まさにジェットコースター人生!瞑想アプリ『Calm』の創業ストーリー(前編)

まさにジェットコースター人生!瞑想アプリ『Calm』の創業ストーリー(前編)

Calm

アメリカのヘルスケアブームを背景に、ヘルスケアスタートアップの調達額も年々増加。

2008年には11億ドルほどだったデジタルヘルスケアスタートアップの資金調達額は、2018年には82億ドルに増加しています。

そのなかでも、ヘルスケア領域の調達額を牽引しているサービスがモンスター瞑想アプリ『Calm』。

2019年2月、瞑想アプリ『Calm』はシリーズBで8,800万ドルを調達し、評価額が10億ドルに上昇。いわゆる"ユニコーン企業"となりました。

ちなみにこのCalmは著名投資家ジェイソン・カラカニス氏の投資先でもあります。カラカニス氏は2014年にCalmに出資(評価額:2.5億ドル)。そのCalmがすごいのは、カラカニス氏から調達した後4年間、利益を出しながら成長してきた点です。

通常シリーズA、シリーズBを経てシリーズC.Dでユニコーン企業(評価額:10億ドル)になるのに対して、Calmは利益を出し続けながら成長。たった2回のラウンドでユニコーンになったのでした。

カラカニス氏はこのように利益を出しながら資金調達に頼らず成長を続けてきたスタートアップをユニコーンならぬ"ペガサス"と称しています。

(※Calmの他には、Dyn.com、Superhuman、Fitbodも)

特殊な経緯で成長してきたCalmですが、その成り立ちはあまり知られていません。今回はそんな瞑想アプリCalmがどのように創業され、成長してきたのか詳しくまとめていきたいと思います。

イギリスの起業家『マイケル・アクトン・スミス』

Calmを創業したのは『マイケル・アクトン・スミス』と『アレックス・テュー』の2人。ちなみに2人ともイギリス出身の起業家です。

まずは1人目のマイケル・アクトンスミスから取り上げていきたいと思います。

1974年、アクトンスミスはイングランド南東部バッキンガムシャーに生まれました。彼の父親はアメリカ人で教師、母親はアイルランド人で足病医でした。

そんな両親に育てられたアクトン・スミスですが、彼は幼い頃から商才を発揮。アクトン・スミスの妹アンナ氏によると、アクトン・スミスは幼い頃からブーツ販売をしてたほど。さらに7歳の時には路上で石を売っている写真が残っているくらいです。彼はとにかく商売が好きだったようです。

他には幼い頃から近所の家の車を洗車したり、スタントショーをするなどで小銭稼ぎなどを行っており、常に色々なビジネスアイデアを発案していたとのこと。

ビジネスに興味を持つ一方で、彼は学業とスポーツ両方で優れた成績も残しています。しかし学生時代はチェスクラブに入会しており、いわゆる学校で"イケてる"集団には入っていなかったとのこと。つまり彼はオタクだったのです。

ウォール街に憧れて金融マンに

高校を卒業した後、アクトンスミスは地理学を学ぶためにバーミンガム大学に入学。もともと起業家精神が旺盛だったアクトンスミスですが、大学に行く前にウォール街を訪れたことがきっかけで、金融マンに憧れを持つようになります。

そしていつの間にか彼の夢は起業家になることからウォール街で働くことに変わっていたのでした。

結局、大学卒業した後に新卒で投資銀行の人事部に就職。しかし、入ってすぐ彼は自分が想像していた仕事と現状の仕事の乖離に絶望。すぐに退職し、大学の友達と一緒にビジネスアイデアを考え始めたのでした。

そんなアクトン・スミスが最初のスタートアップを経験したのが、彼が20代後半のとき。バーミンガム大学の友人だったトム・ボードマンとスタートアップを立ち上げたのです。これがアクトンスミスにとって初めてのスタートアップになったのです。

