『Merch by Amazon』と提携!アパレル向けプリンターを開発する「Kornit Digital」

今回はアパレル製品向けデジタルプリンターを開発する「Kornit Digital」について取り上げます。

公式HP

創業者はイスラエル出身のOfer Ben-Zur氏。

テルアビブ大学で機械工学の博士号を取得した後、1993年に半導体メーカーのアプライド・マテリアルズでエンジニアとしてキャリアをスタートさせます。

1998年からイスラエル国内で産業マシンを開発するScitex(2005年にHPが買収)でプリント機器の開発チームを率いた後、2002年にデジタルプリント機器を開発するKornit Digitalを創業しました。


2005年に最初のデジタルプリント機器を発売。

アメリカ進出を皮切りに海外進出を進め、ドイツや香港など世界各地へ拠点を拡大していきます。

2015年にNASDAQ上場を果たしました。

現在は顧客企業数が1,200社を超え、Kornitのプリント機器を使って1日に7,000万枚以上の服がプリントされているそうです。

アマゾンや世界中で印刷ECを提供するCimpressも顧客となっています。


業績推移を見てみましょう。

右肩上がりの成長を続けており、17/12期の売上高は1.14億ドルに。

2018年上半期はすでに7,000ドルに達しています。

17/12期は営業損失208万ドルを計上しましたが、2018年上半期は171万ドルの黒字となっています。

営業利益率は低下傾向にあり、2018年上半期は2.6%となっています。


繊維素材のデジタル印刷比率はわずか5%

Kornitはアパレル製品など繊維素材に対するプリント機器を開発しています。

繊維素材(Textile)への印刷方法には、型版を利用する「アナログ印刷」とデジタルデータを直接印刷する「デジタル印刷」の大きく2種類があります。

アナログ印刷は製造プロセスの準備段階として型版の制作が必要です。

型板を作ってしまえば何度も使い回すことができるので、同じ製品の大量生産に向いています。

決算説明資料

繊維素材の印刷加工は95%がアナログ方式で、デジタル比率はわずか5%となっています。


デジタル印刷はアナログ印刷に比べて製品の納期を大きく短縮することができます。

アナログ印刷では型板の制作に4〜5時間、型板セットなどプリント機器のセットアップに30分、インクの補給と調整に1.5時間を要します。

対してデジタル印刷に必要な前準備は、プリント機器の設定に1〜2分、インクを染み込ませるための乾燥時間が3〜5分ほどです。

デジタル印刷であれば準備に必要な時間を約6時間短縮することができるということになります。


デジタル印刷はさらに2種類の印刷方式に分かれます。

Tシャツなどデザインを直接印刷するのがDirect-to-Garment(DTG)方式です。

印刷工程の紹介動画

Tシャツやバッグ、デニム生地など様々な衣類の印刷を1つのマシンで対応することができます。


Roll-to-Roll(R2R)方式はソファなどに利用するデザイン生地を作成するものです。

印刷工程の紹介動画

生地をコンベアで移動させてデザインプリントを載せていく方式で、完成品はロール型となります。


Kornitの製品ラインナップはDTG方式が中心となっています。

 『Breeze』は中小企業向けのエントリーモデル、『Avalanche』は大量生産で用いる大規模工場向け製品です。

KornitのDTGプリンターは温度調整の必要がないため、通常のデジタル印刷よりもさらにスピーディーな印刷ができるそうです。

そのほか、アナログ印刷とのハイブリッド型で長時間に強い『Vulcan』も販売しています。

R2R向けの『Allegro』では生地のカットにも対応。

ソファの形などを設定すれば、印刷からカットまでノンストップで行なうことができます。


「替え刃モデル」による経常収益が40%

Kornitは高品質なデジタル印刷を実現するため、織物専用インク『NeoPigment』を独自に開発しました。

『NeoPigment』は調合から製造まで全てKornitの工場内で行なわれており、特許も取得しています。

Global Organic Textiles(GOTS-3V)などが定める厳格な安全基準を満たしており、乳幼児でも安心して着用できる安全性の高さが大きな特徴となっています。

