アスクルは、オフィス用品の通信販売を行なうEコマース企業です。
(ホームページより)
社長の岩田彰一郎氏は1950年生まれ、大阪府出身。
6代前の先祖に当たる岩田惣三郎氏は明治時代の殖産興業期を代表する実業家でした。
以来、岩田家は代々繊維商社を経営してきましたが、彰一郎氏が子供の頃には斜陽産業となっており、経営は傾いていました。
若い頃は岩田家の再興を考えたこともあったものの、いつからか「何か価値あるものを社会に残したい」と考えるようになっていったそうです。
1973年に慶応大学卒業後はライオンに入社し、営業から商品開発へと異動しています。
岩田氏は若く流行に敏感な女子大生に好きなファッションなどをインタビューをするなど、徹底した顧客目線で商品開発を行なっていました。
流行発信源となっている女子大生を開発メンバーに加え、ヘアケア商品「フリー&フリー」を開発し大ヒットさせました。
・事務用品メーカー「プラス」へ転職
「プラス」の社長である今泉嘉久氏の弟、今泉公二氏とは大学時代の友人で、プラスに来て欲しいとずっと口説かれていました。
3年間の説得の末、1986年に転職。
プラスではユーザーニーズを汲み上げた新製品の文具を開発しましたが、売り行きは一向に伸びませんでした。
理由は、圧倒的な流通網を持つコクヨの前に新参者が入り込む余地はなく、文具店に置いてもらうことができなかったから。
そこで岩田氏は、商品が確実に顧客の目に止まる仕組み作りが必要であると考えたます。
1990年、文具の10年後の流通を考えるブルースカイ委員会が発足。これがアスクルの原型となりました。
・アスクルの誕生
1992年にアスクル事業推進室を設立し、岩田氏が責任者となりました。
名前は「明日来る」からきており、必ず明日届けることを顧客との約束としてオフィス用品のカタログ販売をスタート。
最初はプラスの自社製品のみでしたが、他社製品も扱って欲しいとの要望から、会社を1年かけて説得して他社製品も扱うことに。
1993年までは関東だけでしたが、1994年に本州と四国まで領域を拡大。
1997年には事業を継承の上、(株)アスクルを設立。岩田氏が代表取締役に就任しました。
また、同年よりインターネット販売を開始。
2000年にジャスダック市場へと上場しています。
2004年には医療・介護向け用品カタログによる販売を開始。上場市場を東証1部へと変更しています。
中国の上海に現地法人を設立(2006年)、ヤフーと業務資本提携契約を締結(2012年)など拡大を続けています。
2015年8月にはヤフーの連結子会社化。
それでは、アスクルの業績推移を見てみましょう。
2012/5期における売上高は2,129億円でしたが、2017/5期では3,359億円まで増加。
経常利益も65億円から88億円まで増加。
「Amazon」「カウネット(コクヨ)」「たのめーる(大塚商会)」などの競合がひしめく中で、アスクルはなぜ順調に業績を伸ばすことができるのでしょうか?
