不動産の含み益7556億円!戦後の荒廃した東京から始まったドミナント戦略により確固たる地位を固めた「森ビル」の事業数値をチェック

今回は、都心の代表的な不動産デベロッパーである「森ビル」について調べます。

森ビルは、「六本木ヒルズ 森タワー」をはじめ、「アークヒルズ」、「虎ノ門ヒルズ」、「愛宕グリーンヒルズMORIタワー」、「GINZA SIX」など、東京・港区を中心にオフィスビルやレジデンスなどを手がけています。


ありがたいことに、森ビルは非上場企業ではありながらIR資料を公開しています。


営業収益は1697億円から2587億円へと、この10年間で1000億円近く伸びています。 営業利益率は20%前後と高いこともわかります。 


今回のエントリでは、森ビルの創業からの歴史を軽く紐解いた上で、公開されている決算資料をまとめてみたいと思います。



戦後の荒廃した東京の町から始まった森ビルの歴史

創業者の森泰吉郎は、戦後、荒廃した東京の街をみて「ゆくゆくは焼け跡にビルを建てるつもりだ」と語ったそうです。

そして1955年、森ビルの前身となる森不動産を設立。それから2年で虎ノ門の交差点近くに西新橋1森ビルと西新橋2森ビルを完成させます。

西新橋2森ビルにはフランスの香水メーカーやインドの通信社、米国オレゴン州小麦生産者連盟などが入居。外国企業を多くテナントに迎える森ビルの特色は、最初のビルから始まっていたことになります。


1950年代後半から本格的な賃貸オフィス事業に進出。地元である新橋・虎ノ門地区に集中的にオフィスビルを建設すると、ビジネス街として地域全体を活性化し、価値を高めることに注力しました。

初期のオフィスビルには全て数字が冠され、「ナンバービル」と呼ばれています。

1960年代には高度経済成長期の到来に伴い、オフィスビルの需要も増加。それとともに森ビルも拡大していき、ビル単体ではなく街区や街路を含めた「面的開発」へと事業を広げていきます。


1978年にはラフォーレ原宿、1986年にはアークヒルズ、2003年六本木ヒルズ、2006年表参道ヒルズなど、現在も存在感のある施設を手がけていきます。

2008年には中国・上海にて「上海環球金融中心」の開発を手がけます。地上101階、高さ492mの「垂直の複合都市」として開発されました。

2014年に虎ノ門ヒルズを竣工したことは記憶に新しいですね。


森ビルの4つの事業

続いて、森ビルの事業内容を改めて整理します。

森ビルは、関係会社19社を抱える企業のグループ体で、大きく四種類の事業を展開しています。

① 賃貸事業

賃貸事業では、東京・港区を中心に、「ヒルズ」と称するオフィスや住宅、商業施設、ホテルなどからなる複合都市の開発を行っています。

その中で、所有するオフィス用ビルを直接賃貸するほか、他のオーナーから貸借し、転貸する形式もあるとのこと。


建物の設計や施工管理と管理や営業活動、不動産投資信託「森ヒルズリート投資法人」のアセットマネジメント業務、会員制ライブラリ「アカデミーヒルズ」の運営などもこの中に含まれます。


② 分譲事業

オフィスビルや住宅の分譲を行っています。個人顧客向けに分譲も行っていますが、投資家向けの不動産販売の方が売上としては大きくなっています。


③ 施設営業事業

高級ホテル「アンダーズ東京」「グランドハイアット東京」などを運営するほか、会員制クラブ「六本木ヒルズクラブ」「アークヒルズクラ ブ」を運営。

ゴルフ場やケア付高齢者住宅の運営も展開しています。


ホテル事業が208億円、会員制クラブが53億円、ゴルフ事業が21億円の収益をあげています。

④ 海外事業

中国において都市開発を展開。

上海において「恒生銀行大厦」や複合施設「上海環球金融中心」を賃貸管理しています。


それぞれの事業の収益比率は次のようになっています。


最も大きいのは賃貸事業で、全体の60%前後の収益をあげています。続いて分譲事業が20%前後、施設営業と海外事業が10%ずつを占めています。

全体の収益が2500億円ほどなので、賃貸事業は1500億円、分譲事業は500億円、それ以外は250億円ずつの収益をざっくりあげていることになります。

以下、正確な数値です。



森ビルのバランスシートをチェック:7556億円の含み益が!

