今回は、写真スタジオを主に展開する「スタジオアリス」について調べてみます。
前身は(株)日峰写真工芸という会社で、1974年に大阪府大阪市で設立されました。
最初はフィルムの現像、プリント、引き延ばしなど、商業写真を事業として展開。いわゆるDPE(Development - Printing - Enlargement)ですね。
1986年には、レンタルビデオ事業を開始し、ホームエンタテインメント分野へ進出しています。
1992年には、こども写真に特化した写真館「こども写真城」をオープン。
1994年には屋号を「こども写真城スタジオアリス」に統一し、1998年には100号店を開くまでに拡大します。
1999年には「スタジオアリス」に社名を変更し、ビジュアル・アイデンディティ確立のためにオリジナルのシンボルマークとロゴタイプを設定します。
2001年には、ウォルト・ディズニー・ジャパンとの間でディズニーキャラクターの使用に関するライセンス契約を締結。
これを機に、ミッキーマウスなどのディズニーキャラを使った撮影メニューを展開します。
2002年にはジャスダックに上場したのち、翌年には東証2部に上場。2004年に東証1部に指定替えされます。
その後も事業を拡大し、2018年現在では500店舗を超え、都市部を中心に全国に店舗展開する写真スタジオに成長しています。
直近10年間の業績推移を見てみましょう。
売上高はなだらかに拡大を続け、2018/2期には430億円に達しています。(14ヶ月決算ですが)
その一方で、経常利益は右肩上がりとは行かず、およそ4年ほどのスパンで上下しています。経常利益率も波がありますが、低いとしても9%をキープ。
「子供向け写真館」という一見すると何の変哲もないビジネスでありながら、増収を続けるスタジオアリスの事業とは一体どういうものなのでしょうか?
今回のエントリでは、スタジオアリスのビジネスモデルや直近の決算数値、今後の目標などについて整理していきたいと思います。
まずは、スタジオアリスの特徴を示す一枚のグラフをみてみましょう。
これは、2017年の月別売上高の推移です。
スタジオアリスのメイン事業である「子供向け写真館」は、七五三やこどもの日、入園・卒園などのイベント・記念日などで写真を撮影するというのが主なサービスです。
グラフを見ればお分かりのように、月の売上高にはかなりの季節性があります。
もっとも売上が多くなっているのは11月です。11月15日には「七五三」がありますから、それが理由です。
ただ、経営という観点から見ると、売上が大きく偏るのはあまり好ましくありません。
スタジオアリスでは、営業の平準化を目的に「Happy Birthday 七五三」や「五月から早撮り七五三」といったキャンペーンを行っています。
これと関連して、決算資料の中に面白い情報があったので紹介します。撮影イベントごとに、それぞれどのくらいの売上があったかを示した表です。
(決算資料)
2016年の数字を見ると、七五三による売上高が145億6400万円を売り上げ、全体の39%ほどを占めています。ダントツでトップですね。
そのほか、誕生日は69億円、お宮参りは50億円、入園入学は24億円となっています。
ターゲット層が違うからかもしれませんが、成人写真は5億7300万円と、意外なほど小さいですね。(男性はあまり撮らないからかな?)
「お宮参り」や「百日」など、赤ちゃん向けの行事の売上の方が大きくなっています。
撮影メニューをみても、七五三やお宮参り、百日祝いなどの「稼ぎ頭」が上の方にあります。
スタジオアリスの写真事業は「子供向け」に特化していることがよくわかりますね。
スタジオアリスのメイン事業は、ここまで見てきたように「子供向け写真館」での撮影サービスです。
事業セグメントとしては「写真事業」として報告されていますが、その他にも撮影時の衣装を取り扱う「衣装製造卸売事業」があります。
衣装製造卸売事業では、撮影時に着る衣装を製造し、卸売販売しているほか、消費者に向けてレンタルも行なっています。
セグメントごとの売上高を見てみましょう。
売上高のほとんどは「写真事業」が占めており、2017年にはおよそ393億円のうち、およそ392億円が写真事業となっています。
衣装製造卸売事業の売上は9648万円と、全体からすれば微々たるものです。
しかしよく見てみると、この数字は外部顧客への売上高であり、セグメント間の売上高、つまりスタジオアリス内部のやりとりは反映されていません。
つまり、「スタジオアリスが製造した衣装を、自社の撮影で使う」という流れは、このグラフの中には表れていないのです。
衣装製造卸売事業を展開しているのは、連結子会社の(株)豊匠と、その子会社である「上海豊匠服飾有限公司」です。
(ホームページ)
グループ企業とはいえ子会社ですから、当然、衣服のやりとりには取引が発生するはずです。
決算報告書には、セグメント間の内部取引による売上も書かれていますから、実際にそれがいくらくらいあるかチェックしてみましょう。
衣装製造卸売事業の外部向け売上はわずか9648万円ですが、内部取引のよる売上は15億円を超えており、文字通り桁違いに大きくなっています。
スタジオアリスにとって衣装製造卸売セグメントの存在は、外部売上による事業貢献というよりも、「衣装をグループ内で調達できる」という面の方が強いことが読み取れます。
続いて、スタジオアリスの財政状態を確認するために、バランスシートを見てみます。
まずは資産の項目です。
2017/12期の総資産は330億円ほど。
そのうち、現預金は100億円あり、有形固定資産が124億円あります。
中でも、建物及び構築物(純額)は6年間で2倍以上に増えて84億円を計上。比較的大きな設備投資が必要な事業であることが分かります。
