急成長中の中国・深センに保有する自社工場を再開発することを目指す「宮越ホールディングス」

適時開示を全て読むという取り組みをはじめてみたのですが、世の中には自分の知らない面白い企業がたくさんあるようです。

1日に500件もの決算発表があっても、その中で本当に読み込むのは数10社だけだったりするので、気合いと根性があれば続けていけそうです。

さて、そんな中で見つけた「宮越ホールディングス」という会社が興味深かったので、少し掘り下げてみたいと思います。

宮越ホールディングス


電機メーカーとして深センに工場を展開

宮越ホールディングスの創業は1966年ということで、かなり歴史のある会社です。

代表の宮越邦正氏は25歳のとき、東京で「東邦電機製作所」を創業、電子部品メーカーとして事業を開始しました。

1975年から77年にかけては長野県の企業4社の経営権を獲得し、生産拠点とします。


転機となったのは1977年10月。

中国政府から教育用テープレコーダーの製造技術指導の要請を受け、上海無線電第二工場と合作事業を開始。

これが日中国交正常化から最初の中国進出企業ということで、NHKの「日中経済交流をめぐって」という番組に取り上げられます。

その後も色々やっていきますが、1987年に深セン経済特別区に、13.6万㎡の土地を取得し、工場をつくって音響・映像機器の現地生産を開始。

当時は作れば売れるという時代で、ソニーのウォークマンの廉価版(ソニーではない)などを販売して従業員7,600人、年商1,200億円まで膨れ上がったそうです。

しかし音響機器業界の絶頂期はあまり続かず、徐々に会社全体を縮小していきます。


その後、2011年10月に東証一部に上場しますが、業績は思わしいものとは言えません。

2011年度には売上が86億円あったものの3億円の赤字。

その後は事業規模をどんどん縮小していきますが、一方で経常利益は徐々に拡大しています。

その結果、直近では売上高13.4億円、経常利益10.2億円という謎の高収益企業となったのです。


そして、その転機となったのが2014年に「投資会社への転身」を決意し、深センの自社工場を再開発し、アジア最大のイノベーション・センターを目指すというもの。

これだけ聞いた印象では「トンデモ企業」という印象は否めません。

しかし、深センが人類史上最速で発展した都市であるというのは事実ですし、テンセントやファーウェイ、DJI(ドローンで世界シェア8割以上)などの企業がある一大工業都市です。

宮越ホールディングス資料

都市別GDPではすでに上海、北京について3番目の規模となっており、一人当たりGDPは16万元(260万円)と中国トップです。

そして、実質GDP成長率(1980〜2015年平均)は23%と驚異的な成長を30年以上もの間続けており、2015年の財政収入増加率は20%。

2018年上半期の実質成長率は8%ということで、徐々に落ち着いてはいるものの、高成長であることに変わりはありません。


なんだか面白そうなので、公になっている情報を整理してみたいと思います。


深セン工場の再開発の発端

まずは、どうしてこういうことになったのかを経緯についてまとめてみます。


宮越社長によれば、深センにある土地の再開発は5年くらい前から準備を勧めていました。

しかし、2013年に尖閣諸島問題が深刻化し、日中関係が悪化。日本にいるとあまり実感はありませんが、中国側ではかなり大変で、プロジェクトが進まなくなってしまったそうです。


ところが、前述したように深センは今、中国でもっとも勢いよく成長している都市。

放置している間に土地の価格(使用権)がほぼ2倍となり、さらに付加価値の高い開発計画を描けるようになりました。

彼らが抱える土地の広さは東京ミッドタウン(赤坂)の1.2倍程度。

中国はそれまで「世界の工場」として発展を目指していましたが、2016年スタートの5か年計画では「イノベーション駆動」が大きな方向性の軸となりました。


そして2017年には深セン市が、(宮越グループの土地がある)福田区を「マンハッタンとシリコンバレーを合わせたような金融・ハイテク文化の中枢に」という中長期発展計画を発表。

そこで、宮越ホールディングスでは土地を「イノベーション」に焦点をあてて再開発を進めることにしました。

名前は「WIC(ワールド・イノベーション・センター)」。


イノベーション・センターとして世界の有力企業を500社集める構想

しかし、深センにイノベーション関連の施設はすでに多く点在しています。

やるからにはまだ存在しないものを作ろうということで、宮越グループは「共同研究施設」「実証実験設備」「試作工場」「ワーキングスペース」など、研究から商品の初期制作までをトータルでカバーする施設を構想します。

