定期課金(サブスクリプション)に関するツールを企業向けに提供する「Zuora」がニューヨーク証券取引所に上場することが発表されました。
Zuoraの資料によれば、 サブスクリプション型の企業はS&P500企業と比べ、9倍のスピードで成長しているそうです。
アメリカでは、2015年に年間4200億ドルがサブスクリプションサービスに使われており、2000年の2150億ドルと比べると二倍近くに増加しています。
こうした追い風の中で、企業がサブスクリプション・ビジネスを提供するためのツールを提供しているのが「Zuora」です。
Zuoraは、 2007年にSalesforce出身のTien Tzuo(現CEO)によって創業されました。
2008年には名門ベンチャー・キャピタルの「ベンチマーク・キャピタル」と、Salesforceの創業者であるマーク・ベニオフからの出資を受けています。
今回の記事では、Zuoraの事業についてもう少し詳しくチェックした上で、上場申請書類(Form S-1)に書かれていた決算数値についてまとめます。
Zuoraは定期課金という形態を深く信じるあまり、「Subscription Economy®」という概念を、商標まで取得して提唱しています。
彼らのストーリーによると、古い経済(Prodct Economy)では、「モノ」を中心にしたやりとりが主流だった一方、「Subscription Economy®」という新しい世の中では、全ての中心は「関係性」となります。
「モノ」ではなく「関係性」が中心になると、企業は「製品」や「取引」などではなく、「どれだけ顧客のために動けるか」という能力によって生き残れるかどうかが決まります。
また、売上の傾向が予測しやすくなるため、経営者や投資家にとっても事業の評価がしやすいというメリットもあります。
だから、「サブスクリプションは誰にとっても素晴らしいものだ」というのがZuoraの主張です。
報告書(Form S-1)の説明を見ると、Zuoraは自社の事業について次のように説明しています。
「We provide cloud-based software on a subscription basis that enables any company in any industry to successfully launch, manage, and transform into a subscription business.(あらゆる業界のあらゆる会社が、サブスクリプション・ビジネスを開始し、管理し、変化できるようなクラウドベースのソフトウェアをサブスクリプションベースで提供している)」
少しややこしいですが、「企業がサブスクリプション・ビジネスを運営するためのサービスをサブスクリプション型で提供している」とのこと。
ちなみに、日本でも「テモナ」という会社が似たようなビジョンで上場しています。
さて、Zuoraが展開する製品には、大きく次の5つがあります。
① Zuora Billing
創業して最初に開始したサービスで、企業向けの定期課金決済ソリューションを提供しています。
毎月、毎四半期、毎年など、自由に定期課金の期間を設定することができ、課金に失敗した場合の再請求など、定期課金に必要な機能を取り揃えています。
② Zuora CPQ
「CPQ」とは「Configure Price Quote」の略で、顧客に応じた価格設定や契約内容を管理するためのソフトウェアです。
クラウドサービスの法人営業では、「いかにして顧客に最適なプランを提供し、収益を最大化するか」というのが大きな課題となります。
Zuora CPQは、営業管理ツール大手の「Salesforce」と連携することで、顧客に尋ねられるよりも先に、彼らにとって最適の物を提供できるようにするとのこと。
③ Zuora Insights
Zuora Insightsは、定期課金にまつわるあらゆる分析を可能にするツール。
サブスクリプション・ビジネスの大きなメリットは、「LTV(Life time value)」や「MRR(Monthly recurring revenue)」「Churn rate(解約率)」などの指標により、ユーザーの行動を定量的に分析して、サービスの改善につなげられることです。
一方、ある程度決まり切った分析であるにも関わらず、実際に計算するのはなかなか大変です。そこをソフトウェアツールとして提供しよう、というのが「Zuora Insights」です。
④ Zuora RevPro