そして、インクは消耗品であるため、定期購入が発生します。

特製インクの存在がKornitの収益を安定化させる要因となっています。

製品別売上高の推移を見てみましょう。

17/12期はマシン収益が6,259万ドルと、前年から5%減収となってしまいました。

一方、インクなどの消耗品売上は20%増の5,150万ドル。

いわゆる「替え刃モデル」によって経常的な収益が見込めることがKornitの強みにもなっています。


現在の時価総額は6.8億ドル

Kornitのコスト構造を確認してみましょう。

売上原価率は低下傾向となっており、2018年上半期は51.0%となっています。

販促費率が18.2%、研究開発費率が15.8%と上昇傾向にあり、販管費率の上昇が営業利益率の低下につながっています。

なお、17/12期はアメリカへの本社移転に伴うリストラ費用を50万ドル計上しました。


バランスシートもチェックしていきます。

総資産1.8億ドルのうち、1.0億ドルがキャッシュとなっています。

資産の調達元を確認してみると、払込資本が1.4億ドルで77.8%を占めています。

利益剰余金は0.1億ドルほど積み上がっています。


キャッシュフローも見ていきましょう。

17/12期の営業キャッシュフローはわずかにプラスで、599万ドルとなっています。

財務キャッシュフローは株式の追加売り出し(Secondary Offering)によって大幅なプラスとなりました。

フリーキャッシュフローは33万ドルほど。


株価の推移も見ていきましょう。

2015年の上場から2016年にかけて株価の下落が続いていましたが、2017年以降は上昇傾向に。

後述するAmazonとの提携が株価の押し上げ要因となっています。

株価は最も低い時期と比べて2倍以上となっており、現在の時価総額は6.8億ドルです。

キャッシュ1億ドルを加味した企業価値(EV)は5.8億ドル。

年間の営業キャッシュフロー599万ドルに対して96.8年分の評価を受けています。


2017年にアマゾンとの提携を発表

繊維素材向けプリンターに特化しているKornitですが、市場規模はどれほどあるのでしょうか。

まずは繊維素材全体の規模感を確認してみましょう。

決算説明資料

2016年時点で繊維素材全体の市場規模は1.1兆ドルあると言われており、そのうち印刷加工された製品は1,650億ドルです。

印刷加工のデジタル印刷比率は5%程度で、デジタル印刷された「デジタル印刷繊維製品」の市場規模は80億ドルです。

Kornitが開発するデジタル印刷機器の市場はさらに小さく、12億ドルほどとなっています。

2016年からデジタル印刷事業の年平均成長率(CAGR)は16%で推移し、2021年の市場規模は25億ドルまで拡大する見込みとなっています。


現在、アメリカ国内で小売業界は大きな変化に見舞われています。

投資家向け資料

2017年に小売店の閉店が急増し、約9,000店舗までのぼっています。

企業ベースで見ると、アパレル企業の倒産は7社で最多でした。

リアル店舗の減少やアパレル企業の倒産が増加する中で、Kornitは2017年1月にAmazonとの提携を発表しました。


『Merch by Amazon』

アマゾンはアメリカ、イギリス、ドイツの3か国で『Merch by Amazon』というサービスを展開しています。

デザイナーがアマゾンのプラットフォームを活用してオリジナル製品を販売できるサービスで、アマゾンは在庫管理や物流機能を提供します。

製品はオーダーが入ってから製造を開始するため、デザイナーは在庫を抱えるリスクがありません。

Kornitはアマゾンに対してデジタルプリント機器を提供し、『Merch by Amazon』のオリジナル製品作成を支援します。

プロダクトの質を担保したいという方針から、『Merch by Amazon』は招待限定のサービスとなっています。


デザイン可能な製品の種類は主に5種類。

半袖Tシャツはアメリカ、イギリス、ドイツで利用可能です。

そのほかの4つはアメリカ限定となっており、長袖Tシャツ、スウェット、パーカーといった衣類に加え、なぜかスマホなどの持ち手として使うポップソケットもラインナップに含まれています。

デザイナーの収益となるロイヤリティ・レートは一定ではなく、製品原価や物流コストに応じてアマゾンから提示されます。

Tシャツの事例では単価が高いほどロイヤリティ・レートが高くされています。


・参考

The Future of Digital Textile Printing to 2023