インバウンド需要で業績拡大!羽田空港を運営する「日本空港ビルデング」

日本空港ビルデング

今回はインバウンド需要の恩恵を受けて業績を拡大する「日本空港ビルデング」(証券コード:9706)を取り上げたいと思います。

日本空港ビルデングは1953年に設立された歴史ある企業です。

設立の目的は、1952年にアメリカから返還された「東京飛行場」を再発足し、国際空港としての体制を整えることでした。

1955年にはターミナルビルが完成。賃貸業および物販販売業を開始しました。

1964年には東京オリンピックに合わせ、国内線ターミナルビルが完成。

1990年2月には東証2部に上場を果たしています。

順調に業績を伸ばし続けており、18/3期の営業収益は2,259億円に達しています。

営業利益も14/3期の62億円から18/3期は134億円と、約2.16倍も増加しています。


彼らの主要3事業はいずれも拡大傾向にあります。

中でも物品販売業の営業収益は14/3期から18/3期にかけて約1.7倍になっています。


なぜ全体的に営業収益が伸びているのでしょうか?


これを理解するため、まず日本空港ビルデングの事業に大きく影響するインバウンド市場の現状を見ていきます。

インバウンド数が5年で2,034万人増加


訪日外国人の数は直近5年間で2,034万人も増加しています。

政府は当初、2020年までにインバウンド数を2,000万人以上にすることを掲げていましたが、2016年には目標の2,000万人を突破。

目標は急きょ上方修正され、4,000万人にまで引き上げられました。


羽田空港の利用者が年間8,600万人に

インバウンド市場の活況を受けて、羽田空港の利用者数も増加しています。

合計の利用者数は4年間で約1,500万に増加。

国際線は5年間で約2.12倍となり、数で見ると約900万人増加しています。

2017年の世界の空港利用者数ランキングでは第4位になりました。


以上の現状を踏まえて、日本空港ビルデングの事業内容について見ていきます。


免税関連が収益の軸

日本空港ビルデングの事業は「物品販売業」「施設管理運営業」「飲食業」の3つです。

①物品販売業

まず営業収益全体の約65.4%を占める物品販売業を詳しく見てみましょう。

物品販売業はさらに「国内線売店」「国際線売店」「その他」の3つに分けられます。

まず「国内線売店」とは、空港内のショップのことです。

「国際線売店」ではこれに加えて、免税店も含まれます。

空港でよく見かける「Duty Free Shop」などのことです。

「その他」の正体は、免税店の運営の受託と免税品の卸です。

成田や関空、中部のターミナルビルは、日本空港ビルデングとは別の企業が管理・運営しています。

日本空港ビルデングは、そうした企業が所有する免税店を代わりに運営することで運営受託料を得ています。

また、ブランド品を仕入れ、成田や関空、中部空港を管理・運営する企業が所有する免税店にそれらを卸しています。

免税店や免税品の卸売の売上は国際線の利用者数の影響を大きく受けます。

それ故、国際線の利用者数の増加に伴って、これらの売上が増加したのです。

実際に、「国際線売店」と「その他」の売上は5年で倍増しています。

また、これらは言い換えると免税関連が売上の大部分を占めていることを意味します。

実際に営業収益全体で見ても約半分が免税関連です。


②施設管理運営業

日本空港ビルデングはロビーや待合室、案内板などのターミナルビル内の施設を整備し、旅客に提供しています。

こういった空港施設の利用料は、日本空港ビルデングが旅客に課すものです。

しかし、実際に日本空港ビルデングが集めるのは効率が悪いので、代わりに航空会社が運賃に上乗せして徴しています。

それを航空会社から回収することで収益としているのです。

そして、このことは羽田空港の利用者数と売上が比例することを意味します。

インバウンド数の増加を受けて、5年間で施設利用料が30億円増加しています

また、羽田のターミナルビル内の事務室やスペースを貸し出すことで家賃収入も得ています。

