【書評】勝つ投資、負けない投資

勝つ投資、負けない投資」という本を読みました。

あまり巷の投資本は読まないのですが、これは普通に良い内容だったと思います。

本書では二人の投資家が寄稿しており、一人は個人投資家として有名な片山晃氏、もう一人は機関投資家の小松原周氏です。

片山氏はアルバイトで貯めた65万円の資金を10年間で25億円にまで増やした人物として知られています。

一方の小松原氏は、機関投資家としての長いキャリアの中でTOPIXなどの指標に対して「不敗」の経歴を持っているベテラン・ファンドマネージャー。

本の中では、二人がそれぞれ自分の過去をふり返りながら投資について語るという内容になっています。

今回は、二人が語っている中で、特に印象に残った点をまとめます。

片山晃氏

片山氏は、投資を始める前、ただただオンラインゲームに没頭する日々を送っていたそうです。あるゲームでは他に並ぶものがないと言えるほどにやりこんだと言います。

その後、株式投資の世界に入ることで名を上げていくわけですが、彼が書いた部分で印象に残ったフレーズをまとめておきます。一部要約含みます。

「一般に、機関投資家は個人投資家に比べ、情報の手に入れやすさという点で有利だと言われている。しかし、彼らには資金が巨額であるがゆえの機動力のなさや、顧客の資産を預かっているゆえの運用方針の縛りなど、個人投資家にはない弱みも抱えている。特に、時価総額が数十億円程度の企業に投資することなどはできない場合が多く、そのために『上がるとわかっていても』手を出せない銘柄というものが数多く存在する」

「個人投資家は、将来上がりそうな銘柄であれば、流動性に乏しかろうが買うことができるし、そうするべきである。まだ日の目をみていない銘柄を先に仕込んでおいて、人気が出るのを待つ。そうした自然な投資行動を取れる機動力こそが、個人投資家が機関投資家に対して優位に立てる唯一の武器である」

実際、機関投資家が「この銘柄は面白い」と思ってから、実際の投資行動に移すまでには、1ヶ月から2ヶ月くらいはかかるそうです。

「リーマンショック後の日本相場には、PBRが0.2倍や0.3倍という、信じられないような水準まで下落している銘柄がたくさんあり、そうした銘柄に幅広く分散させて投資してみたのが2009年から2010年。その結果、いくつかの銘柄では株価が2倍から3倍になる大きな成果が得られたが、一部は大した値上がりを見せずに終わった。その違いは単純に『業績の回復スピードの差』であった。その結果、次第にEPS(一株あたりの利益)の成長を重視するようになっていった。」

「低PBRや低PERで買ってもダメな理由は『そこに変化が起きない』からであり、誰が分析しても似たような結果が導かれるために差がつかない。だから、自分にとっての『割安』の定義とは、『その銘柄が将来実現すると考えられるEPSに対して現在の株価が割安かどうか』ということになる。」

「成長株を見極めるための基準は『変化』に着目するしかない。例えば、それまで安定して10%の売上成長を遂げていた企業が突然20%を超える成長を見せたら、それが変化である。その変化を見つけたら、そこから『想像力』を働かせ、未来から今を振り返ってみたときに、現在の状況がどのように見えるかを想像する。それが一過性のブームに終わるのか、それとも世界を塗り変えるような商品に育っていくのか。」

「自分にとっての投資とは、現在と未来の間にあるギャップを埋める行為。それは変化に気づく力であり、変化がもたらす未来を考え抜く発想力や想像力でもある。その源泉となるのは『疑問を持つ』ことである。今後ますます陳腐化していくであろう単純な数字の分析よりも、その先にあるストーリーを読むことこそが投資の付加価値となる」

「株価上昇のストーリーはなるべくシンプルなものの方がよい。例えば、企業に時価総額に比べて莫大な資産があるからといって株価が上がるわけではない。それにアクティビスト的なファンドが介入する、ということになれば、そこで初めて株価が上昇するのである。マニアックなアイデアより、どれだけわかりやすく他の投資家にも刺さるカタリストを提示できるかを常に考えた方が良い」

「考え抜いた上で保有した銘柄でも、『本当にこの銘柄でいいのか?』『今考えているストーリーに穴はなかったか?』という疑いは常に持ち、それをチェックする態度は崩すべきではない」