今回のエントリでは、アスクルのビジネスモデルと決算数値について見ていきたいと思います。
アスクルには「eコマース」「ロジスティクス」の2つの事業があります。
①eコマース事業
OA・PC用品、事務用品、オフィス生活用品、オフィス家具、食料品、酒類、医療品、化粧品などオフィスに必要な商品のネット通販を行なっています。
一般のオフィス向け製品だけでなく、工事・建設に必要な機材や部品、研究・開発に必要なフラスコ、さらには医療の現場で使う注射器など仕事に必要な物が多く揃っています。
(ASKUL)
アスクルは法人向けのイメージが強いですが、ヤフーと提携して2012年から一般消費者向けである「LOHACO(ロハコ)」というサービスを開始しています。
(LOHACO)
eコマース事業における売上高の内訳を見てみましょう。
2017/5期における売上高はASKUL(B to B)2919億円、LOHACO(B to C)390億円とASKULの売上の方が大部分を占めています。
しかし、LOHACOは2012年にスタートしてから、2014/5期における売上高は100億円を超えており、2016/5期には328億円と圧倒的なスピードで成長しています。
そしてASKULは、競合他社と比べると2倍以上の売上があります。
アスクル(2017/5期) | カウネット(2017/12期) | たのめーる(2017/12期) | |
売上高 | 2,919億3,700万円 | 1,191億3600万円 | 1,535億円 |
②ロジスティクス事業
売上は小さいものの、メーカーなどの通販商品の保管、物流、配送の請け負いなど、企業向け物流サービスも提供しています。
2016/5期からロジスティクス事業の売上高が公表されているので見てみましょう。
売上高は32億円(2016/5期)から44億円(2017/5期)まで増加しています。
eコマース事業における売上高は3,309億円(2017/5期)なので、まだアスクルの売上の大部分はeコマース事業となっています。
アスクルの財務状態を見ていきましょう。
資産
2017年5月20日時点で、総資産1,556億円のうち現預金470億円となっています。
2014年5月20日時点において現預金が減少して、有形固定資産が増加しています。
これは首都物流拠点となる倉庫「ASKUL Logi PARK首都」を建設したことによるものとなっています。
この「ASKUL Logi PARK首都」は2017年2月に火災が発生した倉庫となっています。
火災による損失は112億円あり、特別損失として計上されています。
負債・純資産
2017年5月20日時点において、資本金と資本準備金の合計449億円、利益剰余金185億円となっています。
借入金は179億円、自己資本比率は29.7%となっています。
キャッシュフロー
2017/5期において、営業キャッシュフロー162億円、投資キャッシュフローマイナス52億円、財務キャッシュフロー72億円となっています。
財務キャッシュフローは長期借入金によってプラスとなっています。
2017/5期は火災があったにも関わらず、増益増収しており営業キャッシュフローも年々増加しています。
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは115億円となっています。
2016/5期において固定資産取得による支出が増加しているのは「ASKULLogiPARK福岡」と「ASKULLogiPARK横浜」を新設したためとなっています。
時価総額は1,906億円、現預金470億円、借入金181億円となっているので、評価額は1,617億円。
フリーキャッシュフロー14年分の評価となっています。
アスクルではB to BとB to Cで大きな目標を立てています。
(決算説明資料)
アスクルはオフィス用品通販のNo.1ではなく、職場で利用されるECサイトの圧倒的No.1を狙っています。
(決算説明資料)
そのための成長戦略として、価格の安いプライベートブランド商品の投入とアイテム数の増加を行なっていきます。
プライベートブランド商品が増えることで差別化と収益性の強化を行えます。
アイテム数は2017年5月時点で350万ですが、2018年5月時点で500万と150万アイテムの増加を目標としています。
2018年2月時点で490万アイテムとほぼ目標は達成されていますが、さらに拡大するそうです。
続いてB to Cを見てみましょう。
(決算説明資料)
スマホから日用品をまとめ買いするECを第2世代ECと定義しており、その市場で一番を狙っています。
同じ分野では、Amazonが「Amazonパントリー」として日用品のサービスを打ち出しています。
ジャンルとしては非常に近いものがあり、アスクルとしても独自の成長戦略を打ち出しています。
具体的には、「メーカー連携の強化」「商材拡大」の二つです。
(ホームページより)
LOHACOではメーカーに購買データを公開し、共同で商品開発や販促などを行なっています。
このプラットフォームはLOHACO ECマーケティングラボと呼ばれ、コカコーラやジョンソン・エンド・ジョンソンなど有名大企業が124社も参加しています。
フレンドシップパートナーとしてグーグルやフェイスブックジャパンも参加しており、さらにB to Bでは競合となるコクヨも参加しています。
毎年参加する会社数は増加しているので、今後も積極的に連携することで販売力を強化していくようです。
(決算説明資料)
化粧品・ホームセンター雑貨などの高収益カテゴリの品揃えを強化していくようです。
さらに、食品、家電などのカテゴリをマーケットプレイスに追加しており、商品の幅も着々と拡大させています。
B to BとB to Cの両方で前のめりな拡大を続けているアスクル。
商品強化だけでなく物流の強化にも力を入れており、注文から配送まで最短で20分以内の仕組みを実現しています。
多数の大手メーカーと協力関係にあり、プライベートブランドも保有していることから、Amazonにも負けない独自のポジショニングを生み出すことは不可能ではなさそうです。
B to Cがどう成長していくのか気になるので、今後もチェックしていきたいと思います。