チームコラボレーションツールを提供する「Atlassian」の2018年4Q決算をチェックします。
はじめに四半期ベースの業績を見ていきましょう。
年度末となる2018/6期の売上高は2億4378万ドル。
営業損失は528万ドルまで縮小しています。
右肩上がりに売上を伸ばし続けていますが、成長率はどのように推移しているでしょうか。
2017年度にかけては少し落ち着いていましたが、今年度は約40%の高い成長率を維持しています。
「Atlassian」の好調を支える要因はいったい何なのでしょうか?
詳しく掘り下げていきたいと思います。
「Atlassian」はSaaSのイメージが強いですが、もともとのコア事業は顧客企業のホストサーバーにアプリケーションをインストールする「オンプレミス」でのサービス導入です。(リンク)
よって売上高は、SaaS利用料である「サブスクリプション」、オンプレミス導入による「メンテナンス」と「永久ライセンス(Perpetual license)」、「その他」の4つで構成されています。
現在、売上高が最も大きいのは、サブスクリプションの1億1743万ドル。
2013/9期は売上高に対する割合が22.1%ほどでしたが、現在で48.1%を占めるまでに増加しています。
収益の柱がSaaSへとシフトしていることが分かります。
セグメントごとの成長率を見てみましょう。
メンテナンスおよび永久ライセンス売上は20%前後と停滞気味。
それに対して、サブスクリプションは4年間、60%以上の高い成長率を維持し続けています。
では、顧客数はどのように推移しているのでしょうか。
「Atlassian」は顧客数を、1つ以上のアクティブな有償ライセンスを持つ組織単位(unique domains)でカウントしています。
推移を見ていくと、2017/3期の「Trello」買収や2017/9期の「Bitbucket Cloud」価格変更で急増し、10万の大台を突破。
その後も順調に増加して、現在の顧客数は12万5796です。
直近3か月では6000以上の新規顧客を獲得しました。
無料版も充実しているため、実際に使用しているユーザーは相当な数になりそうです。
1顧客あたりの平均売上を算出してみます。
顧客数が大幅に増えたこともあり、現在は2000ドルを下回っています。
今後、獲得した多くの顧客に対するアップセルやクロスセルに取り組むことで、さらなる成長が見込めそうです。
コスト構造も確認してみましょう。
研究開発費が前年比で2000万ドル以上増え、1億1104万ドルを費やしています。
サービス強化に向けて積極的な投資をできていることが、新規顧客を次々と獲得できている大きな要因と言えそうです。
一方で売上原価は4419万ドルと、前四半期よりも減少。
売上原価率は18.1%となっています。
バランスシートもチェックしていきます。
資産
最初に目に入ってくるのがキャッシュの大きさ。
2017年度の2億4442万ドルから5.8倍となる14億1033万ドルまで積み増しています。
総資産24億2451万ドルのうち約60%を占めています。
負債・純資産
調達の源泉を探ってみると、固定負債(Non-current liabilities)が膨れ上がっています。
これは2018年4月に発行した転換社債(Exchangeable Senior Notes)10億ドルによるもの。
キャッシュフロー
営業キャッシュフローが順調に増えており、3億1145万ドル。
投資キャッシュフローは5169万ドルと抑え気味でした。
フリーキャッシュフローはどうでしょうか。
フリーキャッシュフローは2億8124万ドルと、2017年度よりも1億ドル以上増加しています。
潤沢なキャッシュをこれからどのように使っていくのか、非常に興味深いです。
止まることなく成長を続けている「Atlassian」。
しかし、2019年度に向けて大きな決断を下しました。
競合である「Slack」との戦略的提携を発表。
コミュニケーションツール「Hipchat」および「Stride」のサービス提供を2019年2月に終了します。
既存ユーザーに対しては、Slackへの"引越し"を促しています。(リンク)
2012年に買収した「Hipchat」を強化する形で、昨年9月に「Stride」をローンチしたばかり。
しかし結局、利用者数は思うように伸びず。わずか10か月弱での撤退となりました。
JiraやBitbucket、Trelloといった主要プロダクトはすでにSlackとの連携機能が充実しており、今回の決断は「Atlassianの顧客をより前進させるためだった」と述べています。
この意思決定に対して株価はどう動いたのでしょうか?
73.84ドルと10%上昇し、現在の時価総額は173億4000万ドルです。
フリーキャッシュフローが2億8124万ドルでしたので、約62年分の値がついているということになります。
投資家の期待はどんどん高まってきています。
大きな市場に対して効率的な経営戦略を徹底している「Atlassian」。
営業活動を行わないセルフサービス型で、オーガニックリーチが87%に達しています。
オンプレミスからSaaSへの誘導もスムーズに進み、キャッシュを生み出す源泉に成長。
大型の資金調達を行ない、「これからどう出るのか?」というタイミングでコアプロダクトを絞る選択をしました。
黒字化も目前に迫っており、1年後にどのような成長を遂げているのか、ますます目が離せない存在となっています。
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