「ギャンブルではなく、緻密な調査と分析に基づいた割りのいい勝負であれば、相応のリスクを取るべきである。なぜなら、そのような良い投資機会というのは決していつでも巡ってくるわけではないからだ。市場はいつでも開いているが、市場で儲ける機会が常にあるわけではない。だから、安易な分散投資はオススメしない。」

小松原周氏

続いて機関投資家の小松原氏です。

彼は大手資産運用会社で年金基金や投資信託の運用を行なっているファンドマネジャーです。いくつか印象に残ったフレーズを引用します。

「ファンドマネージャーという職業は、外から見ると一見華やかですが、私の日常がそうであるように、意外にも地味な作業の繰り返しでもあります。

投資アイデアは天から降ってくるものではなく、地に足付けて探し出すことの方が、圧倒的に多いのです。『知りたい』という知的な好奇心がないと、この世界では長続きしないかもしれません。」

「理論株価は、その企業が将来生み出すキャッシュフローの大きさを現在価値に割り引くことで求められます。その方法はいくつかありますが、最もシンプルなのは『配当割引モデル』。バックテストを行うと、株価はこれらの割引モデルから導出される理論価値に結局は収れんすることが証明されています。」

「ちなみに割引率は、厳密には世界のリスク資産の価格を反映して毎日再計算するものですが、日本株の場合は概ね6%付近と考えて良いでしょう。」

「将来、大化けする会社を見つけるためには、まず世の中の大きな流れを感じることが大切です。しかし、これはマクロ経済がどうかとか、現在は景気の山の何合目にいるかということではない。ここでいう『大きな流れ』とは、景気の循環とは別のところにある、世の中の根底を流れている潮流、いわゆる『メガトレンド』のこと。そこから外れていない会社かどうかをチェックする」

「『メガトレンド』の代表例はIT革命。私たちはおそらく、18世紀半ばに起きた「産業革命」を超えるほどの大きな革命の、ほんの途端にいると考えています。経済学者が世界中で起こる謎のデフレ圧力の正体を見つけられずに悩んでいますが、これはIT革命により、あらゆるモノやサービスの価格に下落圧がかかっているから。インターネットを構成する3つの要素(CPU、通信、メモリー)の価格下落がマイナスの相乗効果を生むことで、情報をやり取りする価格は、年率でマイナス50%以上もの下落をしていると試算しています。」

「もう一つの大きな流れは世界的な金融緩和。リーマン・ショック後、日本銀行やFRB(アメリカ)、ECB(ユーロ圏)、BOE(イギリス)など主要国の中央銀行は、歴史上かつてないほどの金融緩和策をとり、バランスシートを膨らませました。特に、FRBのバランスシートは5倍の規模にまで膨らみ、2兆ドルもの資金を市場に投入。欧米型の資本主義システムへの不安から、金や土地などの通貨以外の資産を保有しようとする動きが世界中で起きています。」

「日頃から点々とした個別の情報を集めていると、何か関連する情報が入ってきたとき、その点と点がすっとつながる瞬間があります。こうしてトレンドの流れをつかむことができるのです。それができるかどうかはひとえに『好奇心の有無』の差であり、『何でも知りたい性』という知性の問題でもあります」。

「伸びる会社のサインは、『収益性が向上している』『経営者がROEの向上を意識している』『収益性の高いところへ投資している』『多くの人を幸せにしている』『ガバナンスがしっかりしている』の5つ。逆に伸びない会社のサインは『本業と全く関係のない事業を行なっている』『中期経営計画に事業目標が明記されていない』『自社ビルを建設する』『本社の受付嬢がやたらと美人』『社長が業界紙以外のメディアに出始める』など」

感想

かなり長くなってしまいましたが、二人の投資家が語っている根底にあるのは同じことだと感じます。

それは、「知的好奇心」こそが投資を成功させるために一番重要、ということです。

投資家として成功を目指すのであれば、人と違う考え方を、人よりもずっと長く続けていく必要があるし、周囲でなく自分の考え方を大事にしなくてはならない、ということだと思います。

我ながら月並みな結論に達しましたが、言うは易しで、実際に実行することは並大抵のことではありません。ただ、このことは事業を作るとか、何をするにしても実は大事なことなんじゃないかとも思いました。

今後もしっかりと自分の考えを練ってゆきたいと思います。