積極投資で成長を続けるSalesforce.comの業績

Salesforce.com Inc

Salesforceは企業向けクラウドサービスのトップ企業で、主にCustomer relationship management(CRM,  顧客関係管理)システムに特化している。1999年に設立され、2000年2月に最初のCRMソリューションを開始。2016年1月末時点での従業員数は19000人以上。本社所在地は米国サンフランシスコ。

現在は「セールスクラウド」「サービスクラウド」「マーケティングクラウド」など多種多様なクラウドサービスを企業向けに提供しているようだ。


全体の業績推移

まず、損益の推移を見てみる。

売上高は順調に推移し、2015年度には67億ドル。これは2011年度と比べて約3倍の規模である。一方で営業利益・純利益はほとんどマイナスで推移している。

次に、売上高の内訳を見てみる。

「Sales Cloud」が最も多く26億ドル(43%)。ついで「Service Cloud」が18億ドル(29%)、「App Cloudその他」が10億ドル(16%)、「Marketing Cloud」が6.5億ドル(10.5%)となっている。これらの収益はサブスクリプション(定期契約)とサポートによって発生するとのこと。「セールスフォース」という社名なだけあって、セールスのためのクラウドサービスが最も大きいということか。

コストの内訳と推移

どのセグメントも順調に成長しているSalesforceだが、一方でいつまでも利益が増えないのが気になる。コスト面を見てみよう。

2015年度の売上高66億ドルに対して、売上原価が16億ドルと決して大きくはない。営業コストを見ると、R&Dが9.4億ドル、セールス・マーケティングが32億ドル、一般管理費が7.4億ドル。こうして見ると明らかにセールスとマーケティングにかけている費用が大きい。売上規模の約半分。

Salesforceは今のところは売上が順調に伸び続けているので、伸び続ける間は利益が出ないスレスレのところまでマーケティングにリソースを突っ込みまくるという成長企業にありがちな戦略なのだと思う。今から数年後に売上の伸びが衰えたら、利益を出すようになる日が来るのかもしれない。

戦略について

ということで、今度は彼らの長期的な経営戦略について知りたい。

年次報告書(Form 10-K)の「Our Strategy」という項目を見ると、彼らの目的は「会社が販売し、サービスを提供し、マーケティングを行って顧客とつながる方法を全く新しいやり方に変える」ことだそうだ。

そして、戦略における重要な要素として次の7つを挙げている:

1. Strengthening our market-leading solutions

彼らが提供するソリューションの機能やセキュリティをさらに強化する。

2. Expanding strategic relationships with customers

顧客との関係を広げていく。ロイヤル・カスタマーのプレミアムサブスクリプションへの誘導など。

3. Extending distribution into new and high-growth product categories

分析サービス、 コミュニティサービス、IoTサービスなど、セールスやマーケティングなどに留まらない新しいジャンルのクラウドサービス分野を開拓する。

4. Expanding our world-class sales organization

最強のセールス・チームをさらに拡大する。やっぱりここは競争優位性なんだな。

個人的な話になるが、以前サンフランシスコを訪れた時に会ったハーフ・ジャパニーズのSalesforceセールスの人が、圧倒的なホスピタリティでもてなしてくれてすっげえ感心した記憶がある。

5. Reducing customer attrition

ユーザーとの摩擦を減らす。ストレスをなくすということかな。

6. Building our business in top software markets globally, which includes building partnerships that help add customers

積極的にグローバルにマーケットを開拓するために、現地のセールスやサードパーティベンダーとの協業も積極的に推し進めて行くとのこと。

7. Encouraging the development of third-party applications on our cloud computing platforms

Salesforceのクラウドインフラ上でサードパーティのアプリケーション開発を奨励するとのこと。言っちゃえばCRM版のAppStoreということだろうか。要するに、彼らのAPIを利用して、新しいクラウドベンダーが事業を展開できるように、ということだと思う。


戦略に関するこれら7つの項目を見ると、Salesforce.comという会社はすでに大きな規模だが、まだまだ継続的な成長を志している会社だというのがわかる。世界的なIT企業でありながら、優位性の一つが現地に築いたセールスパーソンのネットワークだというのも興味深い。

MicrosoftやOracleもCRMサービスを展開しているようなので、そこらへんが競合としては大きなところなのかもしれない。一方でこの分野は未上場のスタートアップでもガンガン革新が進んでいる領域だと思われるので、10年後には全く違う構図が見られるかもしれない。