「2017年最高のCEO」と言われたジャック・ドーシーとは何者なのか(後編)

特集

前編の続きです)

その後もTwitterは、何度もサーバーダウンを繰り返しながら爆発的に成長していきました。  

ジャック・ドーシーは慣れないながらもCEOを務め、会長のエヴァン・ウィリアムズがドーシーを鍛え上げようとしていました。 

ところが当時のドーシーは、社員に対して高圧的に当たることが多く、口調もなぜか独裁者めいているという体たらく。

努力はしていたものの、自分ではどうすればいいか分からなくなる場合も多く、オーナーのエヴァン・ウィリアムズも苛立ちを募らせていきます。

しかも午後6時になると退社して絵を習ったり、ホットヨガに通ったり、ドレスメーキングを習ったりと「社外活動」に勤しむようになりました。

有名になるにつれて社外の交友関係も増え、セレブの仲間入りを果たしつつある自分に酔いしれていたそうです。

相変わらずサーバーダウンが続くにも関わらず、現実逃避的に「社外活動」を楽しむドーシーを見て、エヴァン・ウィリアムズは愛想を尽かします。

ドーシー自身はトレードマークだった鼻ピアスを外すなど「努力しているつもり」でしたが、当時の彼にとって急成長ベンチャーのCEOという役割は荷が重かったようです。

 一定の猶予期間を設けた後にジャック・ドーシーはTwitterのCEOを解雇され、実権のない会長職になりました。2008年10月のことです。


ドーシー自身は当然、そのことに腹を立てます。  

実はそれまで、Facebookのマーク・ザッカーバーグはドーシーとの間でTwitterの買収について交渉を進めていました。

ドーシーはそのことについて説得されかけていたのに、いきなり運転席から放り出されたわけです。

ドーシーはFacebookへの転職を本気で考え、実際にザッカーバーグに連絡を取ったそうです。

しかし十分な役職を得られないということでFacebookへの入社は無限延期となりました。

(もしもドーシーがCEOのままだったらFacebookに買収されていたかもしれないと思うとすごい話です)


地元の友人とともにSquareを創業

TwitterのCEOをクビになってしばらくの間、ドーシーは旅行したり休暇を楽しんでいました。



ある時、15歳のときの「上司」だったジム・マッケルビーから「電気自動車メーカーを一緒に作らないか」と持ちかけられます。

「方法が分からないけど、面白そうだね」ということで二人は一緒に事業を始めるために定期的に会話するようになります。

そんな中で、ジムがいつものように電話をしてきます。

彼は吹きガラスの職人で、商店やコレクターにガラスアート作品を売っていました。 

あるとき、お客が現金を持っておらず、ジムはクレジットカードでの支払いを受け付けることができませんでした。

そのために商品2,000ドル分を売り損ね、携帯電話とクレジットカードを使って支払えるような製品が作れないかというアイデアが生まれたのです。

当時は2008年ですから、サブプライムショックによって景気は最悪という状況。

それまでに積み上げた金融システムへの信頼は崩れ、もっとシンプルで根本的なツールが必要とされるタイミングでもありました。


ジャック・ドーシーはサーバー側のプログラムを書き始め、iPhoneアプリのエンジニアを雇い、ジムがハードウェアを作るという分担でプロジェクトを開始。

iPhoneのイヤホンジャックにカードリーダーを差し込むという方法により、クレジットカード決済を受け付けることができるシステムを開発しました。

試作品を投資家たちに見せると、彼らはそれが実際に動くこと自体に衝撃を受けます。「これはイケそうだ」ということで会社を設立。

2009年12月にはテッククランチに最初のバージョンの様子を公開しています。

Video: Jack Dorsey Talks Square And I Buy Him Coffee With It

ジャック・ドーシーによると、Squareでは銀行を除いたあらゆるシステムを全て一から内製したそうです。(ハードウェアは中国製)


 ジャック・ドーシーの仕事スタイル

Squareを創業してからのジャック・ドーシーは、人が変わったような変貌を遂げます。

風貌が教祖様のようになった時期もありましたが、CEOとして人を見下すような態度はなくなり、「賢人」的なイメージが出てきたように思います。

Twitter: Return of the Jedi, 2015)

最後に、現在のジャック・ドーシーがどのような考え方に立っているのかについてまとめてみます。

2013年、ドーシーはY Combinatorの「スタートアップスクール」で起業家たちに対してプレゼンを行いました。

その中で、彼が特に影響を受けたという本を2冊紹介しています。


1つ目は、多くの画家に影響を与えたという「アート・スピリット」という本です。

起業家と芸術家にはかなりの共通点があります。

それを示す一節として、ドーシーは「私たちは過去に成されたことを繰り返すために存在しているのではない」という文を挙げました。

テクノロジー業界でも、他の誰かがやっていることをマネするという手法があります。

それ自体は否定されるものでもないですが、誰かの後追いをするために起業家が存在するわけではない、というのがドーシーの価値観です。

ジャック・ドーシーに言わせれば、起業とは「他の人も欲しがっているという前提のもと、自分が欲しいものを作る」という一種の博打です。

賭けである以上、勝つことも負けることもあります。

一番大事なのは自分がやることに対して情熱を持つこと。だからこそ、そのアイデアは周りに対して「感染力」を持つそうです。


もう一つ、ドーシーが紹介したのは「The Score Takes Care of Itself: My Philosophy of Leadership」という本。

著者のビル・ウォルシュはアメフトの指導者で、最悪のチームを優勝に導いた実績があり、その手法について綴った本です。

プロのアメリカンフットボール選手は「自己中」の権化のような存在です。

彼らを統率するためにウォルシュは「細部に徹底してこだわる」という方法をとりました。

例えばユニフォームの着方だったり、整理整頓の仕方、電話への応答の仕方など、「やることリスト」「やらないリスト」の二つを明確化してチームに浸透させました。


ジャック・ドーシーはウォルシュのやり方に感化され、自分でも「やることリスト」「やらないリスト」を作成。その中身(の一部)を公開しています。

ちなみに、毎日のワークアウトの内容は以下の通り。

・ スクワットと腕立て伏せをそれぞれ20回、6セット

・ 30秒の「プランク」を6セット

・3マイルのランニング

・瞑想

このほか、サンドバッグを使ったトレーニングも毎日10分程度やるとのこと。

ドーシーは、これらのリストを「朝起きてから」「日中」「寝る前」と何度も目を通し、できているかどうか確認するそうです。


また、彼はノートパソコンを一切使わずに仕事をしているという話も有名です。

ジャックドーシーのメモ帳

1日のほとんどをiPhoneにあらかじめ入っている「メモ帳」アプリで過ごすとのこと。

上の二つには「Twitter」「Square」という彼が経営する二つの企業のノートが書かれています。


全体として共通しているのは、ドーシーの「シンプルであろう」という価値観です。

起業に対する考え方もとてもシンプルですし、現在のワーキングスタイルも「自分が決めたことを習慣化する」というもの。

彼はまだ41歳ということで、経営者としてはまだ20年以上活躍できるはず。これからどんな世界を作ってくれるのか、とても楽しみです。