彼らのビジネスアイデアは、若い人をターゲットにしたオンラインガジェットECサイト『Firebox.com』でした。

1998年に創業された『Firebox.com』は、おもちゃ、ガジェット、ゲームをインターネットを通して販売。起業する時、彼らは2人とも仕事を辞め、サウスウェールズにある相方トム・ボードマンの実家から事業を開始したのでした。最初の事業は順調に成長し、英国で13番目に急成長している個人所有企業としてリストアップされるほどに成長したのでした。

2社目『Mind Candy』を創業

1社目を軌道に乗せたアクトン・スミスは、2003年から1,000万ドルの資金調達を実施し、2社目『Mind Candy』を創業することになりました。

『Mind Candy』では、Perplex Cityと呼ばれる宝探しゲーム事業を開始。

Perplex Cityは、世界のどこかに埋められた10万ポンドのお宝を探し当てる仮想現実ゲーム。世界中のユーザーは、ヒントや暗号を元にお宝を探し、勝者は実際に10万ポンドの報酬を受け取ることができるシステムでした。

Perplex Cityのゲームは2005年4月にローンチ。ユーザーは手がかりを解読し、コミュニティを形成。一見ゲーム事業は成功したかに見えました。

しかし結局このゲームはクリエイティブだった一方で、商業的な成功を収めることはできず、アクトン・スミスは結果的に2007年2月にこのゲーム事業を終了。

当時資金を燃やしながらゲームを運営していたため、会社の口座には残り100万ドル未満しか残っていなかったとのこと。

ゲーム事業からピボットを決意し、アクトン・スミスは次なる事業アイデアを見つけるために、ロンドンのコーヒーショップにこもって数ヶ月ブレーンストーミングすることになります。

『Moshi Monsters』で大ヒットを記録

カフェでのブレインストーミングではいいアイデアは生まれなかったのですが、ある日カフェで落書きしたモンスターからアイデアを着想。

当時『遊びを通して子供たちが学習するのを助ける』というアイデアにも興味があったことから、2007年に『Moshi Monsters』という子供向けのゲームを開発することになります。

Moshi Monstersでは、子供たちがモンスターに餌を与えたりすることが可能となっており、ペットの性格も扱われ方によって変化。さらにそのゲームには友達同士でチャットするためのメッセージング機能もあったことからイギリスで大ヒットを記録します。

リリースされるとMoshi Monstersは"インターネット版たまごっち"と呼ばれ、たちまち人気に。2013年時点でMoshi Monstersは世界8,000万人以上を抱える大ヒットゲームとなったのです。

ちなみにイギリスの子供たちの約半数(当時6歳から12歳までの)がMoshi Monstersにハマっていたとのこと。Moshi Monstersの企業価値は2億ドルに上昇し、アクトン・スミスもMoshi Monstersが"ディズニー"レベルの会社にあることにを確信したのでした。

"デバイスシフト"で一瞬にして事業縮小

ノリに乗っていたMoshi Monstersですが、引き続き快進撃は続きます。

Moshi Monstersはオンラインに止まることなく、オフラインでも拡大。おもちゃから英国の子供向け雑誌、任天堂DS、さらにはトレーディングカードなどにもMoshi MonstersのIPが使用されるほどでした。

Moshi Monstersの雑誌に至っては、発売から6か月以内に英国で最も売れている子供向け雑誌となっています。順風満帆だったMoshi Monstersですが、2012年ごろに市場に変化が起き始めます。

今までは子供にMoshiMonstersを買ってあげてた親たちが、今度はスマホやタブレットを子供に買い与えるようになったのです。

MoshiMonstersもモバイルアプリに対応しますが、アプリストアには次々と競合他社が参入。イギリスの子供向けオンラインゲーム市場は一気にレッドオーシャンになってしまったのです。

このデバイスシフトに対応しきれなかったMoshiMonstersの業績は一気に失墜。結果的に3年間で200人もの従業員を解雇する自体に陥ってしまったのでした。

まさに天国から地獄に突き落とされた気持ちになったアクトン・スミスですが、実はこの経験がのちに彼が創業することになる瞑想アプリ『Calm』に繋がっていくのでした。

(後編に続く)

参照

The Pegasus Startup: Flying Over VCs on the Wings of Profits