さらに、広告スペースの提供や有料ラウンジの運営、羽田の駐車場の運営も行なっています。


③飲食業

日本空港ビルデングは羽田や成田で飲食店の運営も行っています。

ファストフードから和洋中の本格レストランまで展開し、利用客の様々なニーズに応えています。

さらには機内食や空弁の製造・販売も行なっています。


免税店以外の事業ドメインを拡大中

インバウンド需要で業績を拡大している日本ビルデングですが、営業収益の約半分は免税事業に依存しています。

この過度な依存を解消すべく、彼らは事業ドメインの拡大を目指しています。

2016年には銀座に市中免税店をオープン。

売上は2016年度51億円→2017年度84億円と順調に増加しています。


さらに2017年には双日とパラオ空港の運営事業に乗り出しました。

海外での空港運営は、両社とも初めての試みです。

パラオは東南アジアにある島々。

かつて日本の統治下であったため、日本語を話せる人も多くいます。

現在、アジアの観光客が平均年率10%で増加しています。

空港運営の総事業費は約35億円。

パラオ政府が49%、双日と日本空港ビルデングの折半出資会社が51%出資する合弁会社が空港運営を行う予定です。

双日と日本空港ビルデング、パラオ国際空港の運営事業に参画


さらに、事業ドメインの拡大に加え、地域ポートフォリオの改善にも取り組んでいます。

2015年には売上高の大部分を羽田に依存している状態。

これを他空港の売上高の比率を上げることで改善しようとしています。

しかし、昨年度に関西空港で一部事業を収縮。なかなか改善が進んでいません。


ここで財政状態についてチェックしておきます。

利益剰余金が928億円にまで積み上がっています。

自己資本比率は56%。固定長期適合率も82%で、財政状態は健全と言えます。


現在の時価総額は3,688億円で、現預金424億円を考慮した企業価値(EV)は3,264億円です。


ここからは現在活況を見せているインバウンド市場が今後どうなっていくのかを見ていきます。


オリンピックイヤーの外国人観光客数は4000万人を見込む

日本空港ビルデングの成長を支えている外国人観光客数はいつまで増加トレンドが続くのでしょうか。

(みずほ総合研究所「インバウンドの現状と展望」)

今後の予測を立てる上で参考にしたいのが「オリンピック前後で観光客数はどう推移するのか」というポイントです。

過去4大会の事例では、オリンピック開催決定から閉幕後数年間はインバウンド客の上昇が続いています。

みずほ総合研究所の試算では、オリンピックイヤーの2020年に外国人観光客数は4,089万人まで増加することを見込んでいます。

これに伴い、羽田空港の利用者数の大幅な増加も予測されます。


これに対して、日本空港ビルデングではどんな経営計画を立てているのか最後に確認します。


東京オリンピックに向けて1,000億円の成長投資

日本空港ビルデングは2016年に中期経営計画「To Be a World Best Airport」を公表しました。 

この計画で2020年度に営業収益3,000億円、営業利益250億円を目指すと発表。

2017年度と比べ、約1.3倍の営業収益、約1.84倍の営業利益を目指しています。


また、オリンピックに向け、羽田の機能強化のために5年で1,000億円の成長投資を行う計画を打ち立てています。

2018年度の計画の見直しでは、この額が1,750億円までに上方修正されました。


これは投資キャッシュフローにも表れています。


17/3期までに比べ、18/3期の投資C/Fは大幅に増加。

2017年度の決算短信では有形固定資産取得によるものだとされています。

(表 左:平成29年度 右:平成30年度 単位:百万円) 

バランスシートの内訳を詳しく見てみると、「建設仮勘定」が大幅に増加しています。

これは羽田の国際線及び第二ターミナルビルの拡張工事への支出によるものだと考えられます。


多額の成長投資によって、インバウンド市場の中で今後どれだけ業績を伸ばしていけるのか。

今後も注目していくべき企業の一つです。