2018年9月25日、IoTスマート家電を販売する中国企業「Viomi」が新規上場しました。
Viomiは2014年に設立され、現在は中国全土に700店舗ほどの販売ネットワークを展開しています。
主な製品としては、IoT化された浄水器やキッチンなどがあります。
創業者はChen Xiaoping氏という人物。タレントの「鶴瓶」氏に少し似ている気がします。
1999年からViomiを設立する2014年まで、Chen氏は中国の電気機器メーカー「Midea Group」で順風満帆なキャリアを歩んでいました。
インターネットに強い関心を抱いていたChen氏は、インターネットと家電を融合すればさらに顧客を満足させることができるのではないかと考えます。
2014年6月にViomiを設立。
Viomiという名前は、ラテン語で「命・生活」を意味する「Vita」とラテン語で「無限」を意味する「オメガ」が由来となっています。
「素晴らしい生活、無限のテクノロジー」がViomiのスローガンになっています。
そして同社のマークはギリシャ神話に登場する勝利の女神「サモトラケのニケ」を参考にしているそうです。
2014年7月には現在の大株主であるXiaomiから、同年1月にはセコイアキャピタルなどの著名ベンチャーキャピタルから資金提供を受けます。
(資金提供者)
2016年には現在の主力製品であるスマート浄水システムを発売。
そして2018年9月25日にナスダックに株式を上場しました。
2018年上期の売上は10億元(170億円)を突破し、2017年の年間売上をすでに20%近く上回っています。
これだけの急成長にも関わらず、営業黒字をキープしています。
2018年上期の営業利益は0.8億元(12億円)で、営業利益率7.7%ほど。
前年比で2倍以上という急成長を続けながら、なおかつ黒字をキープしているIoT系家電メーカー「Viomi」とは一体どんな会社なのでしょうか?
ViomiはF2C(factory-to-consumer)というビジネスモデルを採用しています。
Viomiは中国全土に約700ものリアル店舗(多くは非直営)を展開しており、顧客はリアル店舗にて展示されている製品を実際に体験することができます。
顧客が製品を購入したい場合は、QRコードをスキャンしてその場で購入。後日、工場から商品が直接送られてくるという仕組みです。
F2Cモデルを採用したことで店員は在庫管理の必要がなくなり、顧客サービスに集中することができるようになります。
さらにF2Cは、物流の複雑さを解消し、大幅なコスト削減にも繋がっています。
Viomiの主な売上は、「Xiaomi」へのOEM製品の販売と、自社ブランド「Viomi」として展開する自社製品の二つから成り立っています。
内訳をみてみると、自社ブランド製品よりもXiaomiブランド製品(OEM)の方が大きくなっています。
2016年はXiaomi製品の受託による売上が全体売上の9割近くを占めていましたが、2018年上期には54%にまで低下。
徐々にXiaomiへの依存度は低下してきているようです。
自社ブランド製品の中にも「Xiaomi」ブランドのOEM製品の内部で使われるものが全体の8.3%ほど含まれますが、残り(37.4%)はViomi自身が展開するオンラインストアやリアル店舗での売上です。
「Viomi Experience Store(リアル店舗)」で商品を体験して注文し、工場から発送するというモデルが基本ですが、オンラインの販売チャネルとして「Viomi Store」も展開しています。
Viomiが展開する製品は、「スマート浄水システム」「スマートキッチン」「その他」の大きく三つのカテゴリからなります。
①スマート浄水システム
一つ目は、主力製品でもあるスマート浄水システムです。
Viomiのスマート浄水システムを導入すると、家の中にある水回り機器(浄水器や洗濯機、風呂など)が自在にコントロール可能になります。
たとえば、次のような使い方ができます。
まず最初にユーザーは、AIスピーカーに向かって「水が飲みたい」と話します。
するとAIスピーカーはユーザーの顔を認識し、話しかけたユーザーの好みに合わせた水温データを浄水器に送信。
浄水器はAIスピーカーから送られてきたデータを元に1秒で適切な水温に調節してくれるそうです。
似たようなことを洗濯機やバスルームなどで行ってくれるということで、これはもう相当にスマートです。
②スマートキッチン
二つ目の看板製品は「スマートキッチン」です。
製品ラインナップはディスプレイ付きの冷蔵庫やオーブンスチーマー、食洗機、ガスストーブなど、一通り取り揃えてあります。
