今回は、ホスティングサービスを展開する「さくらインターネット」についてまとめます。
さくらインターネットは、舞鶴高専に通う18歳の学生だった田中邦裕氏が1996年創業しました。
インターネットの普及とともに発展し、2005年に東証マザーズに上場。
田中氏は2000年に一度、社長を退任していますが、2007年、経営が危機的な状態になったことをきっかけに社長に復帰しています。
以来、過去11年間の業績推移を見てみます。
売上高は一貫して増え続け、2017/3期には139億円に達しています。
営業利益率は7%程度。
今回のエントリでは、成長を続ける「さくらインターネット」とはどのような会社なのか、創業経緯や現在の事業、直近の決算数値などについてまとめていきたいと思います。
創業から上場準備開始まで
1996年、京都の舞鶴高専に通学していた田中邦裕氏(当時18歳)が、寮の一室で創業しました。
運用していたサーバーを友人に貸していたのが、徐々に学外の人が利用するようになったのがきっかけとのこと。
事業化にあたり、舞鶴市のプロバイダー『ダンスインターネット』に交渉してサーバーを置かせてもらい、利用者数は順調に増えていきます。
利用者が増えると、今度はサーバーや回線への負荷は増大してしまうため、サーバーダウンなど運営上の問題が出てきます。
インフラについては、1997年からデータセンターをレンタル利用するようになったことで大きく改善したようです。
しかし、事業が拡大するにつれ、田中氏が個人で行うには限界が出てくるようになったため、1998年の4月にはデータセンターに近い大阪に引っ越し、(有)インフォレストを設立。
この頃、のちに合併する「エス・アール・エス」社長の笹田氏や、設計事務所でITインフラを担当していた小笠原氏(現在はDMM.makeの仕掛け人として有名)などとも交流が始まります。
田中氏は、この二人から大きな影響を受け、「VC(ベンチャーキャピタル)からお金を調達し、大きな投資をして上場を目指そう」という機運が生まれます。
そして1999年には三人で正式にさくらインターネット(株)を設立。
翌2000年になると、インフォレストとエス・アール・エスを吸収合併し、ジャフコなどのベンチャーキャピタルから出資を受け、本格的に上場を目指し始めます。
上場準備中での社長退任
資金調達も進み、上場準備を本格化する中で、会社の雰囲気は徐々に変わり始めます。
上場に向けて堅苦しいルールが増えて社内の雰囲気が変わっていき、「エンジニアを中心とした自由な社風」を大事にしていた田中氏にとって釈然としない思いが出てきます。
そしてなんと、2000年12月には社長を退任し、ともに経営していた笹田氏が社長に就任。
田中氏は辞めようとしたものの、強く慰留されて副社長として残り、主に技術面を担当することに集中します。
事業を大きく拡大する中でITバブルが崩壊するなど、借入金の返済にも困る大変な状況にもなりました。
『さくらのレンタルサーバ』開始と、マザーズ上場
さくらインターネットの当初のサービスは「さくらウェブ」というものでしたが、時代の変化に対応して2004年に「さくらのレンタルサーバ」を開始。
価格を1000円から125円に引き下げるなど、大胆な施策を展開します。
当初は2002年までに上場したいと言っていたのが、2004年にまでずれ込み、レンタルサーバの改訂などで収益が安定してきた中、上場承認の寸前で西武鉄道の虚偽記載事件が起こります。
全ての上場審査が止められ、引き伸ばされた挙句、一度は上場承認は却下になります。
その夏にもう一度、マザーズへの上場申請を行うと、今度はスムーズに上場審査が進み、2005年10月に東証マザーズに新規上場を果たします。
上場後の債務超過と社長復帰
マザーズ上場後は、いくつか会社の買収も行なっていき、5社以上ある子会社のほとんどが赤字という最悪の財務状態に。
当時はオンラインゲーム事業にも力を入れていたそうですが、黒字化することなく減損。
結局、2007年には債務超過(資産を負債が上回る状態)に陥り、田中氏が再び社長に返り咲くことになります。
銀行に返済期限の延長を頼み込み、第三者割当増資を進め、子会社を売却するなど、必要な事業整理を行い、サーバーホスティング事業への回帰を行います。
そこからの復帰劇こそが、冒頭で見た業績推移のグラフに現れていることになります。
続いて、さくらインターネットが現在展開する事業がどのようなものかをチェックしてみます。
さくらインターネットの事業は、大きく次の4つに分類されています。
① ハウジングサービス
さくらインターネットが運営するデータセンターの中に、顧客企業の通信機器などを設置できるスペースや、インターネット回線、電源などをレンタルするサービス。
② 専用サーバサービス
さくらインターネットが所有する物理サーバを、専用でレンタルできるサービス『さくらの専用サーバ』です。
