今年上場したばかりのネット企業「and factory」が何やらすごいことになっていたので、決算をまとめたいと思います。
(決算説明資料)
四半期ごとの業績をみると、この通り。
4Qの売上は9億円を突破し、前の四半期と比べても2倍以上に拡大しています。
営業利益も同じく伸びていますね。
通期業績で見ても、売上は19.1億円と前年から3倍近くに拡大しています。
営業利益も同じく63%の増益。
and factoryの事業は大きく「アプリ事業」「IoT事業」の二つに分かれますが、今回爆発的に増収したのは「IoT事業」の方です。
IoT事業では施設管理システムの提供から宿泊施設の運営までを行なっており、今回伸びたのは「自社物件」のサービス開始によるインパクトが大きかったようです。
アプリ事業に加えて「自社物件」で拡大するand factory。
今回の決算を受けて、株価は大きく伸びています。市場にとってはやはりサプライズだったようですね。
どのような状況にあるのか、事業内容を詳しく復習しつつチェックしてみたいと思います。
まずは爆発的成長の源となったIoT事業についておさらいします。
「AND HOSTEL」を9店舗、「innto」を89施設、「tabii」を275台といった形で展開しています。
時系列的には「AND HOSTEL」が2016年8月にオープンし、「未来の家プロジェクト」を2017年3月にスタートした後、2018年3月に「innto」、2018年4月に「tabii」という流れで展開しています。
それぞれ、具体的にはどのようなサービスなのでしょうか?
① AND HOSTEL
『AND HOSTEL』は「世界とつながるスマートホステル」をキャッチコピーとする宿泊施設。
スマートフォン一つで部屋の鍵、照明、空調などをコントロールできる、快適にくつろげる空間を提供します。
前述した通り、全国に9店舗を展開。
② innto
『innto(イントゥ)』は、1ベッド199円から使うことができる宿泊業務の管理システム。
宿泊客のスケジュール管理から客室の管理、帳票や管理レジなど、宿泊施設の運営を便利にするオペレーションツールをクラウド経由で提供しています。
③ tabii
三つ目の『tabii(タビー)』は、客室設置型のタブレットサービス。
「知るタビ、出会うタビ」という「タビ」と、Travelの「旅」、タブレットの「Tab」がかかっているようです。
宿泊施設は月額無料で導入することができ、タブレット内に表示する「広告」によって収益化を行なっています。
(and factoryがこれまでの宿泊業界にはないビジネスモデルの客室設置型タブレットサービス「tabii(タビー)」を開発)
and factory社としては、『tabii』『innto』と『&IOT(AND HOSTELの土台となるIoTプラットフォーム)』の三つを連携することで、IoTを活用した宿泊体験を進化させていくことを狙っています。
中でも、過去10年で3倍以上に増え、今後も増大し続けることが予想される「インバウンド(訪日外国人客)」を大きな機会として、先進的なツールを普及させていく構え。
さて、増収の大きな要因となった「自社物件」はどの部分に入っているかというと、宿泊施設ブランドの「AND HOSTSEL」です。
近未来のIoT体験が楽しめるスマートホステル®6号店「&AND HOSTEL ASAKUSA STATION」がオープン!
