今回はかつてビジネスマンの間で大人気だった携帯端末「BlackBerry」の現在に迫っていきたいと思います。
(公式HP)
BlackBerryは1984年、「Research In Motion」という名前で創業されました。
創業者はカナダ・ウォータールー大学のMike Lazaridis氏とウィンザー大学のDouglas Fregin氏。
創業時はまだ二人とも工学部の学生で、Research In Motionは北米で初めて無線技術の開発に取り組んだ企業でした。
1990年、フィルムスキャン端末「DigiSync Film KeyKode Reader」を発表し、その2年後にスウェーデン発祥の無線技術「Mobitex」を活用した初の商用無線交換器を発売開始。
1996年に2者間メッセージ通信デバイス『Inter@ctive Pager』、1998年に『RIM 950 Wireless Handheld』と、立て続けに革新的なデバイスを発表します。
そして1999年、Eメールシステム『BlackBerry』の提供を開始。
端末名というイメージが強いBlackBerryですが、実はもともとEメールシステムの名称でした。
『Wireless Handheld』と組み合わせることによって、モバイル端末から社内ネットワークへのアクセスが可能となります。
送受信が有線接続に限定されていた当時、外出先でもメールのやりとりができるBlackBerryはビジネスマンの間で大ヒットしました。
2002年に音声通話機能を搭載したモバイル端末『BlackBerry 6710』を発売し、以後はBlackBerryブランドでモバイル端末を展開していくこととなります。
2004年にBlackBerryのプラットフォームはアメリカ政府からセキュリティ認証「FIPS 140-2」を取得し、イギリスの政府機関も使用を開始。
オバマ大統領も長年のBlackBerry愛好家として知られていますが、2016年まではセキュリティ上の理由でアメリカ国家安全保障局からBlackBerry以外の使用許可が降りていなかったそうです。
セキュリティ性能の高さが評価され、金融機関やハイエンドなビジネスマンの間ではBlackBerryを持っていることがステータスにもなっていました。
しかし、スマートフォンの登場で状況は一変。
2013年に社名を『BlackBerry』に改めてブランド力の維持を図りましたが、キーボード搭載が大きな特徴だったBlackBerry端末ですが、iPhoneを筆頭とするスマートフォン勢に多くのユーザーを奪われてしまいました。
業績推移を確認してみましょう。
売上高は199.1億ドルまで達した11/2期を境に減少を続けています。
18/2期の売上高は8.7億ドルで、7年間で20分の1となってしまいました。
直近の営業利益は2.8億ドル。
5年間続いていた赤字からの脱却に成功し、営業利益率は30.4%となっています。
2008年のリーマン・ショックと2011年以降の業績悪化というダブルパンチを食らい、時価総額は10分の1以下に減少しました。
BlackBerryは現在、事業セグメントを「ハードウェア」と「ソフトウェア&サービス」の2つに分類しています。
さっそく各セグメントの売上推移を見てみましょう。
ハードウェアの売上は11/2期の164.1億ドルをピークに、現在は0.6億ドルまで減少。
ソフトウェア&サービス売上は15/2期にハードウェアを逆転し、18/2期は8.7億ドルと売上全体の90%以上を占めています。
売上の減少を受けて、BlackBerryは2016年にハードウェアの自社開発・製造から完全撤退しました。
(公式HP)
現在はODM委託により、他社が開発した製品をBlackBerryブランドとして販売しています。
日本で発売されている最新機種は『BlackBerry KEY2』で、物理キーボードは健在です。
売上高の90%以上を占めている「ソフトウェア&サービス」セグメントは「ソフトウェア」事業と「レガシーサービス」に分かれます。
ソフトウェア事業では大きく3つの収益源があります。
①企業向けセキュリティ
企業向けセキュリティサービス群である『BlackBerry Spark Platform』を展開しています。
端末管理を行なう『UEM("Unified Endpoint Manager")』、端末認証システム『2FA』、メッセージングアプリ『BBM』やコレボレーションツール『Workspaces』などをSaaSとして提供。
いずれのアプリも政府からセキュリティ認証を受けており、メールだけでなく音声通話も含めたセキュリティ保護能力の高さが特徴となっています。
また、BlackBerryは社内アプリの開発環境『BlackBerry Dynamics』も提供しています。
企業の内部ネットワークのみで利用するセキュリティ性能の高いアプリを開発することができます。
Microsoft Officeとの連携ツールも提供しており、セキュアな実装が可能となっています。
BlackBerryはアメリカ政府からの信頼が厚く、職員の70%がBlackBerryのサービスを利用しているそうです。
そのほかメディア企業のトップ5社全て、保険会社上位10社のうち9社がBlackBerryの顧客となっています。
②IoT機器向けソリューション
BlackBerryは2010年にオペレーティング・システム(OS)を開発する「QNX」を買収し、OS市場へ参入しました。
