「Blue Apron」は、アメリカのニューヨークを拠点とする企業。
2012年に設立され、その36ヶ月後には米Business Insider誌の「NYテックで最も影響力のある企業ランキング」で4位に選ばれ、2200億円の価値があると評価されました。
そして、2年後の2017年6月29日にはニューヨーク証券取引所へ上場。レストラン業界と食品小売業界の両方を革新する企業として一目置かれる存在です。
彼らのサービスとは一体どういうものなのでしょうか。
1文で表すならば、「自宅にミシュラン星付きレストラン出身シェフのレシピと食材が毎週届き、家で簡単に本格的な料理が作ることができるサブスクリプションサービス」となります。
(ホームページ)
この記事では、「Blue Apronがどのようにして生まれたのか」という経緯や、現在のサービス内容、財務状況について確認し、今後の将来性についても考えてみたいと思います。
Matt Salzberg氏は、2010年にハーバードビジネススクールを卒業したのち、ベンチャーキャピタル「Bessemer Venture Partners」に勤めていました。
しかし2011年、何か自分で事業がしたいという思いから、友人のIlia Papasを誘い、仕事を辞めて試行錯誤をはじめたのです。
ある時、彼ら自身が食事が大好きであること、そして家で新しいレシピや食材を試すハードルの高さを実感していたことから、この問題を解決する方法はないか考え始めました。
そして、その結果思いついた解決策こそ「Blue Apron」だったのです。
Blue Apronのサービスはいたってシンプルで、ポイントは次の三つです。
・シェフの考えたレシピが届く
・そのレシピを実現するのに必要な分だけ食材や調味料が届く
・レシピと材料をもとに、簡単に楽しく美味しい夕食が作れる
ただ、彼らには全く食品業界の知識がなく、2人で事業を始めることはできませんでした。
そこで、Matt氏は家族の友人、Matthew Wadiak氏を誘うことにしました。
Matthew Wadiak氏はトリュフとアボカドの卸売業を行っており、Blue Apronの食品エキスパート兼COOとして、事業に参画しました。
(会社ホームページより、CTO Ilia Papas氏、左から元CEO Matt Salzberg氏、元COO Matthew Wadiak氏)
その後、2012年8月にBlue Apronのサービス提供を開始しました。
サービス利用者の友人への紹介とSNSマーケティングが功を奏し、顧客数は指数関数的に伸びて行ったといいます。
サービス提供開始からほどなくして、Matt Salzberg氏が以前勤めていたベンチャーキャピタルなどから300万ドルの出資を受け、事業成長をさらに加速させました。
2014年11月には、月100万食提供していることを発表。2015年夏にはその事業が20億ドルと評価されたのです。
では、Blue Apronのサービスを詳しくみていきましょう。
Blue Apronのサービスは至って単純で、利用者が自分の食べたいレシピを選択することで、そのレシピと具材が自宅に届きます。
プラン毎に人数と1週間の配達回数を選択できるので、それぞれの利用者が自分の好みに合わせて注文することができます。
(ホームページ)
ここでは、Blue Apronの特徴である、レシピと食材について、詳しくみていきます。
①レシピ
Blue Apronは、料理経験の多い少ないに関わらず楽しめるよう、様々なレシピを用意しています。
これらのレシピは、ニューヨークのミシュラン星付きレストラン出身のシェフなどが、季節や旬の素材にあうように考案されています。
また、顧客データや消費者の研究も行っており、それぞれのレシピの見栄えをよくしたり、顧客の好みに合うようにレシピを変更したりしています。
毎週10個以上の新しいレシピが考案されており、昨年度のみで550のレシピが開発されました。
Blue Apronの提供するレシピの特徴として、健康的や簡単というワードが挙げられます。
基本的に、1食500キロカロリーから800キロカロリーの範囲内に抑えられており、とてもヘルシーです。
しかも、1食45分以内で調理が終わるよう、基本的にデザインされており、面倒な計量作業等も行う必要のないよう、必要分のみ食材が届きます。
メニューをみると日本食を多くみかけるのですが、これは日本食が健康的で比較的簡単に作れるからでしょうか。
(ホームページ)
②食材
Blue Apronの信条は「素晴らしいレシピには、素晴らしい食材が必要である "a great recipe is composed of incredible ingredients"」です。
そのため、Blue Apronは全ての食材を契約している酪農家からのみ仕入れており、さらにラーメンやパスタなどの麺も全て契約パートナーから仕入れています。
全て高品質の食材を時間と人員をかけて探しており、契約農家にはオーガニック(有機)野菜を推奨し、援助しています。
このような努力の結果、Blue Apronは2016年にアメリカで売られた豚肉のうち、トップ1%の品質をもつ豚肉を顧客の食卓へ届けるました。
