Illumina, Inc.【NASDAQ:ILMN】
イルミナは生物の設計図のようなものである「遺伝子の塩基配列」を高速に解析する次世代シーケンサー(遺伝子配列解析)で世界最大のシェアで、ゲノミクス分野において先行する米国企業。
ゲノム医療の拡がりによる個別化医療(疾患を引き起こす遺伝的変異を解析するなど患者の遺伝子に基づくオーダーメイド医療)の実現を支援する包括的なポートフォリオ・サービスを開発・販売している。
日本でも、DeNAが展開する遺伝子検査サービス「mycode」やユーグレナが買収した遺伝子検査サービス企業「ジーンクエスト」では、イルミナ製の検査機器が使われているようだ。
DeNA:世界最大手の遺伝子解析装置メーカーによる実績ある解析装置を採用
ジーンクエスト:遺伝子解析について
イルミナが開発する次世代シーケンサー(NGS:Next Generation Sequencing)とは、一度に広範囲のDNA断片に対して大量並列による遺伝子配列解析を処理することが可能で、その結果を組み合わせてゲノム情報を短時間かつ低コストで取得することができるもの。
イルミナのビジネスモデルの要所は前回紹介したロボット手術支援企業「インテュイティブ・サージカル」で取り上げたのと同様の消耗品ビジネスだ。両社とも市場No.1シェアの技術的に先行する高額な本体を取扱い、売上の多くを消耗品で安定的に稼ぎ出す点で共通している。
安定的に伸びる売上高。EPSは最高値を更新している。
ということで、イルミナについて紹介していこう。
イルミナといえば高額な次世代シーケンサー本体の売上に依存していそうなイメージかもしれないが、この売上構成比率を見ての通り、本体の売上比率は19%に過ぎず、消耗品が64%で保守サービス等が17%(2017年度)と遺伝子解析につかう試薬などの消耗品や保守サービスによって継続的に利益を上げるビジネスモデルも組み込み予想以上に安定的に売上を伸ばしている。
もちろん高額なハイスパック遺伝子シーケンサーだけではなく、iSeqなど、より安価なモデルも登場している。
低価格帯(従来に比べれば)のiSeqが新たに加わったことによって、研究者のニーズに応じて柔軟に機種を選ぶことが可能となり、より広い範囲の顧客を獲得できるようになっている。
イルミナの顧客は世界の幅広い学術機関、政府機関、製薬企業、バイオテクノロジー企業などで、まだまだ米国中心の売上比率であり、他社の低価格シーケンサーなどに対抗するためにも安価なシーケンサーの投入も重要だ。
たとえば競合のオックスフォード・ナノポアテクノロジーズ(Oxford Nanopore) が開発したUSBサイズの使い捨てDNAシーケンサーMinION(ミニオン)は、あらゆる場所で特定のDNA解析ができるポータブル性と1000ドルの低価格が特徴。
USBサイズのMinION本体 (Source: Oxford Nanopore)
同社はイルミナが出資していたが、特許を侵害したと同社をイルミナが訴訟した(そして出資を解消)ことによって特許を侵害しない別の方法にたどり着き、結果的にイルミナの脅威となってしまった感もある。
性能面でも、DNAシークエンサー市場の対抗馬だったライフテクノロジーズを買収したサーモフィッシャー・サイエンティフィック(NYSE:TMO)や、ロングリードを特徴とする次世代シーケンサーを開発しているパシフィック・バイオサイエンシズ(NASDAQ:PACB)など競合がひしめくが、イルミナの最新型DNAシーケンサーNovaSeq(ノバセク)の性能は強力だ。
最も効率性の高い最新型DNAシーケンサーNovaSeq(ノバセク)は、2日半で48人分の全ヒトゲノムを解析できるほどの性能。超高額のため導入できる機関も少ないもののイルミナのフラグシップモデルだ。
NovaSeq登場まではイルミナの最高スループットの遺伝子シーケンサーだったHiSeqも堅調に伸びている。
ヒトの全DNA配列を解析する国際プロジェクト「ヒトゲノム計画」は2003年には全塩基配列が決定したが30億ドルという費用がかかったというが、今やその遺伝子解析コストは100万分の1以下に低下し、個人が遺伝子を気軽に検査できる時代に突入することとなった。
その価格低下の要因が、イルミナがリードしている次世代シーケンサーで、イルミナは当初はマイクロアレイという遺伝子発現解析技術でのサービスを実施していた(今もイルミナはマイクロアレイの提供を続けている)。
