アメリカのオンライン決済サービス企業「PayPal」の2018年2Q決算が発表されたので、チェックしていきたいと思います。
まずは、売上高と営業利益の四半期推移を見てみましょう。
今期の売上高は38.5億ドルで、営業利益は5.7億ドルという数字。
右肩上がりの成長を続けていることがグラフから見て取れます。
前年同期からの売上成長率の推移を見てみましょう。
2年前の売上成長率は15%程度でしたが、ここにきて成長率は23%と、全体的に加速していることが分かります。
営業利益の成長率にも同じことがいえます。
2016年2Qには前年比マイナス6.78%と、むしろ利益の伸びは停滞していました。
それが、ここにきて前年プラス33%増と、利益の増加も加速しています。
今回のエントリでは、PayPalの成長が加速している要因について一つずつ掘り下げていきたいと思います。
まずは、収益ごとの変化についてチェックしてみましょう。
PayPalには、大きく「決済手数料(Transaction revenues)」「その他の付加価値サービス(Other value added services)」という二つの収益源があります。
全体の割合としては手数料売上が大きく、直近では33億ドルの売上をあげています。
一方、その他の付加価値サービスの売上は5.4億ドル。この中には、『PayPal Credit』のローンによる金利などが含まれています。
前年同期からの成長率の推移を見てみましょう。
決済手数料の売上成長率は20%前後で安定しています。むしろ、ここ1年間の中でいえば少し落ち着いてきたという印象。
その一方、「その他の付加価値サービス」の成長率が前年比で50%と、大きく加速しています。
PayPal全体の売上成長率は23%と、2年前(15%)と比べて8ポイントほど加速していますが、その要因としては
・決済手数料の増加率が(特に2017年3Q~4Qにかけて)好調だったこと
・その他の付加価値サービスの成長が大きく加速したこと
以上の2つを挙げることができます。
続いて、地域ごとの売上を見てみましょう。
アメリカ国内での売上は21.5億ドルで、それ以外が17億ドルほどの売上をあげています。
PayPalは、海外売上比率がほぼ50%と、グローバル化の割合がとても大きいことが特徴でしたが、ここ3年間でアメリカ国内の売上比率が55%にまで増加。
その理由は「アメリカ国内の成長率がそれ以外を上回っているから」です。
全体的に増収の傾向は変わりませんが、アメリカ国内の成長率が25%と高い一方、海外の成長率は18%。
この理由は、PayPalが大きく伸ばしている「その他の付加価値サービス」の提供地域がアメリカ国内に留まっているからだと考えることができます。
PayPalは決算スライドの中で、「その他の付加価値サービス(Other Value Addes Services)」の増収要因として『PayPal Credit』の存在を挙げています。(下の赤ワク部分)
『PayPal Credit』とは、PayPalが2008年に買収した後払いサービス(旧名:『Bill Me Later』)です。
99ドル以上の買い物をする場合、『PayPal Credit』を使った支払いを選択することで、その場では自分のお金を減らさずに買い物することができます。
半年以内に後払いを完了すれば、金利など一切払わずに買い物することができるというもの。
実際、PayPalのバランスシートを見ると、「ローンおよび未収利息(Loans and interest receivabl)」と言われる項目が右肩上がりに増え、直近では87億ドル弱となっています。
前年からの増加率を計算してみると、2017年ごろまでは30%前後といったところでしたが、ここにきて前年比50%へと加速。
PayPalの「その他の付加価値サービス」の売上成長率が50%前後にまで加速していますから、完全に一致と言いたくなるところです。
(PayPal Credit Terms and Conditions)
ちなみに、『PayPal Credit』の年間金利は25.49%とバチボコに高いことが分かります。
さて、PayPalのメイン事業である決済サービスの動向についても確認しておきましょう。
前述した通り、PayPalの決済手数料売上も前年比20%前後と、安定的な成長を続けています。
① TPV(総決済高)
まずチェックしておく必要があるのは「総決済高(TPV)」の推移です。
グラフのように、PayPal全体のTPVそれ自体が今でも伸び続けています。
直近四半期では1394億ドルという数字。
前年からの成長率を計算すると、今でも30%前後をキープしています。
先ほどの「ローン増加率」のグラフと似ていることから、『PayPal Credit』の展開を本格化したことがTPVの増加につながっているのかも。
② モバイルTPVが引き続き伸長
PayPalの決済総額が伸びている要因を別角度から見ると、「モバイル比率の増大」があります。