QNXは工場ロボットや医療機器、交通システムなどを制御するために用いられています。
また、近年では自動車向けのOSとしても数多く採用されています。
エンジンやハンドル動作、カーナビ通信やノイズコントロールなど、QNXを始めとするOSは自動車のあらゆる制御に不可欠な存在です。
2016年からFordとの提携を開始し、自動運転技術の共同開発をスタート。
2018年6月にはQNXの採用台数が1億2,000台を突破したと発表しました。
さらにBlackBerryは自社のセキュリティ技術を融合し、自動車向け脆弱性検知ツール『BlackBerry Jarvis』もを開発しています。
2015年にクライスラーの『Jeep』がハッキングされ、リモート操縦されてしまう事件が発生。
自動車に対するセキュリティ対策の重要性が高まっている中、『BlackBerry Jarvis』は業界内でも非常に注目されています。
BlackBerryはそのほか、QNXと組み合わせたソリューションとして物流管理システム『BlackBerry Radar』を提供。
QNXを搭載したセンサーを取り付けることで、トラックや運搬貨物をリアルタイムに追跡することができます。
③ライセンス
BlackBerryは自社ブランドのライセンス提供も行なっています。
BlackBerry端末用サードパーティ製品のほか、メッセージングアプリ『BBM』もライセンスを提供。
現在はインドネシアの「KMK ONLINE」が一般ユーザー向けのアプリを開発しています。
「KMK ONLINE」は2016年からインドネシアの大手メディア「Emtek」と提携し、決済プラットフォーム『DANA』を開発。
音楽やビデオのストリーミング配信、Eコマースやモバイル決済機能を追加し、インドネシア版Alipayとも呼ばれています。
BlackBerryはインドネシア市場で人気が高く、2014年ごろは1000万人以上のユーザーがいたとも言われています。
『BBM』は2005年からインドネシア国内で提供を開始し、累計ダウンロード数が1億を超えるインドネシアの人々にとって欠かせないアプリとなっています。
レガシーサービス
BlackBerryは「BlackBerry 7」以前のレガシーOS向け通信サービス『BlackBerry Internet Services』を提供しています。
しかし、BlackBerryはすでに携帯端末向けOSの開発から撤退してAndroidベースのOSへシフト。
現在は『BlackBerry Internet Services』の新規契約を受け付けていません。
ソフトウェア事業とレガシーサービスの売上推移を確認してみます。
レガシーサービスの売上は1.2億ドルまで減少。
一方ソフトウェアは15/2期から右肩上がりの成長を続け、18/2期は7.8億ドルまで増加しています。
ソフトウェア事業3サービスの売上構成を確認してみましょう。
企業向けセキュリティの売上は16/2期から17/2期にかけて約2倍に増加。
直近の売上は4.2億ドルと、ソフトウェア売上の50%以上を占めています。
ライセンス売上は前年から55.6%増収の2.0億ドル。
中国の電子機器メーカー「NTD」に対するライセンス提供などによって売上が増加しました。
QNXなどのIoTも堅調に増加しており、118/2期の売上は1.6億ドルとなりました。
BlackBerryのコスト構造を確認していきます。
14/2期の売上原価率が急上昇しているのは棚卸評価損("Inventory Write down")が増加したためです。
2016年9月にハードウェアの自社製造から完全撤退したことで、18/2期の売上原価率は28.1%まで低下しました。
販促費率は50.1%まで上昇、研究開発費率も上昇傾向となっています。
バランスシートもチェックしていきます。
総資産37億ドルのうち、現金・金融資産の合計は22.6億円で60%を占めています。
調達原資は株式が中心となっており、資本金及び払込資本が26.0億ドルあります。
借入金が7.4億ドル、累積損失は1.4億ドルとなっています。
キャッシュフローの推移も確認します。
11/2期以降に営業キャッシュフローが減少し、14/2期と17/2期はマイナスに。
ですが、直近の営業CFはプラスに転じています。
フリーキャッシュフローもプラスとなっており、18/2期は6.6億ドルを稼ぎ出しています。
直近5年間の株価推移も見てみます。
2017年以降は上昇傾向で、現在の時価総額は57.9億ドルです。
キャッシュ22.6億ドルと借入金7.4億ドルを加味した企業価値(EV)は42.7億ドル。
年間のフリーキャッシュフロー6.6億ドルに対して6.5年分の評価を受けている計算となります。
BlackBerryは19/2期もソフトウェア事業を軸とした成長を掲げています。
(決算説明資料)
IoT事業を成長ドライバーに挙げており、売上成長率10%以上を目指しています。
特に注力しているのは自動運転領域で、自動運転向けOSのマーケットシェアを拡大していく狙い。
Fordやジャガーといった完成車メーカーだけでなく、ボッシュやデンソー、インテル、エヌビディアなど、部品メーカーや半導体メーカーとのパートナーシップも強化しています。
営業赤字から脱却し、ソフトウェア企業としての土台が整いつつあるBlackBerryの今後に注目していきたいと思います。
平日、毎朝届く無料のビジネスニュース。
Strainerのニュースレターで、ライバルに差をつけよう。