AIの限界は演算ではなく「電力」——ADI、初の40億ドル四半期が映す地殻変動

Analog Devices, Inc.

「アナログ半導体は年5〜7%で成長する成熟市場」——業界で長く共有されてきた通説が、いま揺らいでいます。Analog Devices(ADI)の2026年5〜7月期決算は、売上高が40.2億ドルと前年同期比40%増え、創業以来初めて四半期40億ドルの大台に到達しました。

ヴィンセント・ロッシュCEOは今回のサイクルについて「その幅、深さ、そしてAIという重力場。これほどのサイクルは経験したことがありません」と語ります。一過性の追い風ではなく、AIが生んだ電力問題がアナログ半導体の役割そのものを書き換えつつある——それが同社の見立てです。

象徴はデータセンター事業です。通信部門売上の8割を占めるまでに拡大し、光通信・電源の両分野が前年比2倍超のペースで成長。同社は2030年時点の関連市場の想定を、わずか1年で2倍以上に引き上げました。

演算能力ではなく電力がAIの進歩を決める時代に、「縁の下」の部品メーカーは何を握るのか。そして四半世紀前のドットコム期と、今回は何が違うのか。決算説明会は、この2つの問いに正面から向き合う場となりました。

AIの隘路は演算ではなく電力

「データセンターの容量はいまやFLOPS(演算能力を示す単位)ではなくギガワットで測られる」。ロッシュCEOはAI時代を定義づける変化をこう表現しました。電力の確保こそがAIの進歩を阻む最大の制約になったという認識で、必要なのは送電網からチップまでを一気通貫で最適化する「グリッド・トゥ・チップ」のアプローチだと説きます。

出発点は送電網です。複雑さを増す電力網に対し、ADIは電圧・電流・電力品質をリアルタイムで可視化する監視ソリューションを提供しています。発電・送電・蓄電からラック内給電、プロセッサへの電力供給まで——ロッシュCEOはこの領域を「データセンターの血管系」と呼びました。

蓄電の勢いは数字にも表れています。前回の決算説明会では、蓄電事業者向けバッテリー管理システムの売上が2025年度に50%超伸び、2026年度も強い需要が続いていると説明されていました。再生可能エネルギーの出力変動を吸収する蓄電は、送電網の安定に欠かせない存在になりつつあります。

興味深いのはハイパースケーラーの動きです。送電網の増強がAIインフラの展開速度に追いつかず、彼らは専用のマイクログリッド(小規模電力網)の検討を進めているといいます。この「電力の地産地消」は売上5億ドル超のエネルギー事業をさらに押し上げる要因で、ロッシュCEOは2030年頃までの倍増を見込みます。

この結果、同社が見積もる2030年時点のデータセンター・エネルギー関連の獲得可能市場は、1年前の想定から2倍以上に膨らみました。AI投資額の増加だけでは説明がつかず、桁違いのアナログ部品を必要とする新しい市場とアーキテクチャの登場が背景にある——ロッシュCEOはそう強調します。

効率「1%」が分ける電力の勝負

電源分野の競争軸は、わずかな効率差に凝縮されます。ロッシュCEOは「1%の差は大きく聞こえないかもしれないが、変換効率97%のソリューションは98%に比べ、熱として失うエネルギーがおよそ5割多い」と説明しました。この差は冷却設備の追加や運用コストとして複利的に積み上がり、顧客の製品選定を左右します。

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