仮想通貨分野が盛り上がりを見せる中、「ブロックチェーン」という言葉を耳にする機会も増えてきました。
ブロックチェーンは「分散型台帳」ともいわれる情報技術であり、ビットコインをはじめとする暗号通貨の中核テクノロジーです。
ブロックチェーンの特徴は「中央管理者が存在しない」ことで、そのために「データの改ざんが難しい」など多くのメリットがあります。
その一方、2018年1月にはコインチェックで580億円相当の「NEM」が盗難されるという大事件も起こりました。
課題も大きいとされるブロックチェーン領域ですが、依然として高い期待を集める領域であることに変わりはなく、国内大手企業にも着手している企業が少なくありません。
そこで今回は、ブロックチェーン技術を積極的に研究・開発している国内大手企業を7社ほど取り上げ、その取り組みについてまとめてみたいと思います。
まずは世界の「TOYOTA」です。
トヨタは、2016年1月に人工知能研究の新会社「Toyota Research Institute, Inc(TRI)」をアメリカで設立しました。
TRIはカリフォルニア州パロアルト(スタンフォード大がある)とマサチューセッツ州ケンブリッジ(ハーバードとMITがある)にそれぞれ拠点を設けています。
トヨタは2015年9月にスタンフォード大とMITそれぞれと人工知能の連携研究を進めると発表しており、取り組みを密に進めるための体制として両方に拠点を設置しているようです。
人工知能研究新会社Toyota Research Institute, Inc.(TRI)の体制および進捗状況を公表
TRIは、5年間でおよそ10億ドルという予算のもとでAI研究に取り組んでいます。
TRIの大きな研究トピックとして「自動運転」があります。
TRI社は、自動運転を可能にするためにブロックチェーン技術を活用し、利用者とサービス提供者を直接つなぐ方法を検討しているそうです。
(ブロックチェーンに懸けるトヨタの深謀をもとに著者が作成)
ブロックチェーンを利用すれば、以下の3つのことが実現可能になるそうです。
①走行データの管理
自動運転技術を実現するためには、何億キロもの走行データが必要になります。
将来的には、その走行データ取引市場が拡大すると見られており、データ管理にブロックチェーン技術が有効だと考えているそうです。
②料金・鍵の受け渡し
カーシェア・ライドシェア市場がこれからますます拡大していく中で、鍵の受け渡しなどを利用者間で直接やりとりできるようになります。
③自動車保険の最適化
ブロックチェーンでによって走行データを管理できるようになると、運転者の走行データに応じて保険の掛け金を変動させることができます。
トヨタからすると、車の「所有」という概念を消しかねないUberなどは大きな脅威です。
ブロックチェーン技術を活用することで自動車メーカーと利用者が直接取引できれば、トヨタのような自動車メーカーが直接サービスを提供する未来がくるのかもしれません。
続いては、日立製作所です。
日立製作所はKDDIと連携し、自社の生体認証技術(PBI)とブロックチェーンを活用したクーポン決済サービスを開発し、2018年7月に実証実験を行いました。
(日立のプレスリリースより)
この技術が実用化されれば、盗難や漏えいのリスクが低い生体データを秘密鍵利用できるようになり、クーポンの不正利用などを未然に防ぐことができるようになるそうです。
また、「Hitachi Blockchain PoC 環境提供サービス for Hyperledger Fabric」としてブロックチェーン環境を企業向けに提供するサービスも展開しています。
(引用:日立製作所サイト)
続いて、国内住宅メーカー大手の積水ハウス。
積水ハウスは2017年度にbitFlyerと提携し、ブロックチェーンを使ったシステムの構築・運用を開始しています。
内容は、bitFlyerが開発した次世代ブロックチェーン「miyabi」およびそのスマートコントラクトの仕組みによって賃貸住宅の管理システムを構築すること。
積水ハウスは、不動産契賃貸契約がホテルを予約するような手軽さでできることを目指しており、将来的には、物件案内から募集、契約までブロックチェーン上で管理すると発表しています。
現在は、東京・神奈川でしか運用されていないようですが、2020年から本格的に運用を開始する予定。
(引用:積水ハウスサイト)
続いては、野村総合研究所。
(引用:野村総合研究所サイト)
子会社のNRIセキュアテクノロジーズ社において、ブロックチェーン技術を活用したシステムやサービスを対象としたセキュリティ診断サービス「ブロックチェーン診断」を、日本で初めて提供開始しています。
特に、スマートコントラクトの中に脆弱性があると大きな脅威があるということで、あらかじめ診断して予防してくれるということのようです。
内容は、プログラム自体を分析する「静的解析」や、実際に攻撃などを試みる「動的解析」の双方を使って脆弱性を洗い出すというもの。
続いては、日本電気(NEC)です。
2018年2月にNECは、毎秒10万件以上の記録が可能な「世界最速」のブロックチェーンアルゴリズムを開発したと発表しました。
NECが開発したブロックチェーンのすごい点は、2つあります。
①処理速度
ビットコインの記録速度が毎秒7件であることを考慮すると、毎秒10万件という記録速度は、凄まじい速度です。
②取引情報のプライバシーを保護
取引記録の公開を制限することができる機能がつけられています。
これによってブロックチェーンには、不向きと言われていた個人情報の管理も可能になりました。
NECは金融機関と連携を進めるとともに、金融以外への需要にも対応していくようです。
(引用:NECサイト)
次は、リクルートの活用事例です。
採用活動に利用
2016年5月、リクルートの子会社リクルートテクノローズは、ドイツのテクノロジー企業ascribeと技術協力し、転職者と企業採用者の間の履歴書公証データベースを開発しました。
これが普及すれば、今まで紙で管理していた契約書や公的証明書の確認をブロックチェーンのデータベースで確認することが可能になります。
これにより転職活動者が複数の公的証明書を収集する労力が軽減される他、採用担当者も機密文書をこれまでより正確に取り扱うことが可能になります。
その他にも、2017年9月には、アイドルフェスを舞台にブロックチェーン技術を活用した実証実験を実施。
アイドルフェスに利用
フェスのコンテンツに合わせてカードアプリを作成。
アプリでは、アイドルカードの売買を個人間で行うことができ、その個人間取引にブロックチェーンが活用されています。
(引用:リクルートテクノロジーズサイト)
続いて大手広告代理店「電通」の取り組みです。
2018年5月、電通の子会社である電通国際情報サービスは、宮崎県綾町と連携し、ブロックチェーンで農産物の生産・流通・消費履歴を保証するトレーサビリティ実証実験を開始しました。
この実験の目的は、3つあります。
①生産過程だけではなく、流通や最終消費まで含めた農産物のサプライチェーン全体の取引履歴をブロックチェーンで保証できるのかという点。
②ブロックチェーンに記録された情報が、どのように顧客の注文行動に影響を及ぼしうるかという点。
③農産物の取引履歴がブロックチェーンによって担保・可視化されることで、サプライチェーンに関わる個々人や、その周囲(SNSでのつながりを含む)の人々の行動にどのように影響を及ぼすかという点。
この実証実験は、宮崎県綾町の協力農家とレストラン「REALTA(千代田区)」の間で行われ、流通経路は一般の宅配サービスを利用されました。
(引用:電通国際情報サービスサイト)
今回は、ブロックチェーン技術に取り組んでいる国内大手企業をまとめてみました。
ブロックチェーンというとスタートアップが取り組んでいるというイメージが先行していましたが、意外と国内大手企業も取り組んでいるんですね。
これからも引き続きウォッチしていきたいと思います。