2000年に「孫正義賞」を獲得!モバイル端末管理をベースに研究開発への投資を拡大する「オプティム」

オプティム

AI・IoTなどのライセンス販売・保守サポートサービスを行うベンチャー企業「オプティム」について見ていきたいと思います。

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・学生時代に3人でスタート

創業者の菅谷俊二氏は1976年、神戸生まれ。

小学2年でコンピュータに触れ、小学3年の時にはアドベンチャーゲームを作って友達に売っていました。

小学6年では弱い電気ショックを使った目覚まし「起きなさいよ!!」を電子工作コンテストに応募し佳作入選するなど、ものづくりへの興味が強い少年でした。


中学時代に、創業パートナーとなる野々村耕一郎氏、高校時代には同じく徳田整治氏と出会いました。

1996年に3人は大学生となり、国内初の価格比較サイト「秋葉原仮想電気街」を作ります。

3人は佐賀、新潟、大阪と別の大学に通っていたため、予定を合わせては東京に集まり、秋葉原などで野宿をしながら飛び込み営業を行なっていました。

・オプティムの誕生、そして国内シェアNo.1へ

2000年には、大前研一氏がプロデュースしたビジネスプランコンテストに応募。

「ファイルダウンロードの待ち時間に広告を流す」というアイデアで孫正義賞(特別賞)を受賞すると、ソフトバンクから「アイデアを買い取りたい」と交渉されます。

しかし、「自分たちでやりたいから」という理由でこれを断ります。

受賞により勢いがついた彼らは、佐賀の橋口電機社長、橋口弘之氏からの出資をえて2000年に会社を設立。

2001年にはダウンロードプロモーションサービス「i-CM」の提供を開始。


2009年スタートしたパソコン向け管理システム「Optimal Biz」は、2014年にMDM市場で3年連続国内シェアNo.1を達成。

2014年にマザーズに上場し、2015年に東証1部へと市場変更しました。

特許技術を多く保有しており、社員の8割がエンジニアという、技術中心の会社です。


オプティムの業績推移を見てみましょう。

売上高は2012/3期から2018/3期にかけて、13億円から42億円まで増加。

経常利益は2017/3期には6億8,200万まで増加していますが、2018/3期では4億400万と減少しています。

創業以来、毎年売上を伸ばし続けているオプティムとは一体どんな会社なのでしょうか?

今回のエントリでは、オプティムの事業と財務状況を見ていきたいと思います。


企業向けの端末管理ツール「Optimal Biz」を提供

オプティムの事業は「IoTプラットフォーム」「リモートマネジメント」「サポート」「その他」の4つに分類されます。

① IoTプラットフォームサービス

IoTプラットフォームサービスの中心事業は、企業向けに提供する端末管理ツール「Optimal Biz」です。

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これは、スマートフォンやタブレットなどの端末をクラウド上で管理できる法人向けクラウドサービスであり、ウィルス対策やウェブフィルタリングなどの機能も搭載。

「MDM(Mobile Device Management)ツール」と呼ばれるもので、企業がスマホやタブレットを活用する上で必要なもの。

企業にとって、デジタル端末による情報漏洩などリスク対策の面でも、社員に提供する端末について包括的に管理することが重要なのはいうまでもありません。


近年では、学校などでもスマホやタブレットなどデジタル端末の利用がすすみ、MDM製品のニーズが高まっています。

佐賀県内の全県立高校では新入生向けにOptiomal Bizが導入されています。 


②リモートマネジメントサービス

リモートマネジメントサービスは、通信事業者などがヘルプデスクからユーザーの端末を遠隔操作することができるというもの。

具体的には「Optimal Remote」を提供しています。

他にも、スマートフォン、タブレットのカメラ映像を共有し、リモートで指示ができる遠隔作業支援サービス「Optimal Second Sight」、国内初となるスマートフォンやタブレットで遠隔診療できる「ポケットドクター」を提供しています。

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③サポートサービス

ネットワーク上のトラブルを診断して、原因の特定・解決を行えるツール「Optimal Diagnosis & Repair」を提供しています。

エンドユーザーは自己解決ができ、サポートセンタはコール回数を減らすことができます。

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④その他サービス

個人や法人向けにウィルス対策ソフト、オフィス互換ソフト、電子書籍が定額制で使い放題となるサービスを展開しています。

タブホ


他にもセキュリティマネジメントサービスとして、不正遠隔操作をするウィルスの挙動を検知しユーザーに気付かれないように遠隔操作を行うファイルを停止、削除する「Optimal Guard」を提供しています。


