力や信号を伝える機能を有しており、電子機器の高速化・高密度化が進んでいることで、プリント基板の重要性が増しています。


ピーバンドットコムでは、プリント基板の開発にまつわるワークフローを幅広くカバーしています。

2017年3月期決算説明資料

どんなプリント基板を作るかという「アイデア」段階から、設計・製造、実装、完成に至るまでをカバーしており、「GUGENプラットフォーム」という名前で総称しています。

その中の一つがネット通販サイト「P板.com」というわけです。


アイデア段階では、プリント基板に関する情報を暑かった「@ele」というメディアを自社で運営しています。

@ele

すごくマニアックです。

設計段階では人材が必要ということで、ハードウェア開発に特化したビジネスマッチングサービス「GUGENクラウド」も提供しています。

GUGENクラウド

また、プリント基板が完成したあとの段階では、広報イベントとして「GUGENコンテスト」も開催。

GUGEN

2017年の応募作品をみると、教育用のドローンや歯磨きにセンサーを取り付けた「スマート歯ブラシ」など159点が応募されています。

スポンサーにはチームラボやDMM.make、日本マイクロソフトなども参戦。


このように、個人の電子工作から人工衛星の開発にいたるまで、幅広いジャンルを「プリント基板」を軸に展開しているのがピーバンドットコムというわけです。


工場利用を効率化することでイニシャルコストを無料化

「GUGENプラットフォーム」と称して、幅広いフェーズをカバーしようとしているピーバンドットコム社ですが、メイン事業はあくまで「プリント基板のオンライン通販」です。

従来の購買方法では、メーカーの営業マンと交渉しながら「言い値」で発注にこぎつける必要がありました。

また、「イニシャル費用」と称した基板の初期設計に関するコストがかなり高額であることも特徴です。

ピーバンドットコム

しかしピーバンドットコムは、あらゆるコストを「製造費」に詰め込むことで、この「イニシャル費用」を完全無料にしています。

これができたのは、基板の仕様(スペック)を標準化し、材料調達や保管、製造工程などのムダを極限まで排除したから。


従来の工法では、受託した企業の基板開発だけを行うため、開発リソースが余ってしまうというムダがあります。

しかし、ピーバンドットコムはオンラインで数多くの開発を受託するため、数多くの基板開発を限られたスペースで同時に行うことで、より効率的にプリント基板の開発を行うことができるとのこと。

仕様を選ぶことでオンラインで簡単に見積もりを取れるようにしたことや、受発注管理をすべてシステム上で管理することで、最短1日で出荷するという驚異の短納期を実現しています。


そしてこれらの開発は全て「ファブレス」で行われています。

国内外のさまざまな工場(仕入先)と提携しており、あらゆる仕様ごとに最適な工場に発注することができます。

最近上場した会社だと「ラクスル」がまさに同じようなモデルです。

ラクスルも数多くの印刷工場と連携して、工場の空いているリソースを活用してもらうというまさにシェアリングエコノミー。

これらの工程をすべてオンラインで完結できるようにしたことが、ピーバンドットコムの成し遂げた変革ということができます。


ワンストップ利用売上や高単価商品が伸長

ピーバンドットコムの事業の特徴についてはだいぶ掴めてきました。

今度は現在の状況について数値ベースでチェックしてみましょう。

2019年3月期1Q決算説明資料

まず、登録ユーザー数は5万人に迫っています。

過去の数値は公開されていませんが、目視で確認する限りでは4年前の1.5倍といったところでしょうか。


今四半期の売上高については、前年から6.4%の増収ということであまり大きな成長ではありません。

このあたりが、市場からの評価が低い理由に現れているような気がします。

売上に季節性があるというのも興味深いところ。

また、全体の17.4%が製造だけでない「ワンストップ」サービスを利用する顧客となっており、全体の売上の29.3%を占めています。

当然ながら、製造だけを行うよりもワンストップサービスの方が単価が高く、そうした顧客の増加が増収の大きな要因になっています。

また、IoT関連やウェアラブル関係の「フレキシブル基板」というものが伸びているようです。

ピーバンドットコム

フレキシブル基板とは、その名の通りとても自由度の高いプリント基板のこと。

「薄さ」と「柔らかさ」が最大の特徴であり、曲げても電機的特性が変わりません。

基板自体を屈曲させることができるため、カメラのレンズや折りたたみ式携帯電話など、立体的な回路に必ずといっていいほど使われています。

「IoT」と呼ばれるジャンルが伸びるにつれ、こうした基板の需要が高まりそうだと感じるのは自分だけでしょうか。


財政状態はとても良好

会社としての財政状態についても確認しておきましょう。

総資産は2018年6月末時点で11億円あります。

そのうち7億8,436万円が現預金ということで、かなりキャッシュリッチです。

有形固定資産は379万円ほどと少ないですが、これは前述した通りピーバンドットコム自体がファブレスであり、国内外の協力工場を活用しているため。


借入金などはなく、利益剰余金5億6,022万円がおもな事業原資となっています。

これらについて図式化すると、次のようになります。


キャッシュフローについては前年通期のものを確認してみます。

2年とも、2億円前後の営業キャッシュフローを稼いでいることが分かります。

純利益とそれほど大きな乖離がありませんね。


目下の対象市場は1,500億円規模、IoT普及の波に乗ることを狙う

さて、最後にピーバンドットコムの今後のポテンシャルについて考えてみましょう。

直近の成長はハッキリ言って地味ですが、きたるべきIoT時代において将来は決して暗いものではありません。


国内のプリント基板生産額はおよそ6,000億円。

そのうち民生品向けの量産市場が4,500億円と大きく、ピーバンドットコムが対象とする少量生産リピート事業は1,500億円ほどです。

その中で、ピーバンドットコムは国内全体の0.3%、少量生産市場の1.3%程度のシェアを握っています。

今後は「IoT」によってセンサー市場が10年で4倍になる見通しがあり、彼らにとってある程度の成長は保証されているようなものといえます。


この中で、ピーバンドットコムは大きく3つの施策を打ち出しています。

一つは、より高単価である「ワンストップ・ソリューション」の利用推進です。

筐体・パーツ製造サービス

ピーバンドットコムでは、3Dデータを活用したオンデマンド受託製造をおこなう「プロトラブズ」社との連携のもと、筐体・パーツの製造サービスを提供。

基板からワンストップで注文できる加工サービスということをアピールしています。


二つ目の施策は、「基板」に関する取扱いアイテムを拡大すること。

電子回路をつなぐために使われる「ハーネス」の加工サービスや、プリント基板の部品実装に欠かせない「メタルマスク」の製造サービスを拡大していくとのこと。


そして三つ目の施策は、他社との連携強化です。

中国・深センでハードウェアの受託サービスなどを展開する「ジェネシスホールディングス」の藤岡氏を戦略技術顧問に迎えています。

深センは、中国で最も成長している都市として注目されており、テンセントやファーウェイなどの巨大テクノロジー企業も集積しています。


ピーバンドットコム社では、事業拡大のイメージを三つの波で捉えています。

第一の波は、「本格的IoT時代の到来」です。

IoTが本格的に普及を開始することで、45兆個のセンサ需要が生まれ、産業効果として350兆円ものインパクトが生まれるそうです。

二つ目は、「IoT技術者の需要拡大」であり、そのために仕込んでいるサービスこそが「GUGEN Crowd」ということになります。

三つ目は、「製造業のSPA化」です。国内外の工場をM&Aすることによって獲得していき1300億円の量産案件を狙っていくとのこと。