「&AND HOSTEL ASAKUSA STATION」を2018年8月1日に開業。
「&AND HOSTEL」チェーンの中では6号店にあたり、WiFiやBluetoothではなく「Z-WAVE」という統一規格を通信に用いているとのこと。
「Z-WAVE」とは欧米の「スマートホーム」市場を中心に普及が進んでいるIoT無線規格で、2003年にデンマークのZen-sysが開発したそうです。
チェックインするときには鍵ではなく専用のスマートフォンを貸し出し、独自のIoTアプリ「&IoT」によって鍵の開閉が可能。
元々のメイン事業だったアプリ事業では、漫画アプリ「マンガUP!」「マンガPark」を展開しているほか、ゲーム攻略アプリ「最強シリーズ」を展開しています。
こちらの方もかなり好調で、売上は前年の1.8倍、営業利益は同じく1.2倍に拡大しています。
2018年8月期の3Qまでにかけて広告宣伝費を大きく投下したことで、利益の拡大は少し減っていたようです。
しかし、3Qから4Qまでの間に60%の増益となっていますから、来期以降も大きな成長が期待されます。
売上構成を見てみると、最も大きいのは「マンガ」アプリで、四半期売上にして1.8億円近い規模にまで成長しています。
月間アクティブユーザー数(MAU)は8月単月では300万人を突破しており、マンガアプリが成長を牽引していることが分かります。
「最強」シリーズは右肩下がりとなっています。
マンガアプリのARPU(ユーザーあたりの売上)も拡大しており、絶対値は公開されてないものの1年半で2倍近くに拡大しています。
「IoT事業」「アプリ事業」と事業の各論からチェックしてみました。
ここで、改めて全体の動向を確認してみましょう。
つい直前の四半期まではIoT事業よりもアプリ事業の方が売上が大きかったand factoryですが、4Qの自社開発物件の登場によって売上構成比が大きく変わってしまいました。
当然ながら、コスト構造も大きく変わっています。
直前の3Qまでは「人件費」「広告宣伝費」が費用のほとんどを占めていましたが、4Qに突然現れた「自社物件原価」が4億円近くも発生しています。
具体的なコスト内容については決算スライドには書いてありませんが、これは『AND HOSTEL』事業のビジネスモデルに関係するもの。
後ほど詳しく説明します。
バランスシートを見る限り、有形固定資産は7,000万円程度しか計上されていません。
おそらくは物件の賃貸家賃だったりスタッフの人件費などが含まれているはずですが、詳しい内訳は決算短信には書かれていません。
数ヶ月後に公開される有価証券報告書をチェックしなければ、具体的な費用が何なのかはまだ分からないといったところ。
営業キャッシュフローは5億円を超えており、前年から10倍以上に拡大しています。
フリーキャッシュフローも大幅に増加し、年間で4.3億円を創出しました。
冒頭でもチェックしたように、今回の決算は市場にとってちょっとしたサプライズだったようで、株価は大きく上昇しています。
時価総額は223億円にまで上昇しており、手持ちキャッシュと借入金などを考慮すると220億円くらいのバリュー(企業価値:EV)ということになります。
それに対して年間約4億円のフリーキャッシュフロー を稼いでいますから、仮に今年の業績が永遠に続くなら、元を取るまで55年ほどかかるということになります。
55年待てる人はいないはずですから、将来への期待が高まっていることが分かります。
and factoryでは、来年(2019年8月期)にも積極的な増収増益を計画しています。
売上は30億円、営業利益は5億円以上を計画。
来年も自社物件の影響により、4Qに大幅増収となることを見込んでいます。
「自社物件」による売上がなぜ4Qにスポットで立つのかというと、これは『&AND HOSTEL』事業の一部が「不動産の販売」による売上だからのようです。
『&AND HOSTEL』の展開方法は、「他社が保有する不動産を企画・開発し、新規店舗として展開する」という方法のほか、and factory自身が取得した不動産を企画・開発して販売するという方法があります。
収益源には、コンサルティング、不動産仲介による対価、そして不動産販売による対価があります。
そして、運営にあたってはオーナーから運営受託料を受け取るという仕組み。
つまり、and factoryの『AND HOSTEL』事業では、ホステル店舗の運営をオーナーから受託するものの、店舗の所有権自体は他社に帰属するという形式になっています。
他社物件の場合、受け取る収益はコンサルティング料がメインになりますが、自社物件の場合は自ら不動産を取得・開発してから販売するため、「不動産販売」による売上がドカンと入ってくるというわけです。
なかなか通常のインターネット企業には見られないパワープレイとも言えます。
大きな増収に見えたand factory社ですが、残念ながらそれは継続的なものではなく、時々ドカンと入ってくるものにすぎませんでした。
つまり、今後も基本的にはアプリ事業、IoT事業での地道な成長が土台になることは間違いありません。
アプリ事業では、既存のマンガアプリと連携したアドネットワーク「COMIAD(コミアド)」や、提携ソーシャルゲームとの公式攻略アプリの展開などを計画。
IoT事業では、NTTドコモや東京電力(TEPCO)など大手プレイヤーとの連携を強化しつつ、宿泊から住宅まで事業領域を拡大していくそうです。
アプリから始まったインターネット企業でありながら、不動産販売まで事業を広げたand factoryが来年も今の勢いを続けられるか、注目しないわけにはいきません。
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