サービス別の売上高を見てみましょう。

2018/3期における売上高は、IoTプラットフォームサービス28億円、リモートマネジメントサービス6億円、サポート1億円、その他5億円となっています。

IoTプラットフォームサービスの売上高は2014/3期6億円から増加しており、直近の構成比は67.1%と、かなりの部分を占めています。

サポートサービスの売上は減少していますが、その他の売上は軒並み増加しています。


財務状態:収益性の低下によりキャッシュフローは悪化

ここで、オプティムの財務状態について確認してみます。

2018年3月末時点の総資産は36億円あり、そのうち現預金が16億円。

2017年3月末時点では現預金20億円だったので、4億円ほど減少していることになります。


資産の源泉である、負債・純資産について見てみましょう。

利益剰余金が17億円と最も大きく、資本金と資本剰余金の合計は11億円となっています。

借入金はなく、オプティムが自社事業と株式発行によって調達したお金で事業を発展させてきたことが分かります。

キャッシュフローも見てみます。


営業キャッシュフローはマイナス4,755万円、投資キャッシュフローもマイナス3億9,543万円、財務キャッシュフロー5,064万円。

2017/3期と比べて営業キャッシュフローが減少しており投資キャッシュフローの支出が増加しています。

まずは営業キャッシュフローから見てみましょう。

税引前利益が7億318万円から4億491万円まで減少した一方、法人税等の支払額が4億6,137万円に増加したため、営業キャッシュフローがマイナスになっています。

税引前利益が減少したのは、単に営業利益自体が減っているからです。

それでは、どうして営業利益が減少したのでしょうか?

コストの変化について見てみます。

販売管理費は、売上に対して64%と、過去と比べてそれほど増加したということはありません。

その一方、売上原価率は26%と、前年の18%と比べると大幅に増加しています。


売上原価の内訳を見てみましょう。

売上原価は6億円から11億円へと、2倍近くに増えて居ます。

「他勘定振替高」として売上原価から差し引かれた分が17億円あり、そのほとんどは「研究開発費」です。

「他勘定振替高」を足し戻した費用は28億円あり、前年の19億円から9億円の増加。

二つ上の表をご覧になればお分かりのように、その多くは「経費」で、20億円あります。その内訳を見てみましょう。

「外注費」が13.5億円と、前年から5億円近く増加。

どうやら、研究開発活動の一貫として外注費を増やしたことが、オプティムの利益率を押し下げる要因となったようです。

実際、オプティムのAI・IoT・ロボティクス分野における開発人員は「384人月」と、前年から2.2倍に増加。エンジニア目線では「人月計算かよ」と思ってしまいますが。

研究開発への積極投資が利益率を押し下げ、営業キャッシュフローを減らしてしまったことは間違いありません。

オプティムの時価総額は355億円となっています。

株価は横ばいですが、利益が増えていない現状をよく表していると言えます。


無人店舗やドローン農業への研究開発に注力

オプティムの利益や営業キャッシュフローが増えていない一因は、「研究開発に積極的な投資を行なっているから」ということが分かりました。

彼らは、積極投資の先にどんな未来を描いているのでしょうか?

2019年までは、AIやIoT、ロボティクスなどの分野に研究開発への投資を続けていきます。

そして、2020年度からは利益を回収することを予定しているそうです。意外と近いですね。


なかなか明確な目標ですが、現時点ではどんな成果をあげているのでしょうか?

2018年度は「農業」「建設」「医療」「小売」の領域をITと掛け合わせるというテーマで研究開発を行いました。


農業分野ではドローン・AIを活用した世界初のピンポイント農薬散布テクノロジーによる大豆の栽培に成功しています。

小売分野では「モノタロウ」の無人店舗を佐賀大学内にオープン。

モノタロウ ホームページより

アプリでQRコードを発行して入店し、欲しい商品のバーコードをスキャンしてアプリ内のカゴに入れて商品を取り、アプリから決済して、退店用QRコードを使って退店するという流れ。  

商品を持って出るだけで支払いが完了する『Amazon GO』ほどスタイリッシュではないですが、とにかく前に進んでいるようです。


ただ、こういった事業が本当にあと数年で利益につながるのか、疑問に感じるところも否定できません。

幼少期から発明家肌の創業者が率いるオプティムが、今後どんな展開を見せてくれるのか、今後もチェックしていきたいと思います。


参考資料

上場会社トップインタビュー「創」