レストランカラオケ事業から撤退!自治体向けのアウトソーシング事業で立て直しを図る「シダックス」

先日、「シダックス」が代名詞でもあるカラオケ事業から撤退することが発表されました。

シダックス、カラオケ撤退給食事業に集中(日本経済新聞、2018/5/30)

「カラオケ館」運営元のB&Vに運営子会社の持ち株81%を売却すること、関連する債権97億円を譲渡するとのこと。

報道を受けて、シダックス自身もプレスリリースを出しています。

本日の一部報道について

その中では、カラオケ「シダックス」を展開する「シダックス・コミュニティー」を譲渡するものの、食材や会員サービスについては引き続き提供することが書かれています。


そもそもシダックスは、カラオケだけでなく給食事業など非常に広範囲で事業を展開している総合サービス企業です。

ホームページより

しかし業績推移を見ると、売上規模は右肩下がりになり、赤字の状態が続いています。

2014/3期まで売上は1900億円を超えていましたが、直近では1428億円と、500億円近く減収となっています。

経常利益率も3年連続でマイナスと、経営が苦しいのは間違いないようです。

今回のエントリでは、「シダックス」という会社がそもそもどんな経緯を辿ってきたのか歴史を整理した上で、直近の経営状況を掘り下げてみたいと思います。


苦難のはてに生まれたシダックス

・怪我を機に、事業家になる志を立てる

創業者の志太勤(しだ・つとむ)氏は、1934年に静岡県で生まれました。

小学6年で野球を始めて熱中し、地元の野球名門校である韮山高校に入学(入学前年に甲子園優勝)。

当時、球速140km/hは出ていた(自称)という志太氏は、高校2年の時にピッチャーとしてレギュラーの座をつかみます。

ところが、県大会で右腕に激痛が走り、病院に行くと「多発性関節症」と診断され、一生ボールを握ることはできないと告げられます。

失意の中、自殺の名所として知られる熱海の錦ヶ浦海岸に足を運びます。

しかしここで、湾岸公園を管理していた中年男性が声をかけてきて、志太氏の話を聞いてくれました。

「野球にかける情熱を、他の分野に向ければ必ず成功するはずだ。商売をやって日本一の金持ちを目指してみろよ」

彼はそう言ってくれ、志太氏は日本一の商売人になってやろうと心に誓いました。

・事業をおこすも、ことごとく失敗

高校3年の秋には、義兄から大衆食堂「大ごたつ」を譲受し、経営するようになります。

しかし、新しいバイパス道路が開通すると、食堂に人が来なくなり、廃業に追い込まれます。

次にはじめたのは1956年、22歳で開始したアイスキャンディ事業。

アイスキャンディは飛ぶように売れ、事業拡大のために工場を建設しましたが、1年後に社員寮、自宅もろとも全焼してしまい、借金だけが残りました(1958年)。


・上京し、社員食堂サービスを開始

故郷ではもう一度チャンスをもらえる雰囲気はなく、追い立てられるように東京に出ます。

奥さんのつてで富士フィルムの工場長を紹介してもらい、根気よく説得した結果、社員食堂を請け負うことに。

そして1959年、現像工場の社員食堂「富士食堂」を開業。

周辺の社員食堂も受託するなど、徐々に事業を広げ、1960年には、「富士食品工業(株)」を設立。


1960年代、日本企業は高度経済成長の中で社員食堂の設置を進めました。

そんな中で富士食品工業の給食サービスも成長し、1967年には「フジ調理師専門学校」を開校。


1970年には、新宿「思い出横丁」を参考に「日本型カフェテリア方式」を導入。

当時の集団給食といえば、1~2種類の副菜を作り置きするというのが主流でしたが、料理をカウンターに並べ、注文に応じてすぐに提供するという形を導入。

その後も冷凍食品の研究開発や、厨房設備の開発など、給食サービスに関する革新をグループ全体で進めていきます。


1984年にはファミリーレストラン事業に着手するも苦戦。

そこで1991年に店舗をリニューアルしてはじめたのが、当時ブームだったカラオケ店です。

当時は美味しい料理を提供するカラオケ店はなく、「きれい・おいしい・うれしい」をコンセプトにクリーンなカラオケ店を目指します。

レストランカラオケ事業は大成功となり、1998年には業界1位を達成。


ところがここ数年、ひとりでカラオケを利用する「ヒトカラ」などの波が訪れ、客単価が下落。

カラオケボックス自体の市場規模が3920億円(2016年度)と減少する中、料理を頼まないケースが増え、収益性が悪化します。

そして2018年5月、カラオケ事業を『B&V』に譲渡することを発表しました。


カラオケ事業の売上が縮小していた

それでは、現在のシダックスの事業について整理してみましょう。

事業セグメントは、「コントラクトフードサービス」「メディカルフードサービス」「トータルアウトソーシング」「コンビニエンス中食」「エスロジックス」「その他」の6つに分けられています。


