「企業価値評価」という本を読み進めている。割引キャッシュフロー(DCF)法による企業価値評価を、マッキンゼー・アンド・カンパニーがまとめたテキストということで、内容的にはかなりヘビーな本だ。
一方で、この本が言おうとしている本質はシンプルだとも感じた。なので詳細は本書に譲り、概要をメモがてらまとめてみたい。
企業は、手持ちの現金を投資して、より多くの現金を生み出す。これが企業による価値創造のシンプルな本質である。
より専門的には「資本コストを上回る資産収益率(ROIC)で成長する企業が価値を創造する」というのが基本原則。1890年に英経済学者のアルフレッド・マーシャルがすでにこのように言及していたらしい(注:一般的には「ROIC=資本収益率」であるが、この本ではあえて「資産収益率」として統一している)。
資本コストとはざっくりいうと「リスクを取る際の投資家にとっての機会費用」である。
資産収益率(ROIC:Return On Invested Capital)とは、投下した資産に対して得られる事業利益の割合である。ROICが資本コストを上回ったときのみ、(投資家から見て)企業が価値を創造したとみなされる。
企業の長期的な価値創造の大きさは、ROICと売上高の成長率、そしてそれをどれだけ維持できるかで決まる。 それによって長期的に生み出されるキャッシュフローが決まってくるからだ。
ROICは「NOPLAT / 投下資産」と計算する。それぞれの意味は以下の通り。
NOPLAT(みなし税引後営業利益:Net Operating Profit Less Adjusted Taxes): コア事業の利益から関連する法人税を差し引いたもの。純粋な事業利益。
投下資産(Invested Capital):コア事業に投下した累積資金で、主に有形固定資産や運転資本
この2つの指標を、財務諸表から(単なる報告利益ではなく)抽出する作業が必要になる。
そして、事業から得る「果実」であるフリー・キャッシュフローは次のように定義できる。
FCF(事業からのフリー・キャッシュフロー):コア事業から生み出されるキャッシュフロー。NOPLAT - 純投資と計算する
純投資(Net Investment):ある年と翌年の投下資産の純増(減)額
いわゆる営業利益や売上の大きさではなく、事業からのフリー・キャッシュフローだけが企業価値を生み出す。
逆に、長期的なフリー・キャッシュフローは「ROIC」と「成長率」の二つに分解することができる。そのため、ROICが低い企業はROICを、成長率が低い企業は成長率を向上させることが企業価値の増加につながりやすい。
前述の原則をもとに考えると、キャッシュフローの増加につながらない施策は、たとえ会計上の利益を増加させたり、財務諸表を良く見せる効果があっても、企業価値の創造にはつながらない。 これが「キャッシュフローが変わらなければ企業価値も変わらない」という「企業価値不変の法則」である。
実証研究によれば、10-15年以上の期間をとると、TRS(Total Return to Shareholders:一定期間における株価の増加額と受取配当を足し合わせたもの)と企業の業績は一致する。
しかし、10年以下の期間では必ずしもそうではない。 その理由の一つとして、「投資家の期待に際限がない」ことがある。高業績を維持している企業にとって、投資家の期待を凌駕し続けることは難しく、ある段階まで来ると不可能になる。高業績を維持することが株価に織り込まれてしまうのだ。 逆に、低い期待が低い株価の原因となっている場合、それを上回る業績を上げるのはそれほど難しくない。
株価は本当にファンダメンタルズにリンクしているのかという疑問はわきがちであるが、長い目でみれば、個々の株式も市場全体も、ROICおよび経済成長に準じて動いていることを数々の事実が証明している。
一部の投資家がファンダメンタルズに基づいて判断しない場合でも、株価が合理的なレベルに導かれることを証明するのは簡単だ。
ファンダメンタルズを重視する投資家は、自分の考える妥当な株価に達した(安い・高い)場合のみ、取引を開始する。そうでないノイズトレーダーは、近々株価が動くと考えうる材料がある場合のみ取引を実行する。 そのため、市場はファンダメンタルズを重視する投資家が設定したレンジの中で行ったり来たりを繰り返す。
逆説的ではあるが、市場では経済ファンダメンタルズからの乖離が発生するからこそ、経営者や投資家が真に企業価値を理解することが重要である。
資本コストを上回るROICなき収益の成長は、企業価値を損なう。
それではROICを高め、維持するには何が必要なのか。
競争優位性を持つ会社は、価格プレミアムを乗せるか、製品をより効率的に生産することで、より高いROICを達成できる。
ポーターによれば、競争の熾烈さは「新規参入の脅威」「代替品の脅威」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」「競争企業間の関係」で決まる。
価格プレミアムの源泉となる競争優位性は、「革新的な製品」「クオリティ」「ブランド」「顧客の囲い込み」「合理的な価格形成」の5つ。
コスト・資本効率性による優位性の源泉は「革新的な事業運営方法」「独自のリソース」「規模の経済」「拡張性のある製品・プロセス」の4つである。
ROICを維持するためには、「製品ライフサイクルの長さ」「優位性の持続」「製品リニューアルのポテンシャル」が重要。 継続的に高いROICを上げているのは、家庭用品、飲料、医薬品、ソフトウェアなどの業界。
企業は存続し、繁栄し続けるために、成長しなければならないと一般に言われる。 しかし、資本コストを上回るROICをもたらす場合のみ、成長は企業価値を創造する。
売上成長の主要要素は「ポートフォリオ・モメンタム(市場自体の成長)」「市場シェアの変化」「M&A(合併・買収)」の3つである。
企業価値創造のポテンシャルが最も大きいのは、まったく新たな製品カテゴリーを作り出してしまうほど革新的な新製品・サービスを開発すること。
その次に大きいのは、既存の顧客層を誘導して、製品やその関連製品をより多く購入するように仕向けること。
企業価値の創造には、市場自体の成長の方がシェア拡大よりインパクトが大きく持続的だ。特に大企業が高成長を維持することは、ROICを維持していくよりもはるかに難しい。そのため大企業の長期間にわたる売上成長の大部分は、属する市場(業界)自体の成長に依存している。
ほとんどの製品には自然なライフサイクルがあるため、成長を持続することは難しい。 ウォルマートの年平均売上高成長率は設立から35年を経た1990年代末まで、10%を割ることはなかった。一方、イーベイは成長スピードが非常に早く、早期に成熟段階に達したため、わずか12年で成長率が10%を下回ることとなった。
企業が売上規模を維持したり、増収を継続していくためには、ある製品が成熟段階に達して売上高が減少し始めたら、その製品と同等規模の売上高が見込める代替製品を見つけなければならない。
まとめると、大企業の長期間にわたる売上成長の大部分は、属する市場(業界)自体の成長に依存している。
企業価値の創造のために最も有効な成長戦略とは、真の意味での製品の技術革新と言える。
ほとんどの製品には自然なライフサイクルがあるため、高成長を持続するためには、新製品を加速度的なスピードで市場に投入し続けることが唯一の方法になる。
まだまだわかっていない部分も多いので、実際の事例も見ながらもっと読み進めていきたい。あと、わかりやすくしようとしたけど結局専門的っぽい言い回しになってしまった感がある。。