今回は、日本で飲食業向けメディアプラットフォームを展開する「シンクロ・フード」を取り上げます。
創業者の藤代真一氏は1973年生まれで、大学院卒業後に経営コンサルティング会社「アンダーセンコンサルティング(現・アクセンチュア)に入社。
IT部門でエンジニアとして働いたのち、30歳で退職して2003年に設立したのが「シンクロ・フード」です。
藤代氏の実家は、ホテルやレストランに野菜を配送する青果卸を営んでいました。
その中で、父親から「新規の飲食店を探して営業をかけるのが難しい」と聞かされていました。
そのことを思い出して開設したのが、飲食店の出店開業に特化した「飲食店.COM」です。
当初はお金を稼ぐのに苦労しましたが、粘り強く営業を続けることで徐々に物件を登録してくれる不動産会社が増えます。
現在は、出店だけでなく食材発注や内装デザインなど幅広くジャンルを広げ、13万人ものユーザーが登録しています。
2016年には東証マザーズへ上場し、1年後には東証一部に指定。
また、2018年3月には「(株)ウィット」を子会社化し、飲食店のM&Aにも参入しました。
現在は「食の世界をつなぎ、食の未来をつくる」をミッションに掲げ、「革新的な“食のプラットフォーム”になる」ことを目指しています。
2018年3月期の売上高は13億7700万円、営業利益は5億9500万円でした。
売上高・営業利益ともに増加し続けており、営業利益率も43.2%と高水準にあります。
東証一部企業としては売上規模が小さいシンクロ・フードですが、その好調の要因はどこにあるのでしょうか?
事業内容や経営計画を整理して考えてみます。
シンクロ・フードが提供しているのは「飲食店向けメディアプラットフォーム」です。
(参考:会社ホームページ)
サービスの主な対象は中小事業者で、飲食店のライフサイクル(出店→運営→退店)に合わせて様々なサービスを提供しています。
収益の77%を占めるのが飲食店の運営に関するサービスです。
運営サービスとしては求人や仕入れ・発注のマッチングが挙げられます。
求人サービスとしては、月19,800円で掲載可能な飲食店に特化した求人サイト「求人@飲食店.COM」や、
外国人向け飲食求人情報サイト「Food Job Japan」があります。
また飲食店と業務用卸業者のマッチングサービス「食材仕入先探し」は、広告料や成約料など多様なマネタイズを行っています。
また、Webで発注業務を一本化できるツール「PlaceOrders」も無料で提供しています。
その他のサービスは以下の通りです。
出店準備
開業・新規出店希望者と不動産会社のマッチングサービス「飲食店.COM 店舗物件探し」
出店・開業に関するマニュアルの提供「出店開業の準備」
出店
厨房用品や備品のECサイト「厨房・備品を探そう」
飲食店と店舗内装のデザイン・施工会社のマッチングサービス「店舗デザイン.COM」
新規出店のプレスリリースをまとめた「飲食店PR.COM」
退店
移転・閉店する事業者の居抜き物件の売却を支援する「居抜き情報.COM」
飲食店の事業譲渡のマッチングサービス「飲食M&A」
中核事業である「飲食店.COM」のユーザー数の推移を見てみましょう。
2018年3月期末のユーザー数は129,069件で、直近5年で倍以上に成長しています。
国内に飲食事業所は51万6000件あることを考えると、まだまだ潜在的な利用者はいると考えて良さそうです。
一方、有料サービス利用者は7,350件でした。
有料ユーザーには「店舗物件探し」に月額課金するような形態と、「求人@飲食店.COM」「厨房備品購入」にその都度利用料を支払うような形態の2つがあります。
単純計算すると、有料サービスを利用しているのはユーザー全体の6%ほどということになります。
7350人の有料ユーザーの単価は平均して年間149,602円です。
したがって有料サービスの売上は年間約1億900万円で、シンクロ・フードの売上高の80%がこれによって賄われていると推測できます。
一方、不動産事業者や食材仕入事業者等の各事業者数の合計は3,732社。
また、求人サービスを利用している求職者数は9万3000人でした。
シンクロ・フードは、自社の強みを①独自性、②収益性、③安定性、の3つとしています。
飲食店のライフサイクルをすべてカバーするというビジネスモデルは、模倣が難しい独自のプラットフォームです。
また、様々な媒体を通して流入したユーザーがプラットフォームないの別サービスを回遊することで営業コストに対して高い収益性を実現しています。
さらに、飲食事業者とマッチング対象の事業者双方から利用料をとることで、安定的に収益を得ることができています。
シンクロ・フードは2018年4月からの3年間で中期経営計画を策定しています。
計画の中では、2021年3月期に売上高30億円・営業利益11億円を目指すとしています。
売上高30億円に関しては、2018年3月期までと同様に毎年30%ほどの成長を続けられれば達成可能ですが、どのように成長していくプランなのでしょうか。
成長戦略①:プラットフォーム”力”の強化
まず挙げられているのは、プラットフォーム機能の強化です。
シンクロ・フードはこれまでも飲食にまつわる領域を幅広くカバーすることで、プラットフォームとしての提供価値を強化してきました。
今後も「予約管理」など未だにサービス展開していない領域に、M&Aや提携も利用して参入していく方針です。
特に採用・教育・集客領域は飲食店経営の大きな課題であると考え、重点的に新サービス開発を行うとしています。
また、ユーザーや登録事業者を増やすため、営業体制を強化するとしています。
さらに、物件・求人データの活用やマーケティングデータの提供等も進めていく予定です。
成長戦略②:エリア拡大・深堀り
2013年には大阪、2017年には名古屋に支社を設置し、国内の飲食店についてはすべてカバーできる体制になったようです。
今後は各拠点の営業体制を強化し、プラットフォーム利用者の増加を目指します。
また、海外展開を見据え、市場調査や飲食店業務を調査している段階です。
アジア・北米において現地企業とも連携しながら、特に国内ユーザーの海外進出や海外の日本食レストランに対する経営支援をサービスを展開していく予定です。
成長戦略③:飲食周辺ビジネスへの展開
さらに、飲食業と関連するビジネスでの事業展開として給食市場を考えています。
国内給食市場は高齢化を背景に拡大傾向にあり、その規模は約4.5兆円ほど。
調理師や栄養士のマッチング等人材サービスを展開していくとしています。
以上の3つのプランで2021年3月期に売上高30億円・営業利益11億円を達成した上で、長期的には2023年に「NO.1の食のプラットフォーム」として確固たる地位を築くとしています。
最後に財政状態について確認します。
資産
総資産は25億6100万円で、そのうち現金は22億2300万円です。
メディア事業一本でここまで成長してきたこともあり、キャッシュリッチな体質になっています。
負債・純資産
借入金は440万円ありますが、全体からすれば微々たるもの。
資本金や利益剰余金が積み上がっており、自己資本比率は84.4%と非常に高水準です。
キャッシュフロー
営業キャッシュフローは少しずつ増加していて、堅実な経営といえます。
一方で、投資に関しては2018年3月の「ウィット」子会社化以外に特に大きな動きはないようです。
今後の戦略次第では、一気に投資が増えることも考えられます。
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは4億3900万円でした。
株価はここ半年ほどは低調です。
時価総額は230億円で、現預金が22億円あるので、市場から208億円の価値があると評価されていると考えることができます。
それに対し、年間4.4億円のキャッシュフローを生み出すので、48年分の評価額が付いていることになります。
ここまで独自のビジネスで堅実に成長を続けてきたシンクロ・フードですが、今後は新領域への進出や、海外展開など大きな動きが出てきそうです。今後の展開には要注目です。
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