ユーザー数およそ37万人!オンラインで契約書のやりとりを完結する「DocuSign」が新規上場
DocuSign, Inc.

今回は、新しくNASDAQへの上場が発表された「DocuSign」についてまとめます。


DocuSignは2003年に創業した会社で、オンラインで契約締結を行えるクラウドサービス『DocuSign』を展開しています。


過去3年間の業績推移を見てみましょう。

直近の売上高は5億1850万ドル、営業損失は5165万ドルと、赤字幅が縮小しています。

売上成長率は36%と高い水準をキープしています。


今回のエントリでは、DocuSignの歴史とサービス内容、そして報告された決算数値について整理してみたいと思います。


DocuSignの歴史

DocuSignは2003年にCourt Lorenzini(CEO)、Tom Gonser(戦略)、Eric Ranft(CTO)の3名によって創業されました。

Court Lorenzini氏は典型的なシリアル・アントレプレナー。デューク大学を卒業後、シスコ・システムズで数年働き、いくつかの会社を創業したのち、DocuSignを設立しています。

Tom Gonser氏も似たような形で、いくつかのスタートアップを渡り歩いたのちにDocuSignを創業。

Tom Gonser氏が創業した「NetUpdate」社はいくつものスタートアップを買収しており、その中の一つに電子署名を扱う「DocuTouch」という会社がありました。

DocuTouchは電子署名に関する特許を有していため、それを買い取るような形で創業したのがDocuSignです。


2007年には最初のCEOであるCourt Lorenzini氏が経営を降ります。

その後、何人かのCEOが就任したようですが、あまりにカオスすぎてよく分からないというのが正直なところ。会社ホームページには当然のように記載されていません。

現CEOのDaniel Springer氏が就任したのは2017年1月のことで、つい最近のことですね。


2012年には名門ベンチャーキャピタルの「クライナー・パーキンス(KPCB)」から出資を受け、2015年にはさらに3億2300万ドルもの資金を調達し、評価額30億ドルに達したとして話題に。

経営者がコロコロ変わりながらも、しっかりと事業を伸ばして上場までこぎつけた、ということのようです。


DocuSignのサービス内容

DocuSignの主なサービスは、オンライン上で契約締結を完結させられるクラウドツール『DocuSign』です。

会社ホームページから具体的な利用フローをチェックしてみます。

まず、サインが必要な書類をDocuSign上にアップロードします。(下の「Add Documents」部分)

