世界屈指のGPUメーカー「NVIDIA」の2019年1月期2Q決算についてまとめたいと思います。
さっそく売上高の推移を見ていきます。
今四半期の売上高は31.2億ドルで、2年前から倍増しています。
2017年度の後半から高い増収率を維持しており、今四半期は前年から40%の増収となりました。
営業利益は前年から68%増加の11.6億ドルです。
営業利益率は37.1%となっており、右肩上がりに収益性が高まっています。
AIブームとともに存在感を高めている「NVIDIA」の好調が止まらない要因を探っていきたいと思います。
NVIDIAが販売するGPU(Graphics Processing Unit)とは、並列的な計算処理を得意とする装置です。
「Graphics」という名称にあるように、GPUは瞬時にピクセルごとの配色を算出しなければいけない画像データのような、「簡単な計算を並列で大量に行なう処理」を得意としています。
ちなみにGPUという言葉自体もNVIDIAが作ったとのこと。
NVIDIAは自社がターゲットとするGPUの領域を「ゲーミング」「ビジュアル」「データセンター」「自動運転」「OEM・知財」と5つに分類しています。
領域別の売上高をチェックしてみましょう。
近年はデータセンター向けの売上高が伸び続けており、前年から82%増加して7.6億ドルとなっています。
データセンター市場が活発となっている理由として、高性能処理(HPC)、世界規模のインターネットサービス、そしてクラウドコンピューティングへの需要拡大が背景にあります。
(決算説明資料より)
各領域でディープラーニングの活用が進むことでGPUに対するニーズが高まっており、三つの領域で合計500億ドルのTAM(実現可能な市場規模)があるとしています。
各領域について詳しく見ていきましょう。
①高性能処理(HPC)
高性能処理(HPC)は医療機関や研究所などで用いられています。
解析や科学シミュレーションでは大f量の計算が求められるため、並列処理が得意なGPUがHPCに採用されることが増えています。
NVIDIAはすでに各国トップの研究機関を顧客に抱えており、日本の東京工業大学も名を連ねています。
②世界規模のインターネットサービス
Alibabaやebay、Twitterなど、巨大なサービスは世界中で利用されています。
各社はレコメンドエンジンやAIアシスタントなどの開発でしのぎを削っており、膨大な消費者データをディープラーニングによって活用する取り組みを進めています。
FacebookのAI研究所においてもNVIDIAのGPUが採用されています。
③クラウドコンピューティング
AWSやGoogle Cloud Platformといった汎用クラウドはもちろん、各産業のトップ企業でもクラウドコンピューティングの活用が進んでいます。
特にヘルスケアや輸送サービスの市場は大きく、NVIDIAの主要顧客であるGEヘルスケアの医療機器ソリューション、コマツのスマートコンストラクションなどが代表例として挙げられます。
上スライドの「Future Industries(未来の産業)」として何をイメージしているのか気になるところ。
これら3つの成長市場に対して、NVIDIAでは次のような大戦略を掲げています。
それは、GPUだけでなくソフトウェアなども含めたディープラーニング・プラットフォームを提供するというもの。
2018年3月時点で2,000以上の会社がNVIDIAの『GPU Cloud』を採用しており、AIブームをけん引する役割を担っているといえます。
一方、NVIDIAのメイン市場であるゲーミング領域も伸び続けています。
ゲーミング市場向けの売上高は前年から52%増加しており、売上全体の58%にあたる18.1億ドルを稼ぎ出しています。
Amazon傘下のゲーム配信サイト『Twitch』では、同時接続数が100万人近くとなり、大手テレビチャンネル『CNN』よりも大きくなっています。
また、中国のゲーム配信サイト『HUYA』ではMAUが9,000万人を超えるなど、ゲーム市場では動画配信が盛り上がりを見せています。
動画配信と親和性の強いPCゲームの人気向上とともに、ゲーミングPCの需要も高まっています。
PCゲームはタイトル数が急増しており、ゲーム販売プラットフォーム『Steam』におけるPC向けタイトルはPS4の約4倍に増加しています。
eスポーツやVRなどの領域が盛り上がりを見せる中、上スライドの赤ワク部分に示したように、NVIDIAの『GeForce』の市場シェアは圧倒的なレベルに達しています。
データセンターとゲーミングという2大市場が引き続きNVIDIAの成長をけん引していくことは間違いなさそうです。
データセンター市場の活性化とともに地域ごとの売上構成も変化しています。
3年前まで1.7億ドルだった中国での売上が、4倍以上の7.6億ドルまで増加しています。
その他アジアは前年から61%増加して6.8億ドルとなっています。
構成比の推移をチェックしてみましょう。
中国とその他アジアの占める割合が徐々に増加し、今四半期は46%に達しています。
(Synergy)
調査会社「Synergy」が発表したデータセンター所在地の統計によると、米国が44%と最も大きな割合を占め、続いて中国が8%、日本が6%を占めています。
また、シンガポールは国家戦略として海外データセンターの誘致を積極的に行なっており、GoogleやAmazonなどもシンガポールにデータセンターを設置しています。
データセンター向けの売上が増えるに伴い、売上の地域構成も中国やその他アジア各国へとシフトしていることがわかります。
業績拡大とともに、NVIDIAのコスト構造は軒並み改善しています。
売上原価率は36.8%、販管費率は7.6%となっており、いずれも前年より低くなっています。
研究開発費に関しては横ばいの18.6%でしたが、ここ3年間の推移を見てみると減少傾向にあります。
NVIDIAは前四半期の決算資料において、高付加価値なGPUの販売が増加していることをコスト低下の要因として挙げています。
前述のようにゲーミング市場やデータセンター市場でハイスペックマシンの売れ行きが好調であるため、NVIDIAの収益性は右肩上がりに高まっているといえます。
最後にNVIDIAの財政状態をチェックしておきます。
総資産は128.8億ドルあり、そのうち79.4億ドルが現金・金融資産と潤沢なキャッシュを保有しています。
資産の調達源泉として最も大きいのは利益剰余金で109.6億ドルほど。払込資本の56.8億ドルも合わせると総資産を上回っています。
NVIDIAは78.2億ドル分の自社株を取得しており、積極的に株主還元を行なっています。
2019年上半期時点のキャッシュフローも確認してみます。
営業キャッシュフローは右肩上がりに増加し、上半期の時点で既に23.5億ドルを稼ぎ出しています。
なお、2019年上半期に投資キャッシュフローが増加しているのは有価証券(marketable securities)71億ドルを購入したためです。
2Q時点でのフリーキャッシュフローは21.1億ドルとなっており、年間では40億ドルを上回る見込みが高くなっています。
株価の推移をチェックしてみましょう。
直近1年間でも着々と上昇を続けており、現在の時価総額は1,609億ドルとなっています。
現金・金融資産の79.4億ドルを差し引くと、EV(企業価値)は1,530億ドル程度。
今年度のフリーキャッシュフローを40億ドルと見積もると、38.2年分の評価を受けているということになります。
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