AIブームの恩恵を語る企業は数あれど、規模を増しながら成長率まで引き上げる会社はまれです。8月27日に決算を発表したMarvellは、その少数派に躍り出ました。説明会で示されたのは、階段を一段ずつではなく、二段飛ばしで駆け上がる設計図です。
階段を支える材料は、GPUのような主役チップではありません。アクセラレーターの脇で働く専用チップ群や、チップ同士をつなぐ配線の技術です。かつて隙間産業のように見られたこの領域が、大手クラウド1社との包括契約だけで同社の年間売上を上回る規模に膨らみつつあります。
決算自体も加速しています。売上の約8割を占めるデータセンター事業は、今期の成長見通しを6割増へと引き上げました。マシュー・マーフィーCEOは「データセンター事業の強さは、我々の従来予想を上回り続けている」と語ります。

二段飛ばしの階段は、何を材料に組み上がっているのか。そして、メモリー不足と銅配線の限界は、なぜこの会社の追い風になるのか。決算説明会の中身に分け入ります。
決算発表の約1週間前、Marvellは1本の臨時報告書(8-K)を提出しました。カスタム半導体の最大級の採用企業である大手ハイパースケーラーとの商業契約を拡大し、あわせて新株予約権(ワラント)を付与するという内容です。
質疑ではアナリストが相手をGoogleと名指しし、マーフィーCEO自身も「TPU(Googleが自社開発するAIチップ)エコシステムの一員であることを光栄に思う」と述べ、事実上これを裏付けました。
規模は桁外れです。あるアナリストは、マイルストーンをすべて達成した場合の累計収益を6年余りで1,200億ドル、年換算で約180億ドルと試算しました。前期(2026年1月期)の全社売上高は約80億ドル。この契約だけで、会社全体の年商の2倍を超える売上が毎年積み上がる計算になります。
別のアナリストは、この試算を毎年Marvellを丸ごと1社分積み増すのに等しいと評しました。マーフィーCEOは「あなたの計算は間違っていない。途方もない数字だ」と応じ、試算を否定しませんでした。ワラントが既に進行中の開発案件から新規受注、将来の候補案件までを包括する構造であることも、想定の大きさを裏付けます。
対象となるのは、TPUの周辺で働くカスタム製品群です。AI推論アクセラレーターに加え、ストレージコントローラー、サーバーの通信を担うNIC、メモリーインターフェースコントローラー、メモリーの近くで計算を行うニアメモリーコンピュートまで多岐にわたります。本体ならぬ「周辺」の集合体が、この巨大契約の中身です。
質疑で繰り返されたのは、この契約をいつ、どれだけ業績に織り込むべきかという問いでした。あるアナリストは、年換算180億ドル規模なら来期から表れるはずなのに、来期のカスタム事業の市場想定が50〜60億ドル規模にとどまる点を突き、案件が後ろ倒しなのかと迫りました。