店舗数が着実に増えているからかもしれません。具体的な数字を見つけ出し、グラフにして見ました。
予想した通り、着実に増えていることが見て取れます。2017/12期には500店舗突破。
ちなみに地域別では、総店舗数のおよそ半数の店舗を関東に展開しています。次いで近畿地方が多くなっています。全体として、都市部に集中していることがわかります。
今度はバランスシートの右側、負債と純資産の項目も見てみます。この二つは「資産の源泉」という意味合いがあります。
利益剰余金が圧倒的に大きく、193億円近くに達しています。
2011年から2017年にかけて1.7倍強に増えており、バランスシート全体の58%を占めています。
また、借入金が2015/12期にゼロになっています。2017/12期には再び短期借入金が計上されているものの、自社事業の余剰利益を活用した、かなり余裕のある資金繰りとなっています。
具体的な現金の流れ(キャッシュフロー)がどうなっているかみてみましょう。
営業キャッシュフローは毎年42億円から67億円ほどを安定して稼ぎ出しています。
その一方で、27億円から53億円ほどを投資キャッシュフローとして投資に回しています。財務キャッシュフローも安定してマイナス。
事業で稼いだキャッシュを投資に回すという優良企業のキャッシュフローといえます。
ところで、スタジオアリスの営業キャッシュフローは、同社の営業利益よりもかなり大きくなっています。
営業利益では、固定資産の減価償却費(現金流出を伴わない)も費用として差し引かれます。
スタジオアリスのように一定の設備投資が必要となる企業では、基本的に帳簿上の営業利益よりも、実際に稼いだ営業キャッシュフローの方が大きくなります。
実際に、営業キャッシュフローの内訳を確認してみましょう。
帳簿上の「純利益」に、実際の現金流出を伴わない費用を足し戻すことで営業キャッシュフローが計算されます。
その中で、減価償却費が2年連続で33億円以上足し戻されています。
スタジオアリスの営業利益率は10%前後ということでそれほど高くは見えませんが、その費用のかなりの部分が減価償却費であるため、実際のキャッシュフローはそれよりも潤沢になっています。
ただ、もちろん減価償却費も事業拡大に必要とされる立派な費用です。それを考慮しないわけには行きません。
そ子で次は、営業キャッシュフローから固定資産への投資額を差し引いたフリーキャッシュフローを計算してみましょう。
設備投資の金額が大きいため、フリーキャッシュフローにも波があります。直近5年の平均をとると17億円なので、この辺りがスタジオアリスのキャッシュ創出力とみて良さそうです。
スタジオアリスの株式時価総額は428億円。
有利子負債は15億円、現預金は87億円なので、企業価値(EV)は356億円と計算できます。
(時価総額428億円 - 現預金87億円 - 有利子負債15億円 = 約356億円)
それに対して年間17億円ほどのFCF(フリーキャッシュフロー)を生み出してくれるわけですから、企業価値356億円に対する利回り(FCF/EV)は4.8%ということになります。
反対に考えると、FCF21年分の評価額が付いているということになります。
この数値が妥当と見るかどうかは、未来の事業環境と、そこでのスタジオアリスの立ち振る舞い次第。
では、スタジオアリスは今後どのような方針で事業を行なっていくのか?
最後に、決算資料からその経営計画を読み取っていきます。
まずは定量的な数値目標から。
(決算資料)
2018/2期は14ヶ月決算なので、12ヶ月に換算すると売上369億円、営業利益33億円となります。
こうしてみると、実質的には11.5%の増収、39.7%の増益を目標としていることが分かります。かなり高い目標ですね。
定性的な経営方針も決算資料から抜き出してみます。
「進化」というワードで強調・統一されています。
2つ目に「利益の最大化に向けた費用コントロールの進化」とあります。この方針が先ほどの数値目標に出ています。
一方、3つ目には「新規事業の売上規模拡大」とあります。
写真事業の利益率を高めて効率化を図り、生まれた余力を新規事業の拡大に注ごうという意向が垣間見えます。
では、新規事業とは具体的にどのような事業でしょうか。二つのサービスが挙げられています。
一つはスクールフォトサービス『egao』。
これは、幼稚園や保育園で行われるイベントや日常保育の様子をプロカメラマンが撮影し、インターネット写真販売するというものです。
もう一つは、Eコマース事業「グロースナップ」です。
スマホで撮りためた写真を、テーマに合わせて選ぶことで整理できる成長記録アプリ。
整理したテーマ別写真集は、素材代を払うことでリアルのアルバムに変えることが可能(一部無料)。
どちらも、写真スタジオの中から飛び出し、ユーザーの手元でサービスを提供する形に進化しています。
インターネットやスマホの普及によって変化するニーズに、なんとか対応しようとしているようです。
「写真」という共通軸の元、既存事業の収益性を向上させつつ、これらの新サービスを確立し、大きな収益の柱に育てていくことを目指しているようです。
ここまでスタジオアリスの事業と財務について少しずつ紐解いてきました。
スマホのカメラ性能は年々驚くべきスピードで向上し続けています。時代の変遷とともに、年中行事や祝い事を重視しない人も増えています。
「写真なんてスマホでいいじゃん」、「年中行事だからといって何か特別なことをしたりはしないよ」という声も聞かれる中で、どうやって従来の写真の良さを伝えるか、どのような付加価値を生み出していくか。
スタジオアリスが、「単なる画像データ」を超える写真の魅力を生み出し続けていってくれることに期待したいと思います。
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