給与計算SaaSで躍進する「Paycom Software」:営業利益率20%へ

今回は急成長中の人事クラウドSaaS企業「Paycom Software(ペイコム・ソフトウェア)」についてまとめます。

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創業者のチャド・リッチソン氏はオクラホマ出身の47歳(2018年現在)。

セントラル・オクラホマ大学でマス・コミュニケーションとジャーナリズムを学んだ後、大手人材企業で営業職としてキャリアをスタート。

その後、地方企業で給与管理業務を経験し、1998年に地元オクラホマへ戻って創業したのが「Paycom Software」です。

最初は給与計算のオンラインサービスから開始し、2001年からは勤怠管理やタレントマネジメントなどといったHR領域全体へソリューションを拡大。

PEファンドに株式を譲渡したのち、2014年にニューヨーク証券取引所へ上場しました。

2017年にはFortune「最も成長が早い企業100社」で第2位、Forbes「最も成長が早いテクノロジー企業25社」で第4位に選ばれており、働きやすい職場としても高い評価を受けています。


過去7年間の業績を見てみましょう。

売上高は2011/12期の5720万ドルから、2017/12期には4億3304万ドルと6年間で約9倍に。

2014年の上場後は営業利益率の上昇が著しく、2017/12期は18.2%まで達しています。


アメリカ内陸の片田舎にあるオクラホマの一企業が、ここまでの急成長を遂げている理由はどこにあるのでしょうか?

サービス内容や成長戦略について探っていきたいと思います。


HR領域の多彩な機能をオンサイトで導入支援

Paycom SoftwareがSaaSで提供するのは、HR領域の基幹業務パッケージです。

従業員の「採用から退職まで」を一つのアプリケーションで完結できる、5つのソリューションを展開しています。

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① Talent Acquisition(採用)

一つ目は、採用の管理ツールです。

応募者の情報やレジュメの管理、面接日程のスケジューリングまで、採用に関わる機能を一通りカバーしています。

また、課税所得や控除額の計算アプリ「Tax Credits」も提供。

② Talent Management(タレントマネジメント)

二つ目は、従業員のエンゲージメントをあげるためのタレントマネジメントツールです。

従業員一人一人の目標管理をベースとしたパフォーマンス管理のほか、就労にまつわる学習管理システム(LMS)を提供。

従業員やマネージャー(管理職)を対象として、セキュリティやパワハラ、差別に関する教育コンテンツを提供しています。

③ Payroll (給与管理)

創業時から提供しており、ほぼ全てのクライアントが導入している看板ソリューションです。

「Paycom PAY」は従業員の給与口座を開設できるサービスで、個々の口座管理をなくすことで複雑な振込設定や支払確認などの業務を効率化します。

競合のHCM企業は給与管理を外部委託しているケースが多く、勤怠実績などが統合されたデータベースからひとつのアプリケーションで給与計算を行えるのが大きなメリットです。

④ HR Management(人事業務管理)

4つ目は、コンプライアンスや福利厚生などの人事業務を自動化したり、簡単にするためのツール群です。

⑤  Time and Labor Management(勤怠管理)