そして、中国だけでなく世界から有力企業を500社集めようという構想を市に提案。

深セン市政府の担当者は、実現すれば外資で一番になれますよと太鼓判を押したそうです。


具体的なプランとしては、中国各地から有力企業250社を中国政府の協力のもとで集める。

そして、日本、アジア、欧米、アジアから250社を宮越グループが集めるという形です。


日本の会社が中国・深センに行っても誰に話せばいいかわからない、という場合にこのワールド・イノベーション・センターを通して入りこめるようにするわけです。

例えば、日本のメーカーが「こんな製品を構想しています。興味のある企業はいませんか」と声をかければ、その中にいる250社の中国企業からパートナーを集められるというわけです。

もともとの工場用地のうち一部を深セン市に譲渡(道路建設のため)したものの(譲渡益42億円)、依然として東京ドーム3個分の広さがあるそうです。

深セン再開発予定地の全景

ワールド・イノベーション・センターの開発はまだ着手していないようですが、7月1日に中国に訪問し、正式な開発認可を受けるのを待っているようです。


現在は若者向けの賃貸物件を管理

このように、ワールド・イノベーション・センターの開発はすでに進んでいるかというとそうではありません。

それでは、ここのところどうやって収益をあげているのでしょうか?

2016年3月期までに、創業事業である電機機器の製造からは100%撤退しています。

そして、新しくはじめた不動産開発・賃貸事業の売上が13億円前後で安定しています。


しかし、不動産開発の中心であるはずの「ワールド・イノベーション・センター」はまだ開発に着手すらしていないフェーズです。

どうやって収益をあげているのでしょうか?

こちらは2012年3月期の有価証券報告書ですが、工場の空き地部分にて若者向けの賃貸物件を運営しているようです。

深センの中心地の土地にアパートをもっていれば、軽く年に10億円以上の収益は安定して稼げてしまうということでしょうか。

利益率は非常に高く、76%という超高水準に達しています。


デット・エクイティ・スワップで借入金がほぼ消失

財政状況についてはどうなっているのでしょうか。


総資産は155億円あり、そのうち65億円が現預金です。

かなり手元現金は潤沢ですが、それ以外に「貸付金」が69億円あります。

「貸付金は保有債券の売却によって生じた」と説明されており、明確な説明はないものの、以前の電機機器製造事業からの撤退に関連しているのかもしれません。

そして、土地を有形資産として保有しているわけではないため、代わりに「土地使用権」が11.48億円ほど計上されています。

中国政府は外国人や外国企業が土地を買う権利を認めていないため、代わりに土地の「使用権(借地権)」に関する契約をかわします。


バランスシートの反対側を見てみましょう。

77億円もあった借入金がわずか2億円にまで減少し、資本金と資本剰余金が104億円まで増えています。

これは、2017年7月に完了したDES(デット・エクイティ・スワップ)によるもの。

宮越ホールディングス資料

デット・エクイティ・スワップとは、その名の通り借入金などの負債を株式と交換するというもの。

貸付金を提供した側は、債権を対象企業の株式に転換することができ、借りていた企業側としては、返さなくてはならない負債が消えて無くなるため、自己資本の比率がその分増大するということになります。


イナゴタワーをたびたび生成

いつもは事業の内容が(自分にとって)わかりやすいテクノロジー企業を中心に調べていますが、今回はかなり変わり種の宮越ホールディングスについて調べてみました。

全体の印象としては、やはり100%信じられないというか、実際どうなるんだろうなーという感覚は否めません。


過去の株価の推移をみると、定期的にイナゴタワーを形成しては落ち着くということを繰り返しているようです。

現在の時価総額は375億円。

直近の営業キャッシュフローは10億円近くを稼いでいますが、毎年あまり安定しているわけではなさそう。


深センプロジェクトには総額1,200億円を投資するそうですが、その際のファイナンスがどうなるかを含めてどうなっているのか極めて不透明。

結論としては、「たまにはこういう企業をみるのも勉強になるなあ」という感想を持ちました。

うまくいけば近いうちに深セン市からの開発認可が降りるはずですが、実際どうなるのでしょうね。