Zuora RevProは、いわゆる繰延収益(deferred revenue)をはじめとした売上管理のためのソリューションです。
企業の規模が大きくなればなるほど、支払いの状況やタイミングを把握するのは重要になります。
さらに、契約内容の変更などがあるともう大変です。難しいところは正直、私にもわかりませんが、その辺りをよろしくやってくれるソフトウェアのようです。
⑤ Zuora Collect
名前の通りですが「集金」のためのツールです。
多様な企業が色々な支払い方法を用いて、いろんな方法で支払いに失敗するため、それを集めるのは大変です。
Zuora Collectでは、顧客に応じてより賢く、自動で集金する仕組みが備わっているとのこと。
以上の5つがZuoraの提供する具体的なソフトウェア製品ですが、それ以外にも「Zuora Central Platform」という総合プラットフォームも提供。
また、顧客の応じたカスタマイズソリューションとして「Zuora Connect Marketplace」として80ものアプリを50もの開発パートナーが提供しています。
続いて、開示資料(Form S-1)からZuoraの事業数値を拾っていきます。
まずは最も大きな特徴である「顧客数」の数値です。
Zuoraは2018/1期時点で1億6793万ドルを売り上げていますが、顧客の数はわずか971社しかありません。
平均すると、1社あたり1万7294ドル(200万円弱)を支払っていることになり、かなり高い数字です。
さらに、ACVが10万ドル(約1000万円)を超える顧客が415社にのぼっています。
(Annual Contract Value:年間契約額)
これだけの金額を支払ってくれる顧客が多数いるというのは大きな特徴と言えます。
続いての特徴として「リテンション・レート(売上ベース)」が100%を超えている点が挙げられます。
リテンション・レートとは、「顧客がどれだけ留まっているか」を表す指標です。
基本的に、顧客は一定の確率で離脱していきますから、これが100%を超えているというのは驚異的な数字です。
どうして100%を超えるかというと、リテンションレートを売上ベースで計算しており、既存顧客にアップセル(顧客単価を上乗せすること)しているため。
少し見辛いですが、上のグラフは、既存顧客の契約更新をのぞいだ年間契約高(ACV)の内訳を表しています。
一番上が「新規顧客の契約高」、下二つが「既存顧客へのアップセル」であり、下二つの割合がこの3年で大きく拡大してほとんど半分に達しています。
Zuoraは、サービスの付加価値をどんどん上げていくことにより、既存の顧客単価も上昇させてきたことがわかります。
最後に、過去3年の決算数値をザーッと見ておきます。
まずは全体業績の推移です。
2016/1期の売上高は9218万ドルでしたが、2018/1期には1億6792万ドルにまで増加しています。
2018/1期の売上成長率は48.6%。
売上の内訳
1億6792万ドルのうち、サブスクリプションで稼いでいるのは1億2037万ドル。
残り4755万ドルは「プロフェッショナルサービス」で売り上げています。この中には、顧客への技術サポートや、ソリューションの最適化、トレーニングなどが含まれています。
地域ごとの売上も見てみます。
アメリカの売上は1億2527万ドルほどで、残り4265万ドルを海外で売り上げています。
資産
総資産は1億5537万ドルで、そのうち現金同等物は4821万ドル。
買収によるのれん(Goodwill)が2061万ドルあります。
Zuoraは、2017年5月31日に「Leeyo Software」という会社を総額3520万ドル(うち現金2920万ドル)で買収しています。Leeyoは、Zuoraが現在提供するプロダクトのうち「RevPro」を開発していた会社。
負債と自己資本
バランスシートの反対側です。
「Additional paid-in capital」が大きいことから、株式発行で資金を調達してきたことがわかります。
「Accumulated deficit」が2億5869万ドル。
キャッシュフロー
営業キャッシュフローはまだマイナスです。
決算数値を見る限りでは、まだまだこれからの会社ということが言えそうです。
今後も「サブスクリプション」という流れが進んでいくことが予想される中で、Zuoraがどのように成長していくのか、勉強しつつチェックしていきたいと思います。
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