続いて、森ビルのバランスシートを見てみます。

「六本木ヒルズ」などを展開する彼らの財政とは一体どのようなものなのでしょうか。


総資産は2017年3月末時点で1兆8886億円にものぼります。

そのうち最も大きいのは有形固定資産で、1兆3042億円と、かなりの割合を占めています。

現預金は3036億円。

有形固定資産のうち、大きいのは「信託不動産」で、純額で5962億円が計上されています。

同じく「建物・建築物」は2300億円、土地が4231億円計上されています。


以上の数値は、有形固定資産の「取得額」から減価償却費を引いた値ですが、最近、市況がいいので土地の含み益も莫大なものになっているようです。

2017/3期には7556億円もの含み益が報告されており、総資産1兆8886億円に対して40%もの含み益を抱えていることになります。


続いて、これらの莫大な資産がどのように調達されたかを見てみましょう。

最も大きいのは長期借入金で、9787億円あります。続いて社債が1420億円、短期借入金が675億円ほど。

資産のかなりの部分を有利子負債によって調達してきたことがわかります。

利益剰余金は3572億円ほど。


有利子負債の合計は1兆1882億円ということになりますが、森ビルの事業や3036億円の現預金に加えて、前述した7556億円もの含み益が裏付けとなっているのかもしれません。


キャッシュフローの状況も見てみましょう。

営業活動と財務活動によって調達したキャッシュを投資キャッシュフローに回していることがわかります。

年間の営業キャッシュフローは2014/3から2015/3にかけて1000億円を超えていましたが、ここ2年は少し減少しています。


投資キャッシュフローには有価証券や定期預金の収支なども含まれるので、設備投資を含んだ固定資産の収支からフリーキャッシュフローを計算してみます。

設備投資が控えめな年には、フリーキャッシュフローとして500億円以上を稼いでいますが、ここ3年間は固定資産の収支がマイナス500億円を超えており、フリーキャッシュフローも比較的小さくなっています。


その他の事業数値:2009年度以降、空室率は低下

最後に、それ以外の事業数値について、決算説明資料から拾ってみます。

オフィスの空室状況は、2010年3月期の10%から2017年3月期には2%と、大幅に低下しています。


賃貸事業のポートフォリオでは、六本木ヒルズの貸付面積が全体の42%を占めており、虎ノ門ヒルズ、アークヒルズと合わせた3拠点で全体の70%を占めていることになります。


六本木ヒルズ・レジデンスなどの住宅の賃貸についても、空室率は上のように低下しており、市況と比べても有意に低い水準にあります。

2009年度に高くなっていたのは、サブプライムショックの影響でしょうか。


まとめ

いかがでしたでしょうか。

今更ですが、東京・港区のど真ん中を中心に都市開発を進めてきた森ビルの戦略には目を見張るものがあります。

一般に、投資では「同じカゴに卵入れるな云々」などと言われますが、都心のわずか三つのビル(六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズ、アークヒルズ)で貸付面積の70%を占めている森ビルは、ある意味で究極の集中投資だと言えます。

しかし結果として、人口減少が懸念される日本の不動産業界の中で、数少ない「固い打ち手」となったと言えるのではないでしょうか。


現在も、その六本木エリア、アークヒルズ周辺、虎ノ門エリアの三つを中心に、再開発プロジェクトを進めています(下スライドの赤い部分)。


都心のど真ん中に巨大ビルを作るという戦略は、今の若い世代が真似できるような代物ではないという気はしますが、今後どうなっていくのか重要な企業の一つだと思います。