ちょっと変わった製品として「AI換気扇」というのもあります。なかなかのパワーワードですね。
(AI換気扇)
「AI換気扇」は、特殊なカメラで煙を認識し、状況に応じて自動で煙を吸い込んでくれるそうです。空気清浄機みたいな感じでしょうか。
(スマート冷蔵庫)
スマート冷蔵庫は正面にタッチパネルを搭載しており、冷蔵庫のタッチパネルを操作するだけで風呂の温度・浄水器の温度などを調節することができます。
スマート浄水システムと連携しているようです。
さらに、料理をしながら映画をみることも可能。
③その他
「その他」の製品カテゴリーには、洗濯機や電気温水器などを展開。Viomiにかかれば、どんな電化製品もスマートになります。
洗濯機も声で操作することができるそうです。
他にもAIを搭載した鏡「スマートマジックミラー」を展開。
マジックミラーとは英語で「魔法の鏡」という意味で、日本でいう「マジックミラー」は「One-way mirror」と言うそうです。
スマートマジックミラーには、ユーザーの肌の状態などをリアルタイムで表示する機能などがあります。これもまたスマートです。
セグメント別の売上を見ていきましょう。
2016年までは「スマート浄水システム」が売上のほとんどを占めていました。
ところが、2018年上期には「スマートキッチン」が急成長し、2.9億元(46億円)の売上。全体の27%の売上をあげています。
浄水システムも引き続き成長しており、他の売上がそれを加速させていることが分かります。
そしてすごいのが、Viomi製品を利用している世帯(Household Users)の数です。
2018年6月末時点で122万世帯が利用しており、製品出荷数は125万に達しています。
利用世帯数は「少なくとも一つ以上のIoT機器を使っている世帯の数」であり、Viomiプラットフォームのユーザーベースの大きさを表します。
Viomiは上記の製品ラインナップを「中国の新たなミドルクラス」が購入できる価格で販売しているそうです。
日本からは具体的な商品価格が分かりませんが、売上10億元を出荷数125万で割ると、単価は800元(1.3万円)くらいということになります。
ものすごい勢いで成長しているViomiですが、損益はすでに黒字となっています。
現在のコスト構造がどうなっているのか、売上に対する内訳を見てみましょう。
直近の売上原価率は72%と、ハードウェアメーカーらしくかなり高めです。
一方でセールス・マーケティング費用は14%しかありません。
Viomiの重要なショールームである「Viomi Experience Store」は基本的にはネットワークパートナーを通じて運営されており、Viomi自身は店舗運営のリスクを負っていません。
あくまでも製品を作ることに特化したビジネスモデルですね。
続いて、Viomiの財政状態についてバランスシートからチェックしてみましょう。
総資産10億元(166億円)のうち、現預金は2.6億元(42億円)ほどとなっています。
売掛金は47億元(77億円)となっており、大きな割合を占めています。
負債・純資産を見てみると買掛金が5億元(81億円)ほどあります。
キャッシュフローも見てみましょう。
2017年の営業キャッシュフローは1.2億元(20億円)ほどだったのに対し、2018年上期の営業キャッシュフローはマイナス0.18億元(-2.9億円)となっています。
上場して日が浅いViomiの株価の動向をチェックしてみましょう。
株価は全体として右肩上がりですね。時価総額は6.23億ドル(706億円)ということで、アメリカの上場企業としてはかなり小さめ。
現預金が42億円ほどあるので、企業価値(EV)は664億円ほどとなります。
上半期営業利益から年間営業利益を24億円と仮定すると、企業価値は営業利益の約27倍となっています。
最後に、Viomiの決算書に記載されている中国のスマート家電の展望について見てみましょう。
中国のスマート家電の市場規模は、2022年には8652億元(14.2兆円)にまで拡大すると予測されています。
2013年の市場規模は1340億元(2.2兆円)ほどだったので10年間で7倍ほど市場が拡大することになります。
(Viomi IR)
一般的に人は家でもっとも多くの時間を過ごします。
Viomiは家で利用するスマート家電を提供することによって、新たなマネタイズの「入り口」を掴もうとしています。
今回はIoTスマート家電を販売しているViomiについて取り上げてみました。
Viomiが中国の巨大なスマート家電市場をどのように攻略していくのか引き続き目が離せません。