そして最後が、勤怠管理ツールです。

インターネット上で完結できる打刻ツールや、シフト管理、労働状況の分析などを提供。

タイムカードをモバイルと連動させることもできたり、いわゆる「オバマケア(Affordable Care Act)」の書類作成にも対応。


Paycom Softwareの顧客企業数を確認してみましょう。

2012/12期の9233社から、2017/12期は2万591社と5年間で導入企業が倍増。

顧客は、親会社をたどると同一のグループ企業に属する場合も多く、その場合の重複をなくすとおよそ1.1万社となります。


売上の構成比を見てみます。

収益のほとんどは「継続収益(Recurring revenue)」です。

2017/12期の4億3304万ドルのうち4億2452万ドルと、98%を占めています。


顧客あたりの売上も計算してみましょう。

顧客あたりの売上を計算すると、2013年までは1万ドル程度だったのが、2017年には2.1万ドルを突破しています。

ちなみに、売上ベースの継続率(Retention rate)は91%(2012/12期〜2017/12期までの各年度)とのこと。

アメリカの上場SaaSでは、既存顧客へのアップセルにより、継続率(売上ベース)が100%を超えるケースも少なくありません。

顧客単価が上昇していることを考えると、顧客数ベースでの解約率はもっと高いのかもしれません。


財政状態

続いて、Paycom Softwareの財政状態についてチェックしてみましょう。

総資産は13.5億ドルありますが、そのうち「Funds held for Clients」が10億8920万ドルと80%以上を占めています。

これは給与や納税の支払い代行業務において取り扱った金額で、同業の老舗「Paychex」も同じような資産構造となっています。

現金同等物は4,608万ドル。

そのほか、有形固定資産が1億4770万ドルが大きくなっています。この理由は、自社ビルでおよそ6,000万ドルを計上しているから。


続いて資産の源泉である負債と自己資本です。

やはり大きいのは「Client funds obligation」で、総額10億8,920万ドルにのぼっています。

それを除くと大きいのは利益剰余金(Retained earnings)で、1億3725万ドル。

利益剰余金とほとんど同額を自社株買い(Tresury stock)によって還元しています。


キャッシュフローについても確認してみます。

営業キャッシュフローが年々拡大しており、2017年には1億3,060万ドルに達しています。

投資キャッシュフローが大きくマイナスになっているのは「Funds held for Clients」の変化によるもので、財務キャッシュフローがプラスなのも「Client funds obligation」の影響です。

どちらも支払い代行業務によるものですね。。

その影響を取り除いてみると、以下のようになります。

営業キャッシュフローのきれいな右肩上りに合わせ、投資と株主還元を拡大していることが分かります。

フリーキャッシュフローは7121万ドルで、着々とキャッシュを積み増しています。

さすがの優良企業だけあって、株価は右肩上がりに伸び続けています。

直近の時価総額は62億ドル。

1年で稼ぎ出すフリーキャッシュフロー7121万ドルの87年分の評価額。

創業50年近く経つ老舗で、営業利益が12億ドル(Paycom Softawareの15倍)のPaychexの時価総額が250億ドルですから、たった4倍ちょっとの差しかありません。

市場からかなり大きな成長期待をかけられていることがわかります。


HCM市場の80%以上を占めるアメリカ国内にフォーカス

順調に成長するPaycom Softwareですが、投資家からの期待はそれ以上に大きくなっています。

今後も成長を続けていくことができるのでしょうか。


彼らは、これまでの成功要因の一つに「中小企業をメインターゲットとしたこと」を挙げています。

これもPaychexと同じですね。

契約に至るまでの営業サイクルは30日〜90日。スタートアップならではのスピード感で顧客を増やしてきたことが分かります。


しかし、機能のバリエーションを見ても分かるとおり、一口にHCMといっても求められる要素は多岐にわたります。業務要件もクライアントによってさまざま。

そこでPaycom Softwareは、セールスが導入までオンサイトで支援しています。

顧客のニーズに応じて必要な機能を選定、カスタマイズできることも次々と導入企業数を増やしている要因となっているようです。


SaaS企業でありながら「足で稼ぐ」スタイルのPaycom Softwareですが、市場をどのように捉えているのでしょうか。

上場初年度である2014年度のアニュアルレポートでは、グローバル全体のHCM市場規模290億ドルのうち、240億ドルはアメリカ国内だとしています。

Paycom Softwareのシェアは1%ほどで、まずは国内市場を取りに行くことに重点を置いています。

(ちなみに、Paychexの売上は32億ドルほど)


そのための主戦略は、やはり「営業力の強化」です。

2018年現在のセールスチームは46チームあり、国が定めた"MSAs"(アメリカ合衆国大都市統計地域)50都市のうち35拠点まで進出を果たしています。

さらに今後2年間で、10〜14のオフィス増設を計画。


基幹業務システムは既存のプレーヤーが強大ですが、オンプレミスからクラウドへの切替タイミングに差し掛かっていることも確か。

中小企業中心に事業を拡大してきたPaycom Softwareですが、顧客単価の上昇からも見て取れるように、クライアントの規模は徐々に拡大しているようです。

今後は大規模クライアント獲得によって顧客単価を上げていけるかどうかも成長のカギを握りそう。

シリコンバレーでもニューヨークでもなく「オクラホマ」から成長企業となったPaycom Softwareが今後どのような成長を遂げていくのか注目です。