従来型(サンガーシーケンス法)の遺伝子解析技術に対して、数億以上のDNA断片に対して大量並列に処理できるようになったことによって、格段に遺伝子解析のコストを低下させることに成功した次世代シーケンサーは年々処理能力が格段に上昇しており、次世代シーケンサーの出力データ量はムーアの法則を上回るスピード(毎年倍以上のペース)で増加。
具体的には次世代シーケンサーが誕生した2007年は1回のランで10億塩基(1Gb)のデータを得ていたのに対し、2011年にはその1000倍の1000億塩基(1Tb)に届くまでのデータを産出(出力データ量に関しては前述のスペック表も参照いただきたい)
Source: illumina(PDF)
こうして安価になってきた流れで消費者向けの遺伝子検査市場が拡大している。
2017年に米国食品医薬局(FDA)は、それまで事実上禁止していた消費者への遺伝子情報の直接販売の規制を緩和すると発表し、一気に活性化した。
消費者向け遺伝子検査といえばMITが選定した世界で最も革新的な50社に選定された23andMe(トゥウェンティー・スリー・アンド・ミー)が有名で、23andMeは2013年に消費者向けの初の直販型遺伝子検査の販売を始めたが、FDAの取り締まりを受けていたが2017年からようやく認められた形だ。
また、イルミナは世界で最初のDNA検査のオンライン販売サイトを設立したヘリックス(Helix)の50%の株主だ。
さらにイルミナは「1000ドル以下のコストで、症状の出現前に多くのがんを検知できる血液検査の開発を計画」する検査会社GRAIL(グレイル)を立ち上げている。
これに関して、Wiredの記事によると「グレイルは、まだ実際のデータを発表していない(同社がウェブサイトで紹介している文献は、17年に『Cell』誌に発表したコメンタリーくらいだ)。」とある。
がんは「1滴の血液」から早期発見できるのか──進化するリキッドバイオプシー技術の「夢」と現実
まずは業績データをいくつか見ていこう。
製品投入サイクルなどでバラつきはあるものの右肩上がり。
安定的ではあるが利益率が次世代シーケンサー本体ほど高くはないサービス収入比率が高まり、マージンはそこそこといったところ。
良きかな!
2018年のガイダンス。
イルミナの株価を見てみると2015年以来の新高値付近でもみあっている。
遺伝子解析は非常に面白いテーマだが、遺伝子解析市場がどこまで拡大するかにイルミナの未来はかかっている。
ちなみに中国の競合企業BGIはイルミナの次世代シーケンサーの大口顧客でもあり、競合相手でもある。
BGIは世界最大規模のゲノム研究所を擁する企業で、米国政府以上に中国政府はゲノム医療に多額の投資をおこなう意向で、米中の競争も激しくなっていきそうだ。
<記事のスタンスに影響する情報開示: 筆者は 2018/2/26 時点でIllumina(NASDAQ:ILMN)を15株保有しており、次回決算まで売却の予定はない。本記事はビジネスモデルや業績の定点観測を目的としたものであり、読者に投資を推奨するものではない。>
*アメリカ部通信*
次世代シーケンサーに関しては知識が昨年夏頃で止まっているので、最新の状況は追えていませんがイルミナの決算資料を見るかぎり業績は順調ですね。
自分が遺伝子解析市場を調べた頃は、競合のPacBioの超ロングリードシーケンサーが威力を発揮みたいな感じでショートでショットガン的なイルミナ大丈夫かな?とか思ってたんですが、株価みたら低迷しているし杞憂だったか…という感じです。
また、競合オックスフォード・ナノポアのUSBサイズの使い捨てDNAシーケンサーMinION(ミニオン)は面白いと思いました。ジャングルなどの奥地で使えたり、利便性が高いので。
ゲノム解析したあとのゲノム編集に関してとんでもないこと(遺伝子発現のオンオフを切り替えるスイッチ等)になっているので、やはり面白い領域です。
参考になるWired記事: 時代は「遺伝子編集技術2.0」へ移っているのだ。欠点を補うべく開発されたCRISPRをより厳密に制御するツールゲノム編集技術「CRISPR」は、もう古い? すでに研究は「次世代」へと向かっている
平日、毎朝届く無料のビジネスニュース。
Strainerのニュースレターで、ライバルに差をつけよう。