Twitterの経営状況を打開するには何が必要なのか

Twitter, Inc.

今となっては少し前のネタになってしまったが、Twitterが経営難により身売りを検討していた(誰も買ってくれなかった)。普段からTwitterを使う身としては気になったので、現状について調べた内容をまとめ、Twitter社はどうするべきなのかを自分なりに考えてみる。


Twitterは間違いなく世界有数の製品である。ヘビーユーザーにとってはもはやインフラと言っていいくらい深く浸透している(まあ、ヘビーユーザーというのはそういうユーザーのことではあるが)。

よほど下手な改悪などがない限り、Twitterという製品と、その中にできたユーザーやコンテンツのネットワークとしての価値が揺らぐことはそうないのではないかと思う。

よく比較されるのが、写真を加工してシェアするアプリの「Instagram」である。MAU(月当たりのアクティブなユーザー数)で抜かれたと言って以前話題になった。もちろんInstagramも素晴らしい製品であるが、サービスとして解決する課題が根本的に違う。直接比較するのは難しいと思おう。メッシとクリロナのどちらが優れたサッカー選手かを議論するようなものだ(と私は思っている)。

 さて、しかしTwitterの経営はやばい。何が問題なのかを探るためにまずはTwitter社の決算報告資料を見てみる。具体的にはこちら。2016年3月に行われた年次株主報告資料だ。

まずは売上。一見するとすごい勢いで伸びている。直近の数字は22億ドルだ。日本円だと2200億円程度。大きな数字のような気もするが、日本の同規模の企業だと東宝、千葉銀行、静岡銀行、スクエアエニックス、ミニストップなど。決して小さくはないがものすごく大きいというわけでもない。ちなみにFacebook社は70億ドル。

プレゼン資料では次にユーザーの近況が載っている。

MAU(月当たりのアクティブなユーザー数。月に一回以上Twitterを開く人ということ)は3.1億人。ARPU(ユーザー一人当たりの広告収益)は1.51ドル。

ユーザー数はともかく、収益性がFacebook(ARPU4ドル)と比べてかなり小さく、これが全体の売り上げの差につながっていると言える。

SECに提出する方のアニュアルレポートも見てみる。

一番左が最新のデータだ。「Net loss(純損失)」の欄を見ると5億2100万ドルの損失。過去の数字と比べると大きく改善してはいるが、赤字だ。売上高に比較して-23.2%という高い損失率。

なんでこんなに赤字なんだろう。何にお金を使っているのか。「Conts and Expenses」の中の「Research and Development」8億ドルは主にエンジニアの人件費だと思われる。その下の「Sales and Marketing」にも8.7億ドル。これだけで約17億円。「売上原価(Cost of Revenue)」が7.2億ドルだから、この時点で赤字だ。

Twitter社には3898人(当時)の従業員がいたらしい。このうち何人がエンジニアなのかはわからないが、半分程度だとすると1900人。以前もレイオフしていたし、最近も従業員削減を発表していたが、Twitterという巨大とはいえ一つのサービスのために1900人、しかも赤字というのはどう考えても多すぎる。

メッセージングアプリのWhatsAppは9億人ものユーザーがいるのにエンジニアの数は50名だったという。これは極端な例だが、Twitterにはその40倍(推定)ものエンジニアがいるのだ。

しかし、仮に開発コストが半分になっても、まだ1億ドルの赤字だ。セールス・マーケティングのコストを半分にできても、3億ドルの黒字で純利益率15%。悪くはないが、Facebookの利益率33%には遠く及ばない。

つまり、収益性の向上も課題としてあるのだ。

どうしたらTwitterの収益性が上がるか

これには3つしか方法はない。

①ユーザー数の拡大

②広告単価の向上

③新しいマネタイズ手段の発見


まず、ユーザー数拡大であるが、正直これは「コントロールできない要素」だと自分は思う。Facebookなどと違ってTwitterは「万人が楽しめるサービス」ではないのだ。だから、長期的にはインターネットやデバイス自体の途上国などへの拡大により、ユーザーが増える可能性はあるが、現在リーチできる国や地域の中で、また爆発的にユーザーを増やすのは難しいと思う。

すでにTwitterは十分有名であり、潜在ユーザーに対して十分にリーチできているのだ。


それでは、広告単価はどうだろう。

これはかなり向上の余地があるように思う。Twitterの広告は(私見だが)低俗で見当はずれなものが多い。これでは何も成約しない。成約しなければ、広告の単価は上がらないだろう。

InstagramやYoutube、Spotifyなどのサービスがチャレンジしているように、広告自体のコンテンツ化ができれば、ユーザーは悪い気はしない。悪い気がしなければ、商品次第では買うはずだ。

つまり、Twitterが広告単価を上げるためにするべきなのは「広告を正しい属性のユーザーにターゲティングする精度を上げること」「広告自体のコンテンツとしての質を高めること」の2つである。15秒のテレビCM一つにどれだけの費用がかけられていることか。


そして、3つ目「新しい収益化の方法を確立する」ことについて。

すでにデータのライセンス提供などは行っているようだが、おそらくほとんど生のツイートデータを渡しているだけなのではないか。

しかし、ツイートというのは人々の発言や思考が集積する場所であり、それ自体に(うまく加工されれば)付加価値を生み出し得るものだと思う。


PayPalの創業者であり、有名なシリコンバレーの投資家でもあるピーター・ティールが出資したPalantirは、大量のデータを分析するソフトウェアを政府や金融界などに販売、すでに17億ドルの売上を記録しているそうだ。

特にアメリカは銃社会であることもあり、犯罪の抑制には莫大な国家予算が割かれる。Twitterに集積する膨大なデータを犯罪の抑止などに活用することはできないのだろうか。

あるいは、ユーザーのニーズを発見するマーケティングツールとしても使えるはずだ。Twitterを通じたアンケートシステムなども提供できるだろう(アンケート機能はすでにあるが)。

Twitterのコンテンツは、ある意味で社会の集合知そのものであり、また情報のオープン性がとても高いのも特徴だ。それにより、「よりよく社会を理解する」ような仕組みを作ることができれば、Twitter社にとっては大きなビジネスチャンスになるのではないか。

Twitterを使ってビジネスしているマーケティングスタートアップを買収していくのも良いかも。