今回はコンピュータ横編機で世界シェアNo.1の「島精機製作所」について見ていきたいと思います。
2018年7月にファーストリテイリングと島精機製作所が中長期的に協力してニット製品の開発を行なっていくという発表がありました。
ファーストリテイリング・島精機製作所の戦略的パートナーシップについて -中長期的・包括的な開発および生産に関する取り組みを強化-
また、スタートトゥデイも島精機製作所のニット製造機を活用しています。
ファーストリテイリングやスタートトゥデイが惚れこむほどのニットを作る「島精機製作所」とは一体どのような会社なのでしょうか。
創業者である島正博氏は1937年生まれ、和歌山県出身。
10代の頃から発明に夢中になっており、16歳の時には母の負担を軽くしようと手動の二重環かがりミシンを発明。
蒸気機関車の車輪の動きからヒントを得て、ミシンの仕組みを思いついたそうです。
1961年に島氏は友人らと(株)三伸精機を設立。
最初はゴム入り軍手の半自動編機の製造販売を行なっていました。
出資者は半自動編機の量産と販売に重点を置いた事業展開を望んでいましたが、島氏は全自動手袋編機の開発を目指していました。
1962年、名称を島精機製作所に変更。
1964年に全自動手袋編機を完成させ、販売を開始しました。
この全自動手袋編機は高度経済成長に伴う軍手の需要もあり、1970年代にかけて15,000台を超える大ヒットとなりました。
全自動手袋編機は成功しましたが、手袋の市場規模は小さいので次なる一手を考えていました。
そんな時、手袋を逆さにするとセーターのような形になることに気づきました。
(島正博の道しるべ )
1967年、手袋編機を応用した全自動フルファッション袴編機の販売を開始し、横編機業界に進出します。
1969年から横編機メーカーとしてスタートし、1971年にはパリの展示会に横編機を出展し国際的に高い評価を受けました。
1995年に「ホールガーメント」と呼ばれる縫い目がない革新的なニットを開発。
(島製機製作所)
着心地が非常に良く理想のニットウェアと呼ばれ、アパレル業界に変革をもたらしました。
エルメスやグッチ、アルマーニなど欧州の高級ブランドも「ホールガーメント」を販売しています。
2016年にファーストリテイリングと合弁会社イノベーションファクトリーを設立します。
島製機製作所の売上を見てみましょう。
売上は年度によってばらつきがかなりあります。
2018/3期の売上は719億円、2013/3期から増加傾向となっています。
2013年からの売上増加率を計算してみると2016/3期を除いて15%以上の増収。
かなりハイペースな売上増加となっています。
2018/3期の営業利益は149億円と、2014/3期から売上に伴って増加しています。
2018/3期の営業利益率は20.7%と高いことがわかります。
島精機製作所では事業を大きく4つに分けることができます。
①横編機事業
島精機製作所のコアビジネスとなっている、横編機事業では「コンピュータ横編機」や「ホールガーメント横編機」を販売しています。
横編機素人なので違いはよくわかりませんが、Webに掲載されているだけでコンピュータ横編機は12種類、ホールガーメント横編機は5種類あります。
(島精機製作所)
②デザインシステム関連事業
服をデザインするためのソフトウェアを販売しています。
模様のシミュレーションや、3Dでモデルに着せたりすることができるみたいです。
③手袋靴下編機事業
手袋や靴下を作成するための編機を販売しています。
(靴下編機)
④その他
ニット製品のWeb販売、ホテルや飲食店の経営などを行なっています。
それでは事業別の売上を見てみましょう。
コア事業である横編機事業が売上を伸ばしています。
2018/3期の横編機事業の売上は594億円と全体の83%を占めています。
地域別の売上を見てみると、アジアでの売上が圧倒的に増加しています。
アジアの売上が伸びている理由は2つあり、1つ目は先進国向けアパレルの大量生産拠点であるバングラデシュなどで効率化が進んでおり、主力製品のコンピュータ横編機の販売が拡大しているため。
2つ目は中国でのアパレル消費の拡大に伴って、高付加価値化へと生産体制を転換する動きが拡大しており、ホールガーメント横編機の導入が加速しているためです。
バランスシートを確認してみましょう。
2018年3月末時点において、総資産1,543億円のうち、現預金246億円となっています。
売掛金は700億円と資産の半分ほどを占めています。
資産の源泉となっている負債・純資産を見てみると利益剰余金900億円、資本金と資本剰余金の合計407億円と大部分が純資産からきていることがわかります。
営業キャッシュフローは安定していないものの、プラスになっていることが多いです。
2018/3期のフリーキャッシュフローは68億円。
株価は2016年7月ごろから上昇して、2018年2月をピークに減少傾向にあります。
時価総額は1707億円なので、現預金や有利子負債を考慮した企業価値は1,529億円。
企業価値はフリーキャッシュフローの約22年分となっています。
最後に中期経営計画を確認しておきましょう。
島精機製作所では2018年度から2020年度を「成長を加速させるフェーズ」と位置付けています。
2020年度に売上1,000億円、営業利益250億円を目標としています。
売上は毎年12%ずつ伸ばしていけば達成できる目標になっています。
セグメントごとの目標を見てみると、今後もコア事業を中心に売上を伸ばしていく計画となっています。
デザインシステム関連事業やその他は合わせて65億近く売上を増加させるようです。
重点施策を4つあげていますが、注目すべきは②独自性をもった事業範囲の拡大と③収益構造の改革です。
②独自性を持った事業の拡大
ホールガーメント横編機は洋服の3Dプリンターともよばれており、自動車・航空宇宙・医療など他業界への応用が可能となっています。
(ホームページ)
繊維素材をホールガーメント横編機で立体的に編み上げ、硬化剤で固めることで作る自動車部品の開発も行なっています。
丈夫で軽い部品を作ることができれば、電気自動車に繊維部品を提案する方針もあるそうです。
エルメスも採用「和歌山のエジソン」開発の編み機世界へ-島精機
③収益構造の改革
島精機製作所では横編機などの機器販売による売上がメインとなっているため、収益が安定していません。
そこで、アフターセールスの強化など持続可能な収入基盤を強化しようとしています。
逆に言えば、機器の販売は順調に伸びているので、安定した売上を積む余地はまだまだあるということです。