平均顧客単価は800万円以上!決算処理業務の効率化SaaSで売上40%成長を続ける「BlackLine」

今回は、アメリカのSaaS企業「BlackLine」についてまとめてみたいと思います。

BlackLineの創業は2001年のことで、経理や財務での反復的な業務オペレーションを効率化するためのツールを提供しています。

2016年にナスダックに上場すると、その後も急速に成長を続けています。

2017年の売上高は1億7703万ドル、営業損失は3506万ドルという水準。

アメリカの上場企業としては決して大きな規模とは言えませんが、売上成長率は4年連続で40%以上と、急速な成長を続けています。


今回のエントリでは、BlackLineの事業が生まれた背景や、ここ3年間の決算数値について読み解いていきたいと思います。


BlackLineが生まれた背景

2000年にソフトウェア起業家のTherese Tucker氏は、追加で必要なソリューションはないか、と顧客に尋ねました。

その中で明らかになったのは、「決算処理(The financial close)」が会計士の仕事をものすごく大変にしているという事実です。

退屈で、繰り返しの多い業務に追われなければならず、ストレスや人的ミスなどがどうしても発生してしまうというもの。

BlackLineは、会計士のために「決算処理」に特化して効率化するためのツールとして生まれました。


会計士を退屈で、繰り返しの多いタスクから引き剥がすことで、彼らは財務状態の分析など、会社のためになるチャレンジングで創造的な仕事に時間を費やすことができます。

そのことを、BlackLineでは「Modern Finance」と呼んでいます。


以来、「決算処理」という分野では独占的な地位を確立し、オーストラリア、ロンドン、フランス、南アフリカ、ベルギーなど世界的にオフィスを展開。

現在では、Forbes 500企業のうち約半分がBlackLineのソリューションを利用しています。


Therese氏の「顧客の声を聞く」という姿勢が、BlackLineの創業につながったということもあり、BlackLineでは、組織全体にそのような姿勢が浸透しているそうです。


BlackLineのサービス内容

BlackLineが提供する機能は多岐にわたりますが、代表的なものは以下の4つです。

① 照合管理(Reconciliation Management)

取引内容と残高の変化が一致することを確かめる照合管理プロセスです。

この中の「Transaction Matching」と呼ばれる機能では、あらかじめ設定したルールをもとに、異なる情報源からの取引データを自動で照合することができます。

1秒に数100万件ものデータを処理することができるため、人的ミスを限りなく減らすことが可能。

また、「Daily Reconciliations」という機能では、照合の期間を一日単位で区切ることができます。

そうすることで、照合管理を毎月まとめてやる場合に比べて、より迅速に行うことができ、問題の特定も容易になります。

② 決算処理管理(Financial Close Management)

日々の照合処理によって整理されたデータが手元にあるので、それだけでも決算処理業務を大きく手助けしてくれますが、決算処理の管理に特化した機能も提供しています。

例えば、「Task Management」と呼ばれる機能では、決算処理に必要なオペレーションをあらかじめ、ステップごとに提示してくれます。

繰り返し起こるタスクについても適切にスケジューリングしてくれ、用途に応じた様々なパターンも用意されているため、タスクの抜け漏れを減らすことができます。

③ 企業間取引の管理(Intercompany Hub)

グループ企業における企業間取引は、決算業務において最も複雑で、最もよくあるものの一つ。

BlackLineを使えば、企業間取引についての全ての情報を一元管理することができ、決算処理にそのまま活用することができます。

④ 解析(Insights)

BlackLineは、多くの顧客から得られるデータをもとに、どうやったら顧客が決算処理業務を効率化できるかという情報を集めています。

「Insights」と呼ばれる機能では、顧客企業の生産性やリスクなどをチェックする分析機能を提供。


BlackLineの利用ユーザー数

続いて、BlackLineのサービスをどのくらいの企業が利用しているかを見てみます。

2015年末の顧客数は1338社でしたが、2年後には2208社と、870社(65%)増加しています。

もちろん、これだけでも大きな増加率ですが、BlackLineの売上はこの2年で2倍以上に伸びています。

そのヒントは、以下のグラフの中にあります。

上のグラフは、顧客あたりの継続率を売上ベースで計測したものですが、3年とも112%以上と、100%を超えています。

継続率が100%を超えるということは、既存顧客の単価増による売上増加が、解約による売上減少よりも大きかったということを意味しています。

いわゆる「ネガティブチャーン(解約率がマイナスになる状態)」であり、これが実現できたSaaS企業は急激に成長していくと言われています。


BlackLineにおいて、どうしてこのような状況が起こっているのでしょうか?

BlackLineの料金体系は、利用するユーザー数をベースとした従量課金であり、顧客あたりのユーザー数が拡大しているからでしょうか?