最後に、Blue Apronのプランと料金について調べたいと思います。
(ホームページ)
ホームページをみると、大きく分けて、2人用プランと家族プラン(1回4食分)の2プランがあるようです。
それぞれ週に何回レシピを送るかというオプションがあり、それによって価格が決まります。
シェフおすすめのレシピで、買い物も調味料の計量も必要なく、1人1食$10程度と考えればとてもお得なのではないでしょうか。
それでは、Blue Apronの財務状況をみていきましょう。
まずは業績推移について。
2012年の設立後、わずか5年でその売上を8.81億ドルまで伸ばしており、順調に売上が拡大しているといえます。
すでに1,000億円近い売上が出ているわけですから、新興企業としてはかなりの規模です。
しかし、営業赤字が出ていることが見て取れます。
しかもその額は2014年12月期には3080万ドルだったのが、2017年12月期には1.89億ドルと6倍に拡大しています。
なぜ赤字なのでしょうか。
その理由を知るため、コスト構造の分析を行います。
Blue Apronは高品質のレシピや食材を提供しているため、売上原価は高くなります。
売上原価の対売上高比率も2014年12月期に92.8%だったものが、売上の成長による規模の経済の効果により、2017年12月期には71.3%まで下がりました。
拡大する赤字の要因は拡大する販促費にあります。
決算資料にもあるように、Blue Apronは現在新規顧客獲得のため、ソーシャルネットワークや雑誌、Airbnbとのタイアップなど、様々な方法でそのブランディングを行っています。
ただ、マーケティング費用は2016年、2017年ともに1.5億ドル前後と、全体費用の中では それほど大きくない範囲にとどまっています。
その一方で拡大しているコストが製品開発費と管理費(Product, technology, general and administrative)です。
2016年の1.65億ドルから2.48億ドルと8,270万ドルも増えています。内訳は次のようになっています。
・4880万ドルは従業員の増加
・2120万ドルはオフィスや物流センター費用の増加
・1260万ドルは決済手数料を含む管理費用の増加
中でも大きいのは従業員数の増加であり、組織拡大が利益率を大きく押し下げている現状であることが分かります。
次に資産の保有状況を確認します。
固定資産が2期連続で増えています。
Blue Apronは、これらは物資の配送センターの建設、自動化に伴う機器の導入によってかかっている費用だと説明しています。
次に負債・純資本について確認します。
図を見てわかるように、増える固定資産と累積赤字を株発行による払込剰余金(Additional paid-in capital)と長期負債(Long-term debt)によって資金調達をし、補填していることがわかります。
Blue Apronは今後どれだけ発展することができるのでしょうか。
コスト構造の分析でみたように、顧客数が増え、売上が増えることで対売上のコストは減少すると考えられます。
つまり、新規顧客獲得を行うことができれば十分今後の発展が望めるということです。
市場規模をみると、Blue Apron成長の可能性がみえます。
アメリカの食品小売業界とレストラン業界のうち、オンライン取引のシェアはそれぞれ1.2%と2.2%です。
特に、食品小売業界のオンライン取引額は2025年に、今の10倍、1000億ドルに達すると予測されています。(Forbs)
この成長業界で、業界1位のAmazonとは全く違う戦略を取るBlue Apronには相当なビジネスチャンスがありそうです。
しかし、現実はそんなに楽ではありません。
Blue Apronは昨年、食材セットの配送遅延が続き、結果的にそれが顧客の離脱に繋がってしまいました。
株価も公開半年後の2017年末には、公開時の10ドルから3ドルまで、70%も下落してしまい、創業者兼CEOのMatt Salzberg氏が退任しました(現在はChairmanとして在任)。
(Blue Apron IR)
この図からわかるように、2017年度は第1四半期から第4四半期にかけ、オーダーの数が減っています。
第1四半期と第2四半期に起きた配送遅延や第3四半期以降の株価の下落等が影響してそうです。
しかし、復調の兆しもみえています。
2018年度の第1四半期はオーダー数の拡大に成功しています。
また、今期よりコミュニティイベントや、ニューヨークへの一次的実店舗の展開、ポップアップ店の出店などを行うようです。
これらの活動を通じ、今急成長している市場でプレゼンスを示し、確実に新規顧客獲得をして行けるのではないでしょうか。
(Blue Apron IR)
Blue Apronはまだまだ成長の期待できる企業の一つです。
課題は多くありますが、年平均成長率38%の市場で独特の戦略を持つ企業であることは間違いありません。
約8000億ドルの市場規模を持つ食品小売業界を革新したプレーヤーとして、どれだけの成長を達成するのか。
今後の動向に注目したいと思います。
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