今回は、新たに上場が発表された台湾のインターネット企業「M17 Entertainment」についてまとめたいと思います。
(17 Media Japanより)
創業は2013年5月のことで、オンライン・デーティング・プラットフォーム「Paktor」をシンガポールで運営開始。
Paktorは2015年8月には台湾、2016年5月には韓国に進出しています。
2016年7月には同じく台湾でデーティングアプリを展開する「Goodnight」を買収。
2016年8月には「Down, Inc.」を買収。
2016年10月と2017年1月、Paktorは「Machipopo, Inc.」の株式36.8%と9.44%をそれぞれ1000万米ドル(以下ドル)、260万ドルで買収。
2017年3月には株式交換により完全子会社としています。
主力のライブ動画プラットフォーム「17 Live(17 Media)」は、2015年7月に台湾のHiphopアーティストJeff Huang氏が開始したサービス。
台湾では、すでにテレビよりもインターネットの視聴者が上回り、テレビCM広告よりもインターネット広告のシェアが大きくなっているそうで、そんな中で生まれたのが「17 Media(Machipopo)」でした。
2015年10月に日本のVC「Inifinity Ventures」が中心となり1010万ドルを出資。
2017年12月までに日本、香港など海外にもサービスを展開しています。
2017年7月には、台湾で「17 TV」「17 Music」、11月にはECプラットフォーム「17 Store」も開始しています。
2018年4月には日本での成長を加速するため、Infinity Venturesが中心となって展開していた「17 Media Japan Inc」の買収に合意。
今回のエントリでは、「17 Live」を展開する「M17 Entertainment」がどういう会社なのか、発表された決算資料からまとめてみたいと思います。
まずは、全体業績をチェックしてみましょう。現在の形になってから日が浅いので少しややこしいですが、2年間の損益の推移をグラフにしてみます。
M17 EntertainmentとMachipopo(買収前)の合計数値です。
2016年の売上は768万ドル。日本円にして8億円程度ですから、それほど大きな規模ではありません。
同じく営業損失は1511万ドルと、売上よりも大きい損失を出していました。
それが、2017年には売上9,008万ドルと、前年比11倍以上という急激な成長を遂げています。
営業損失はPro forma(形式上の見積もり)で4378万ドルありますが、何より売上の増加率がとんでもないレベルです。
ちなみに、売上の内訳は次のようになっています。
2016年時点での売上はM17が368万ドル、Machipopoが400万ドルという水準でした。
Machipopoはその後、買収が完了する3月までに1058万ドルを売り上げ、その後買収してからはM17の売上に算入されています。
「17 Live」が極めて短い期間の中で爆発的に成長したことがうかがえます。
収益カテゴリーごとの内訳(買収前のMachipopoは含まず)はこのような感じ。
当然ながらライブ動画サービスの売上が大きいですね。デーティングも倍増してるけど。
2017年3月にMachipopo買収が完了したあとの四半期ごとの変化も見てみましょう。
2017/3期だけはMachipopoが算入されていないので、Machipopo単体の数値を合算しています。
こうしてみると、四半期ごとのグングン収益が伸びていることがよく分かります。計算すると、この2四半期は20%ずつ伸びています。
直近の売上は3790万ドルですから、年間ベースで1億ドルは優に超える勢いです。
ただ、依然として大きな赤字。一体何にお金を使っているのでしょうか。
売上原価(Cost of revenue)が売上の72%と、インターネットサービスとしてはかなり大きな金額を占めています。
販売費用(Selling expenses)も売上の52.56%と大きな割合を占めています。
売上原価には具体的にどんなコストがかかっているのでしょうか?
M17のみ(買収前のMachipopoは含まず)の内訳があったので、みてみます。
売上原価6550万ドルのうち、実に4755万ドルと、72%がレベニューシェアによる費用です。
チャンネル費用は910万ドル、サーバー・ネットワーク費用も456万ドルと大きいですね。
営業費用としては、マーケティングに2714万ドル、従業員への報酬に1420万ドルを費やしています。
続いて、基本的な事業数値についてもチェックしてみます。
まずは、サービス種類ごとのアクティブユーザー数です。
意外にも、ライブストリーミングサービスのMAU(月間アクティブユーザー数)は100万人程度と、めちゃくちゃ多いというわけでは決してありません。
むしろ、デーティングアプリのMAUが70万人ですから、規模としてはそれほど変わりないレベルです。
しかし、ライブ動画の課金ユーザー数は大きく伸びています。
直近では3万2,038人に達しています。1年で2.3倍。
そして、課金ユーザーあたりの課金額も伸びています。
月平均の課金額は、2017年9月までの3ヶ月間には月間388ドルに達しました。
エンターテイメントサービスで月に4万円も課金するということは滅多にないですから、ものすごく熱狂的なコミュニティであることがうかがえます。
その後、平均課金額は少し減少気味ですが、純粋に母数が増えたことによるものと思われます。
ユーザーの課金率(月間アクティブユーザーあたり)は1年で二倍に伸び、3%を超えています。
そして、マーケティング上、重要になっているのが「契約アーティスト」の存在です。
アーティストと契約して「17 Live」上で動画を配信してもらうことを狙っているわけですが、その数は2017年3月の1,627人から直近では7,719人と、1年で4.7倍に増やしています。
続いて、M17 Entertainmentの財政状態についてもチェックしておきます。
なんだかすごいことになっています。
総資産は1億3518万ドルあり、そのうち8526万ドルが「無形資産(Intangible assets)」。
そして、そのほとんどは「Machipopo」買収によるのれん(Goodwill)です。6733万ドル。
そのほか、現金同等物は3135万ドルあります。
これだけのお金をどこから引っ張ってきたのでしょうか。
資産の源泉は、かなりの部分が「Financial liabilities at fair value」として計上されています。合計で1億3608万ドル。
この内訳についても見てみましょう。
このうち多くは優先株式で、その他にワラント、転換社債もあります。
今回、ニューヨーク証券取引所へのIPOを果たし、優先株と転換社債は自動的に普通株式に転換されることになります。
つまり、上場前の時点では債務超過(負債 > 資産の状態)ではありましたが、上場とともにそれも解消されたことになります。
しかし、営業キャッシュフローはまだまだマイナスで、2018年Q1だけで1451万ドルのマイナスとなっています。
昨日のIPOでの上場株価は8ドルとなり、資金の調達額は6,000万ドルになったとのこと。期待よりは小さかったようです。
M17 Entertainment prices IPO at $8, below the range
「17 Live」の成長からわかるように、アジアでのライブ動画市場の成長はものすごいものがあります。
ただ、爆発的な成長は同社だけではなく中国の「Momo」「YY」などにも起こっていることであり、韓国の「AfreecaTV」や日本の「SHOWROOM」など、各国に強力なプレイヤーがいます。
売上は爆発的に増加しましたが、そのほとんどはサービスをスタートした台湾におけるもので、全体の82%という割合を占めています。
しかし、台湾の人口は2357万人と、市場としては小さいのが現実であり、近い将来に頭打ちがくることは避けられません。
その一方で中国市場は巨大ですが、競争環境は熾烈すぎます。
ライブ動画という性質上、インターネットインフラもかなり整っている必要がありますし、実は直近で注力できるアジア市場は日本や韓国以外にないのかもしれません。
アメリカにも進出していて、ここで勝てたらすごいですが。
参考資料
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