ユーザーの数はこの2年間で12.9万人から19.7万人に増加しています。2年で52.7%の増加。

どうやら、ユーザー数の増大よりも顧客企業数の増大(2年で65%増)の方が大きくなっており、ユーザー数の増加が原因ではないようです。

ちなみに、BlackLineのユーザーとなるのは、「CFOをはじめとした経営幹部」「財務に関するマネージャー(管理職)クラス」「監査する人たち」「会計士」の4種類がメインです。

BlackLineの料金体系には、「利用するユーザー数」の他に、「利用する製品の数」も変化の要因として関わっています。

顧客あたりのユーザー数が増えていないのであれば、「顧客あたりの利用製品数の増大」が単価上昇の原因ということになります。

具体的な数値は示されていませんが、利用年数が増えるに従って、より多くの機能を利用していき、顧客単価が増大していくというモデルになっているようです。


収益の内訳

続いて、BlackLineの収益状況をチェックしてみます。

売上のほとんどが「定期課金・サポート(Subscription and support)」収益となっています。

多くのソフトウェア企業と同様、BlackLineも従来はソフトウェアをオンプレミスでライセンス販売することでサービスを提供していました。

2012年よりクラウドベースのSaaS形式への転換を開始しており、現在も一部は移行途中ですが、オンプレミスで販売している分も「定期課金・サポート」収益に含まれているとのこと。


地域ごとの売上比率を見ると、米国が86%から80%ほどにまで減少し、海外比率が増加しています。


顧客あたりの平均売上高についても計算しておきます。

2015年には6万ドル程度でしたが、そこから2年で8万ドルにまで上昇しています。

顧客あたりの平均売上が、日本円で800万円を超えていることになります。


財政状態

続いて、BlackLineの財政状態をチェックしてみます。

資産の内訳

総資産は4億4000万ドルほどですが、そのうち1億8500万ドルが買収によるのれん(Goodwill)となっています。

現金同等物は3110万ドルと、アメリカの上場企業にしてはかなり少ない水準。むしろ、赤字のBlackLineにとってはギリギリに見えます。

のれんが大きくなっているようですが、これは2013年に事業会社として展開していた「BlackLine Systems, Inc.」を買収したため。

負債と純資産

現在の資産がどこからやってきたのか、負債と純資産の内訳を見てみます。

払込資本(Additional paid-in capital)が圧倒的に大きく、4億1963万ドル。株式発行によって資金の大部分を調達してきたことが分かります。

そのうち1億2547万ドルを累計損失(Accumulated deficit)として溶かしています。

キャッシュフロー

営業キャッシュフローは、2017年にプラスに転じ、642万ドルを稼いでいます。

2016年には、上場により財務キャッシュフローが1.3億ドルものプラスになっており、そのうち1.2億ドルを何かに投資しています。

内訳を見てみましょう。

上表の真ん中部分(黄色い枠)が2016年の数字。

株式発行により1億5636万ドルの資金を調達(青枠)し、そのうち8319万ドルを有価証券の購入にあてています(赤枠)。有価証券を買っただけのようです。

営業キャッシュフローから設備投資などの金額を引いたフリーキャッシュフローは、2年前は1200万ドル以上マイナスでしたが、2017年にはマイナス220万ドルと、もう少しでトントンというところまできています。


BlackLineの今後の展望

決算数値を見る限り、BlackLineのフリーキャッシュフローが黒字になり、キャッシュをガンガン稼いでいくようになるのは時間の問題です。


2016年の上場から、株価は2倍くらいにはなっていますが、時価総額では22億ドル程度。

売上が2億ドルに満たないことを考えれば、十分に高い評価です。重要なのは、「今後どのくらいのポテンシャルが期待できるか」という点であり、それについて「経営陣がどのように考えているか」です。

2018年の決算資料を見ると、現時点での顧客数は2200社ほどですが、グローバルで最大1万6500社が対象になりうるとしています。

潜在的なユーザー数は1300万人(現在は19.6万人)におよび、市場規模として180億ドルもの規模が期待できるとしています。

実際に、コカコーラやアンダー・アーマーなどの小売企業から、zendeskなどのテクノロジー企業、医療企業や金融機関に至るまで、幅広いジャンルの企業に導入されています。

マーケティング戦略では、セールス部隊による直販や、コンサルティング企業・EPR事業者などの提携パートナーによる販促の2通りがメインのアプローチです。

競争環境としては、創業の理由とも言える「Excel」こそが最大の競合と言えるようです。

それ以外に、部分的な競合はいるものの、全てを統合的に提供するプラットフォームとしてはBlackLineがパイオニアであり、明確な競合は存在しないように見えます。


また、四半期ベースではすでに営業黒字化を果たしており、フリーキャッシュフローがプラスになっている四半期も出ているようです。

長期的には、営業利益率20%程度を目標にしているとのこと。


BlackLineのサービスは、他に類を見ない性質のものであることは確かであり、サービスの複雑さを考えても、参入障壁は非常に高いと言えます。

ある意味でニッチなサービスに見えなくもありませんが、全ての企業に決算処理業務が存在することを考えると、事業のポテンシャルは非常に大きいと言えるのではないでしょうか。

年率40%以上という売上成長が今後もどこまで続いていくのか、興味深くチェックしていきたいと思います。