①コントラクトフードサービス事業

オフィス、工場、学校、官公庁などの食堂での給食や管理業務の受託運営を行なっています。

「安心・安全」で健康に配慮し、各施設に合った食事スタイルの提案を行うなど、付加価値の高いサービスを提供しています。

②メディカルフードサービス事業

老人福祉施設、保育園、幼稚園などの給食の受託運営を行なっています。

噛む力が低下した方に向けた「やわらかマザーフード」などユーザーに合わせて製品の開発を行なっています。

③トータルアウトソーシング事業

企業や自治体の車両運行管理や各種施設運営、OA事務など、「食」を含めた業務のアウトソーシングを受託しています。

車両の運行管理は給食事業とは一見関係なさそうですが、「複数の業務を一括で委託できる」というメリットがあります。

ホームページより

例えば、学校であればスクールバスの運行、学内清掃、給食、売店の運営をまとめてシダックスに委託することができます。

シダックスがスクールバスの運行まで行なっているとは意外でした。

ホームページより


④コンビニエンス中食事業

病院、オフィスビル、学校、官公庁などで、主に食料品や日用品、医療衛生用品等を販売する売店、カフェの受託運営を行っています。

特に病院売店では、350カ所以上の実績・ノウハウを基に施設ごとの特性を把握したカスタムメイドの店舗づくりを行なっています。

⑤エスロジックス事業

給食事業、外食産業に利用する食材、消耗品を当社グループおよび得意先等へ販売を行っています。

また、食材だけでなく厨房設備の設計、販売も行っています。

⑥その他

子供からお年寄りまで楽しめる地域密着型のカルチャースクール、女性専用のフィットネススタジオ、スポーツクラブの運営を行なっています。

また、リゾートホテル、旅館、日帰り温泉施設などでエステティック業や関連機器の販売も行っています。


それでは、撤退するレストランカラオケを含めた売上の内訳を見てみましょう。

2018/3期における売上で最も大きいのはトータルアウトソーシング事業で、426億円。

続いてメディカルフードサービス事業が320億円、コントラクトフードサービス事業が275億円、コンビニエンス中食事業が141億円となっています。

レストランカラオケ事業は2012/3期では481億円ありましたが、2018/3期では170億円まで減少。


全体を見ると、レストランカラオケ事業だけが大幅減収となっているのがよく分かります。

その他の事業は微減という形で、トータルアウトソーシング事業だけが増加傾向です。


コントラクトフードサービス事業とメディカルサービス事業は受託数の減少に伴って売上が減少しています。

セグメント毎の損益もみてみます。

2012/3期をピークにレストランカラオケ事業(オレンジ)の利益が減少し、ここ3年は赤字になっていることが分かります。

トータルアウトソーシング事業が稼ぎ頭となっており、年間32.7億円の利益を稼いでいます。

財政状態:資産売却により借入金の一部を返済

次に、財政状態についてもチェックしてみます。

資産

2018年3月末時点での総資産は481億円で、そのうち現預金は90億円。

有形固定資産が前年と比べて半分以下に減少しており、内訳を見てみると土地と建物が減少しています。


これは、子会社が入っていた渋谷の建物と土地(現在はニトリの店舗)を売却しており、売却益は26億円。

固定資産の譲渡及び特別利益の計上に関するお知らせ


負債・純資産

資産の源泉である、負債と純資産の項目も見てみます。

直近の借入金は206億円ほどあり、バランスシート全体(481億円)の42%程度を占めています。

株式発行による調達額である資本金と資本剰余金の合計は107億円ありますが、利益剰余金はマイナス52億円となっています。

シダックスが過去に積み上げてきた累積利益を溶かしてしまっている現状が現れています。


キャッシュフロー

このグラフが一番、衝撃的かもしれません。

営業キャッシュフローは2012/3期に134億円ありましたが、みるみる減少して2016/3期にはわずか4.7億円に。直近では39億円まで回復しています。

しかし資金繰りが苦しかったのか有形固定資産を119億円売却し、子会社の売却(39億円)なども合わせて投資キャッシュフローが139億円のプラスになっています。

財務キャッシュフローが165億円と大きなマイナスになっているのは、長期借入金を141億円返済したから。


営業利益は12億円(2017/3期)から11億円(2018/3期)に減少しているのに、営業キャッシュフローが21億円も増加しているのはなぜでしょうか?

内訳をみると、未払金が11億円増加していることが原因のようです。

ビジネスモデル的に、未払金が増え続けるわけではなさそうですし、たまたま支払いのタイミングで営業キャッシュフローが増加しただけかもしれません。


フリーキャッシュフロー

2018/3期のフリーキャッシュフローは22億円のプラスです。

カラオケ事業売却の影響を受け、株価は大きく下がっています。

時価総額は172億円、現預金90億円、借入金206億円なので、実質的な評価額は288億円と計算できます。

フリーキャッシュフローの13倍ということで、市場からの期待値はかなり低いですね。

ただ、カラオケ事業の売却により収益性は上がるはずなので、どうなるやら。


BtoPを中核にトータルアウトソーシング事業を推進

全盛期のカラオケ事業における利益率5.1%に対して、現在のアウトソーシング事業の利益率は7.7%とカラオケ事業を超えています。


決算説明資料より

今後の戦略を見てみると、学校や地方自治体を対象(BtoP)にアウトソーシング事業を強化していくとのこと。

少子高齢化などにより社会が変わって行く中で、コスト削減とサービス向上という、二律背反にチャレンジしていく構えを見せています。


全国に自治体は1,786あり、そのうち374の自治体とすでに取引しています。

まだ5倍以上の伸び代があり、知名度も高いシダックスの優位性は推して知るべしという印象。

このように、地方自治体を中心顧客としてあらゆるアウトソーシングを受注していくことで、社会問題を解決する企業になるというのが、シダックスグループの大きなビジョンです。

こうしてみると、カラオケ事業の売却はとても筋の通った決定のように思えてきます。