全体の四半期TPVは1394億ドルに達していますが、そのうちモバイルTPVは540億ドル。
モバイルTPVについては、2017年以前から前年比50%前後の高成長を続けています。
中でも、個人間送金を行える「Venmo」の合計決済額は142億ドル(前年同期から78%増加)と急激に伸びています。
全体のTPVに占める割合は、次のグラフのように増加しています。
去年の今頃は全体のちょうど3分の1(33%)程度だったのが直近では39%に。全体の5分の2ほどがモバイルによる決済ということになります。
③ eBay依存からの脱却が進行
PayPalはeBayの子会社だったこともあり、eBay上での決済比率が大きいという特徴があります。
しかし、それも徐々に改善されているようです。
上のグラフは、「eBay向け(下側)」と「それ以外(上側)」のTPV成長率を比較したものです。
eBay向けのTPVは前年比で6%前後という成長率にとどまっています。これは、eBay自体の成長率が鈍化しているので当然です。
その一方、それ以外の成長率は30%前後と高い水準をキープしています。
その結果、「eBay」上における決済額の比率は12%にまで低下。
今後も「Venmo」などのeBayと無関係な決済サービスが伸びていくことにより、eBayへの依存率は下がっていくことが予想されます。
成長がほとんど止まっている「eBay」への依存率が低くなれば、PayPal全体の成長率はもっと高くなるとも言えます。
④ その他の事業数値
TPV以外の数値についてもチェックしておきましょう。
まずは、アクティブアカウント数の四半期推移です。
アクティブアカウント数は2億4,400万人(前年同期15%増)へと増加。比較的まっすぐ直線的に増えているように見えます。
続いて、決済が行われたトランザクション数です。
今期のトランザクション数は23億回。前年同期から28%増加となっています。
上の二つのグラフから、「アクティブアカウント数の増大」以上に「トランザクション数」が増えています。
それはつまり、「一人当たりの決済回数」が増えているということ。
上のグラフのように、アクティブアカウントあたりのトランザクション数は、3年前の26回から、直近では36回へと拡大。
さて、TPVと決済手数料売上の二つから、PayPalの手数料率(テイクレート)も計算してみましょう。
PayPalのTPVは前年比30%という高いペースで成長していますが、手数料売上の成長率は20%程度。
これはつまり、テイクレートが下がっているということです。
実際、上のグラフのようにPayPal全体のレイクレートは2.5%を下回っています。
この要因としては、やはり若年層向けP2P送金アプリ「Venmo」の成長が挙げられます。
(Venmo)
『Venmo』では、クレジットカードを利用した送金の場合のみ、3%の送金手数料を徴収します。
しかし、銀行口座やデビットカード、『Venmo』上などのお金を送金する場合の手数料は無料。
個人間決済領域では、上のように手数料無料のサービスが拡大しているように見受けられます。
このトレンドが続いていけば、決済サービスとしては後払いサービスによる金利やデポジット金の運用など、本格的な金融事業によるマネタイズが進んでいくことでしょう。
最後に、市場がPayPalをどのように評価しているか、軽くチェックしておきます。
資産
まずバランスシートをみておくと、現金と現金同等物が28億4,000万ドル、投資目的の有価証券が21億2,500万ドルとなっています。
総資産は416億ドルなので、手元キャッシュの割合は11%ほど。
借入金はなく、純資産は159億円となっています。
企業価値
今回の決算発表を受けて、時間外取引で5%ほど上昇しています。
上昇傾向にあった株価はさらに増加しそうです。
現在の時価総額は1059億1,600万ドルとなっているので、現金同等物を考慮すると企業価値は1009億ドルとなります。
フリーキャッシュフローを見てみましょう。
マイナス1億7,000万ドルとなっていますが、これは後払いサービス『PayPal Credit』による顧客への貸出額が増加しているため。
PayPal全体で営業キャッシュフローを9億700万ドルほどマイナスにするという影響。
このインパクトを除くと、実質的には7億3,700万ドルのフリーキャッシュフローを稼いでいることになります。
年間で30億ドルほどのフリーキャッシュフローだと仮定すると、企業価値はフリーキャッシュフローの約33年分となります。
最後に2018年の目標を見てみましょう。
2018年は通年での売上高は153〜155億ドルを目標としています。
2Q時点での売上は75億ドルなので、このままいけば予想を達成することはできそう。
一方、フリーキャッシュフローの目標は45億ドル以上とありますが、2Q時点では14.7億ドル(貸出し金のインパクトを除く)という数字なので、ちょっと大変そう。
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