サーバを一台丸ごとレンタルできるため、共用サーバなどと比べて自由度が高いのが特徴。
③ レンタルサーバサービス
さくらインターネットが所有する物理サーバを、複数の顧客が共同で利用するサービス『さくらのレンタルサーバ』と、専用で利用できる『さくらのマネージドサーバ』があります。
専用サーバサービスと比べると制約があるものの、サーバのメンテナンスなどはさくら側が代行するため、より気軽に利用できる点が特徴。
④ VPS・クラウドサービス
さくらインターネットが所有する物理サーバ上に、複数の仮想サーバを構築し、その一つ一つを専用サーバのように利用できるサービスです。
仮想サーバ一台ごとに契約する『さくらのVPS』と、日割や時間での課金を行う『さくらのクラウド』などがあります。
物理サーバよりもさらに自由度が高く、コストパフォーマンスも高くなるのが特徴。
4種類の事業が、どのように伸びてきたのかをグラフで見てみます。
かつては「ハウジング」「専用サーバー」の二つがそれぞれ30億円ずつを売り上げ、全体の多くを占めていましたが、その後は減少しています。
反対に、「レンタルサーバー」が30億円、「VPS・クラウド」が37億円を売り上げるまでに成長。
中でも、「VPS・クラウド」の成長は目覚ましいですね。
さくらインターネットの売上成長は、「VPSとクラウド」が牽引していたことが分かります。
顧客別で見ると、月額10万円以下の小口顧客の割合が40%と、比較的高い水準にあることも分かります。
月額1000万円以上が全体の4分の1っていうのもすごいですが。。
ここ7年間の財政状態の変化についても確認しておきましょう。
資産の内訳
総資産は260億円に達しており、そのうち49億円が現預金です。
有形固定資産は合計で156億円あり、そのうち73億円が「建物及び構築物(純額)」、60億円が「リース資産(純額)」です。
ホスティング事業なので当然ですが、かなりの金額をインフラに投資してきたことが分かります。
負債と純資産
156億円もの有形固定資産の原資はどこから調達してきたのか、負債と純資産の項目を見てみます。
長期借入金が65億円、リース債務も合計で65億円にのぼっています。
株式による調達を表す資本金と資本剰余金の合計は36億円、利益剰余金は40億円ほどとなっています。
借入、株式発行、自社事業の利益という三つの調達源をバランスよく使ってきたと言えます。
キャッシュフロー
現金の出入りについてはどうでしょうか。
投資キャッシュフローは毎年20億円から40億円を費やしている年が多くなっています。
営業キャッシュフローは安定してプラスですが、右肩上がりという感じでもないですね。
財務キャッシュフローの内訳を見ると、借入と株式発行を両方使って現金を調達したことが分かります。
その一方、投資キャッシュフローで大きいのはやはり設備投資(有形固定資産による支出)です。
さくらインターネットの事業は、「借入や株式によって資金を調達し、適切に設備投資を行いながら営業キャッシュフローを増大する」という戦いになっているということが言えます。
さくらインターネットの事業は、ある意味でとても教科書的な事業と言えます。
資金を調達し、設備投資を行なって、利用者を集めながら事業を拡大していく。
利用者が増え続ける限り、今後も事業は伸び続けるはずですが、中長期ではどのような状態を目指しているのでしょうか?
ミルフィーユ型のスライドには、「安定成長分野」「今後の成長分野」「新たな取組分野」の三つに分けて今後の展望が書かれています。
レンタルサーバや専用サーバで収益を確保しつつ、VPSやクラウドサービスにより事業成長の加速を目指していくようです。
そして中長期的には、IoTやAI(人工知能)などの分野でも、企業向けの実用化支援などのポジション確立をねらっています。
さくらインターネットにとっての既存市場(国内データセンター市場)は、2020年まで年平均16.8%という高成長市場です。
さらに、IoTやAIなどの普及、データ量の爆発的増加などにより、政府も言及している「第4次産業革命」に備えるとしています。
そんな中、データセンターこそが爆発的に増えていくデータの受け皿であり、「第4次産業革命」におけるビジネスモデルの変革のインフラとなります。
その中で、さくらが特に注力しているのがIoT分野です。
その中でも消費者向け(コンシューマ分野)の方がポテンシャルが大きいとして、主なターゲットに据えています。
今後、爆発的に増加することが予想されるIoTデバイスの新たなインフラとなることで、早期参入によるメリットを大きく享受しようという狙いがあります。
さくらインターネットという会社自体がインターネット黎明期からの参入で成功したことを考えれば、極めて合理的な戦略と言えます。
彼らの戦略の結果が出るのはまだまだ先のことにはなりそうですが、今後IoT分野がどうなるかを含め、引き続き注視していきたいと思います。