そして「Add Recipients」部分に、書類を共有したい相手の名前とメールアドレスを記入。

続いて、書類の中のどの部分にどういう情報(サインや名前、電話番号など)が欲しいかの設定をして、「SEND」ボタンを押すと、設定した相手に書類が共有されます。

書類を共有された相手は、スマホやタブレット上から簡単にサインを書き込めたり、自分の名前からそれっぽい署名を生成することも可能。

最後に「FINISH」ボタンを押すと、契約は締結されたことになり、契約完了の通知が各関係者に送信されるという流れ。

まとめると、「書類をアップロードし、送信先を指定して共有すると、スマホやタブレット上でサインできる」という形。非常にスムーズです。

また、DocuSignは決済サービス『DocuSign Payment』を提供しています。

DocuSignの契約締結フローにくっつけるような形で、クレジットカードなどを使った請求を行うことができるというもの。

決済自体にはStripeやPayPalなどの決済ソリューションを用いるため、どのサービスと連携するかを設定する必要があるようです。


さて、現時点でのDocuSignの通常の料金プランは次のようになっています。

年間契約だと、利用形態ごとに月間10ドルから40ドルの定期課金となっています。

複数ユーザーの場合、電話するように書いてあります。デジタルに慣れていない層への配慮が感じられます。

また、不動産契約での利用が多いため、不動産契約者向けのプランも用意しています。

こっちの方が少し安めですね。

システムと連携した上で利用する「APIプラン」も用意しています。


事業KPIの推移

さて、『DocuSign』の利用者数の推移を見てみましょう。

2018年1月末時点でのユーザー数はおよそ37万アカウント。

そのうち4万が企業や商用アカウントとのことで、意外にも(?)企業以外のアカウントがめちゃくちゃ多いようです。

売上ベースでのリテンションレート(定着率)は115%。定着率が100%を超えるというのは、解約するユーザーよりも単価アップするユーザーの影響が大きいということ。

また、売上高の17%がアメリカ国外とのこと。これらの数値はこの3年間ほとんど変わっていません。


DocuSignとしては、企業アカウントをどれだけ伸ばせるかというのを重要な指標として定めているとのこと。

確かに、企業がこういったサービスを一度使い始めたら、なかなか外すのは難しそうですし、従業員が増えるごとに企業ごとの売上単価もアップしていきます。


売上高の内訳

売上のほとんどは定期課金(Subscription)によるもの。

その他の売上(Professional services and other)は全体の5%と、小さな割合にとどまっています。


次に、コスト構造の変化です。

売上原価率(Total cost of revenue)は23%と非常に低い水準です。

研究開発費(Research and development)も売上の18%程度と、アメリカのテクノロジー企業としては一般的な水準。

最も大きいのがセールス・マーケティング費用で、売上の53.6%を占めています。

広告や営業部隊などでガンガンアクセルを踏んでいる、ということのようです。


財政状態

赤字が続いているDocuSignですが、財政状態はどうなっているのでしょうか。

総資産6.2億ドルのうち、現金同等物が2億5687万ドルと、かなりのキャッシュリッチです。

直近の営業損失が5000万ドル程度なので、仮にこれが全て現金として流出していたとしても、ある程度の余裕があると言えます。

この金はどこから来たのでしょうか。

借入金などは特になく、転換優先株(Redeemable convertible preferred stock)が5億4750万ドルと最も大きくなっています。

普通株発行による払込資本(Additional paid-in capital)も1.6億ドルほどあります。

溶かした累積損失(Accumulated deficit)は5億ドルほど。


株を発行して資金を調達し、それを溶かしながら事業を拡大してきたことが分かります。

キャッシュフローはどうでしょうか。

直近には営業キャッシュフローがプラスに転じています。つまり、事業だけを純粋に見れば、現金が増えていくレベルにまで成長したということ。

営業キャッシュフローから設備投資額(Purchases of property and equipment)を引いたフリーキャッシュフロー もプラスに転じています。

フリーキャッシュフローがプラスになったということは、今後は追加の資金調達なしに事業を続けていくだけでもお金を稼いでいけるということ。

見かけは赤字でしたが、順調に事業が拡大していることが分かります。

損益上赤字なのに何故フリーキャッシュフロー がプラスになるかというと、現金流出を伴わない費用が計上されているからです(下の赤枠部分)」。

上記は営業キャッシュフローの計算内容。

純損失に、実際には現金流出を伴わない費用を足しもどすことで営業キャッシュフローを計算しています。

2018/1期には減価償却費(Depreciation and amortization)として2168万ドル、株式報酬費用で2975万ドルなどを計上しています。

それらは営業費用として、損益計算書上は差し引かれますが、実際にお金が流出するわけではないため、営業キャッシュフローの計算時に足し戻しているというわけです。


まとめ

会社の経緯は少し複雑で、CEOが転々とするあまり良くない雰囲気もありますが、「契約プロセスをオンラインに移す」というサービス自体は非常にポテンシャルの大きいものです。

当然ながら、世界のありとあらゆる法人や個人が毎日、契約書を取り交わしています。

そのプロセスを全てオンラインに持ってくることができれば、DocuSignの事業も当然大きなものとなるはずです。

日本でも、全く同じようなサービス『クラウドサイン』を弁護士ドットコムが提供しており、順調にユーザー数を増やしています。

上場後、DocuSignの株価は37%も上昇したそうです。

DocuSign stock soars after IPO as cloud fever continues


DocuSignがこれからどんな成長を見せてくれるのか、今後もチェックしていきたいと思います。


参考資料

DocuSign founder to entrepreneurs: it’s time to leave your baby behind

Online Signatures: DocuTouch Introduces DocuSign